いい音楽とおいしい料理をつなぐ、埼玉県大宮の地元密着型カフェ「bekkan」を徹底紹介

埼玉県大宮に居を構え、地元の音楽文化を丁寧に育ててきたライヴハウス「ヒソミネ」に続き、インディーズ・レーベル「kilk records」が、新たなカフェ件コミュニティ・スペース「bekkan」をオープンする。クラウドファンディングにて100万円以上を集めたことが話題となったこの新しいスペースは、いったいどのような使命を持って生まれたのか。OTOTOYでは一足早くbekkanに潜入し、お店の様子を写真でレポート。さらにbekkanという場所が大宮の音楽コミュニティにどのような役割を果たそうとしているのか、設立の目的と展望をオーナーの森大地に聞いた。
そもそもbekkanってどんなお店なの? ――オープンまでの道のり
bekkanは、音楽好きだけでなく、音楽好き以外にも素晴らしい音楽を伝えていくにはどうしたら良いのかという思いから立ち上げられたスペース。アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグの提唱する「サード・プレイス(家庭や職場・学校での役割から開放され、自分らしさを取り戻せる第三の居場所)」の概念と、kilk recordsのメインテーマである「精神に溶け込む、人生を変えてしまうほどの音楽との出会い」を併せ持った空間を理想としている。2月にはクラウドファンディング「Motion Gallery」にて100万円以上の資金を集め、4月1日にオープンする予定となっている。
どんなスペースなの? まずは写真でbekkanの様子をお伝え!





オーナー森大地インタヴュー「店員とお客さんでコミュニティを作れたら」

――早いもので、ヒソミネのオープンから、もう3年近く経ちます。森さん自身、ライヴハウスの経営は初めてでしたが、運営してみての実感はいかがですか?
森大地(以下、森) : やってよかったなと思っています。初めての出会いもあったし、こんな音楽があったのかという発見もある。なにより「こういう場所ができてよかった」と言っていただいて、ハコに付いてくださる常連の方が多いのも嬉しいですね。その一方で、音楽好きにはすごく愛されるけど、音楽好き以外にはなかなか広まらないという悩みもあって。やっぱり普通の人が来ても「なんだ、ライヴハウスなのか」と言って帰っていくパターンも何回もあったりするんですよ。
――街の人がふらっと入ってきたけど、帰ってしまったと。
森 : そうですね。やっぱりライヴを観にくる人じゃないと、中には入らないんだなということを体感して。そうした状況を変えるには、音楽があるところに人を呼ぶのではなく、一般の人が来るところに音楽があるような店が必要だと思ったんですよね。そこで音楽を紹介することで可能性がまだまだあるなと考えて。逆にそういう伝え方じゃないと、音楽を広めるのは難しいだろうなって。
――とはいえ、ヒソミネを始める時にもそういうスタンスはありましたよね? 森さんが想定していたより、もっとオープンにしないとダメだったということ?
森 : そうですね。例えば、どんなに売れてるインディ・ロックであっても、インディ音楽を追いかけている人じゃないと、その音楽を知らないんですよ。AKB48並みに毎日かかっている音楽じゃないと自然と耳に入ってこないみたいなところもある。売れてる音楽も売れてないけど良い音楽も、一般の人にも少しでもこんな知らない良い音楽がまだまだあるんだよって公平に伝えていくことが重要だと思ったんです。
――今日、bekkanに来てみて、本当にレストランというかBARで、びっくりしました。初めて来た人は、音楽レーベルをやっている人が経営しているってことがわからないと思います。
森 : それは狙い通りで、中途半端に音楽カフェとか音楽バーにしたくなかったんです。「音楽を売りにしてます、だから飲食は適当です」っていうふうに見えてしまうと、音楽好きの人しか入らない。音楽とか理由なしで一般の方が入ってきてくれるためには、店の内装や雰囲気、店員のサービス、飲食は、しっかりとやらなければと考えています。

