ファンの人たちの中ではずっとアイドルとしていれたら
──ディレクターの田中さんにも本作のことを伺いたいんですけど、三部構成という構想はどのようにスタートしたんでしょう。
田中:所属レーベルMUSIC@NOTE担当のヨシダさんが『ALICE』を聞いた時に、「タニヤマさんの曲がすごく物語性があっていい」って言ってくれて。最初は4部作で物語を紡いでいきましょうって提案をいただいたんです。そこから、タニヤマさんと宮沢賢二とか三島由紀夫とか世界中の神話とかをモチーフに考えてみたんですけど、どうも今回はハマる気がしなくて。久しぶりに「オズの魔法使い」をパラパラとめくっていたら、「これ、まさにミシェルじゃん!」と思ったんです。もともとMIGMA SHELTERって成立するのが難しいグループで。それぞれの個性がうまく噛み合えば噛み合うし、噛み合わなければ本当にバランスが保てない。それぞれの課題に取り組んで、一緒に行動して1つのかたまりになることがグループに必要だよね、っていうことはずっと思っていて。
──そうしたグループの特異性を以前から田中さんは語っていましたよね。だからこそ、あまりメンバー全員が揃うインタビューを積極的にやってこなかった部分もある。
田中:なので「オズの魔法使い」をモチーフにしてると言いながら、実際はMIGMA SHELTERについての話なんです。みんな何かが抜け落ちているけど、みんなと一緒にいることによって補い合える。勇気なり、知性なり、感情なりを表に出すことができないだけで、みんなちゃんと持ってるし、それを3部作を通して描ききりたい。
──その第一部である本シングルでは、どのような物語が描かれているんでしょう。
田中:1曲目の「Tornado」は、物語が始まる前の話なんですよ。「オズの魔法使い」って冒頭、ドロシーが家にいたら竜巻で犬のトトと一緒に飛ばされて、マンチキンっていう国に墜落するんです。その時、マンチキンを支配していた東の魔女が家の下敷きになって死んでしまう。そしたら彼女に支配されていた小人たちに喜ばれるんです。そのあと現れた北の魔女が、家に帰りたがるドロシーに「エメラルドの都にいるオズの魔法使いに頼めば帰れるかもよ」って伝えるんです。そして、ドロシーがオズの魔法使いに会いに行く途中で、脳みそのないかかし、心のないブリキのきこり、それと勇気のないライオンに出会う。4人はオズの魔法使いから「西の魔女を倒したら帰り方を教えてあげる」って試練を突きつけられるってお話なんですよね。
──その序章部分が、本作の「Tornado」と「Emerald」なんですね。
田中:お話の中で、最初に死んでしまう東の魔女がどういう人だったのか触れられていないんです。どうしてそんな支配をしようとしていたのか、なぜ支配的だったのかをミシェルなりの人物像として描いたのが「Tornado」。プロローグ。まだ本編じゃない。タニヤマさんは物語に合ったメルヘンチックな歌詞を書けるんですけど、僕は割と男女のドロドロした感じの歌詞ばっかり書いちゃうので、最初の「Tornado」では「相手を縛りつけたり我儘し過ぎた人は、いずれ天罰のようなもので身を滅ぼす」という意味の詞を書いたんです。2曲目の「Emerald」は、物語を色々すっ飛ばしてマンチキンに着いている設定なので、今後のリリースで補っていく予定です。(※作詞の「空五倍子(うつぶし)」は田中の別名義。)
タマネ:そうやってできた曲だって、いま初めて聞きました。
田中:自分で考えることができないかかし、感情がないブリキのきこり、勇気がないライオン、家に帰りたいのに帰れないドロシー。それぞれが、考える力を取り戻すために、感情を取り戻すために、勇気を取り戻すために、家に帰るために、みんなで冒険をして試練を乗り越える。でも、本当はみんなの中にちゃんとそれはあったんだということがだんだんと明らかになっていくのって、すごいアイドルグループ的だなって。自分の中にちゃんとあるものが開花していく。それぞれに課題を持ってる人たちが集まって一緒に何か達成する、ということがミシェル自体の課題でもあります。

──そうした田中さんの楽曲へ重ねた想いもそうですし、グループ自体が変化している時期だと思うんですね。みなさんは、この先物語が進んでいく中で、ミシェルをどのようなグループにしていきたいと思いますか?
ユイノン:ミシェルはもともと初めて観た人も気になるパフォーマンスをしていたグループだと思うんですけど、アイドルとして気になってくれて初めて見た人に踊り狂ってほしい。アイドルっぽく可愛く、でも狂ってて、気持ち悪くも楽しいグループにしていきたいです。
タマネ:踊るとか、揺れるとか、いろんな見方があると思うんですけど、自分なりの楽しみ方をお客さんに見つけてもらえるよう、私たちが広めていけるように親しみやすくしていきたい。1分1秒を争う世界だと思うので、このタイミングで駆け上がっていくようにしたくて。かかとからつま先まで使って、ちゃんと踏みしめてステップアップしていけるように、私たちができること見つけていけたらと思っています。
ミミミユ:この作品がきっかけで、人間性をステージ上でも伝えられることができるようになりたいです。そして愛してもらえるようになりたいです。
ワニャ+:一緒に楽しんで作っていきたいし、成長していくのをお客さんと一緒に実感したいと思っていて。私は今まで、周りの誰かがすごいからそれに着いていくみたいなとこがあったけど、ファンの方と一緒に作り上げていけるグループになりたいです。
ブラジル:オズの一連の作品を通して、メンバー1人1人の個性をもっと全面に出したステージを作りたいと思っています。ステージを見ただけで、この子はこういう子、ってわかるような。今のMIGMA SHELTERって、なんかすごいことやってるけどよくわからないみたいに、呆然と立ち尽くしちゃったような人を見ることが多いんですけど、初めて見た人もなんかよくわかんないけどめっちゃ楽しいし、つい踊っちゃうみたいな感じにできるようになりたいです。
──レーレさんは、4月29日の鹿児島公演をもって卒業となりますが、残りの時間どう駆け抜けたいと考えていますか。
レーレ:私としては、卒業したとしてもファンの人たちの中ではずっとアイドルとしていれたらと思っています。私自身、好きだったアイドルが卒業しても、ずっと心の中でそのアイドルは存在してるので。今作で私は最初に潰されちゃう東の魔女役なんですけど、潰されたまま物語の中でふわふわいたいと思いますし、卒業してもファンの人たちの中ではずっとアイドルのレーレちゃんとの思い出が残っていけたらと思っています。どうしても忘れられない存在としての姿をステージで残していきたいなと思います。やっぱ8年間続けてきたことなので。メンバーには、「オズの物語」のように、この三部作を終えた時、みんなの中で持っていたものの花が咲いてほしいなって思います。

編集 : 西田健
童話「オズの魔法使い」を題材にした最新シングル
MIGMA SHELTER ディスコグラフィー
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PROFILE:MIGMA SHELTER

メンバーはタマネ、ブラジル、ミミミユ、レーレ、ナーナナラ、ユイノン、ワニャ+からなる7人組グループ。
2017年4月16日、AqbiRec主催「Upstairs Down vol.1」(渋谷WWW X)にてデビュー。ディレクター・田中紘治と、サウンドプロデューサー・タニヤマヒロアキによるアイドルユニット。新境地とも言える本格的なサイケデリックトランスは、多様化するアイドルシーンにおいてもカウンターとして強烈なインパクトを与えた。全曲をノンストップでつなぎ、ときにマッシュアップやMEGA MIXを繰り出すスタイルから自らのパフォーマンスを“レイヴ”と称している。
2022年12月にユイノン、ワニャ+が新メンバーとして加入し、現体制へ。
2023年4月に現体制初となるシングル『OZ one』をリリース。
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