――森さんは飲食業をガッツリやるってことも初めてですよね? よくここまで思い切って踏み切りましたね。
森 : 今回は、青木ロビン(downy)さんに内装から総合的なコンサルタントまで相談に乗っていただいていて。調理長にしても、お菓子作りのスタッフにしても、他のスタッフにしても、逆に僕が教えてもらいながらやっている部分が多いです。もちろん僕がみんなよりわかっている部分もありますし、そこはお互いに補い合うような人が揃ったと思っています。チームとして、いい感じのメンバーが集まったかなって。
――kilk recordsは、2015年、音源自体のリリースは少なかったですよね。CDショップだったりライヴハウス以外の音楽の広め方を模索していたからなんでしょうか?
森 : 例えば、Aureoleしかり、今月リリースのある[[Qu| https://ototoy.jp/_/default/a/110442]]にしてもなんですけど、みんなと同じように大きなお店に出しても、情報のゴミみたいになっちゃう。だったら小さいお店でもゴミにならないほうがよっぽどよくて。1つ1つ、どこかしらに爪跡を残せるようなリリースじゃないと、やらないほうがいいかなと思ったんです。
――そして辿り着いたbekkanプロジェクトは、kilk recordsのアーティストを広めるためというより、もうちょっと大きな視点での計画ですよね。音楽自体を一般に浸透させるというか、音楽をより身近に感じてもらうための方法というか。
森 : 完全にそうですね。今回組ませていただくことになったLINUS RECORDSの取り扱っている音楽って、一般の人が普段出会わないようなものなんですね。それを普通の人に聴かせた時にどうなるのか? というのは楽しみですし、今回OTOTOYさん経由でiFIオーディオさんのRetro Stereo 50 + LS3.5スピーカーを置かせてもらいます。ハイレゾ音源が流れた時に、音的にも何かしら感じる瞬間があると思うと楽しみですよね。例えば、マニアックな音楽でも、恋人の影響で聴くようになりましたとか、人づてで知ったのがきっかけでどっぷりハマるってことは、日常にあると思うんです。美容室で一対一で話した時に仲良くなって、趣味を伝え合うとかもそうですし。bekkanでも、店員とお客さんでコミュニティを作るように、こういう音楽が好きだったらこういうバンドもありますよとか、近くにヒソミネっていうライヴハウスがあるので行ってみませんか? っていうきっかけが作れたらいいですよね。
――たまたまご飯を食べに入ったら、店員さんたちが音楽好きだったみたいな。
森 : そうですね。そう考えると、まだまだ音楽を広める余地はあるだろうなって。例えばイギリスだとパブで政治や音楽の話をするみたいな文化があるじゃないですか。まずはbekkanというスペースの中で、そういう特殊なムードを作りたい。もちろん押し付けがましくなく。僕も、この場所があったからこの音楽に出会えたとか、この人がいたからこれを知ったとか、人生の中でそういうきっかけがすごくあったんです。もちろん、全員が全員、音楽好きじゃないだろうから、音楽好き以外の人もウェルカムで、満足できるような店でありたいと思っています。
――森さんとは7~8年の付き合いになりますけど、当時と比べて、どんどん仲間が増えてる感じがしていて、いいなと思います。今日もオープン前ですけど、ビールの試飲をしたり、試食をしたり、フレンドリーでいい雰囲気ですね。
森 : 本当にいいスタッフが集まりましたね。例えば、オイカワさんは求人で応募してくれたんですけど、蓋を開けてみたら、Lööfのチヒロちゃんと友だちだったりして。
――オイカワさんは、kilk recordsの森さんが経営するお店だと知って応募したんですか?
オイカワ : Twitterでたまたま募集要項が流れてきたんです。もともと、ヒソミネは知っていたんですけど、宮原にライヴもできるカフェができるんだってことを知って、速攻で応募しました。私はデザート担当なんですけど、うまくお菓子と音楽を融合できないかなと考えています(笑)。

――森さんから、こういうものを作ってほしいというリクエストとかはありましたか?
オイカワ : ありきたりのものじゃない店にしたいってことだったので、上陸したてのものを取り入れるようにしました。例えば、パブロバとか。

――パブロバ?
オイカワ : メレンゲのケーキみたいなデザートです。
――へー。瓶に入ってるこれはなんですか?
オイカワ : ジャーに入れた料理が流行っているのと、森さんがクレープ好きだってことを言っていたので、創作してみたんです。

森 : なんか、僕がワガママ社長みたいですね(笑)。僕は料理に関して1番素人だけど、食べる側の意見を言わせてもらいながら、作り上げているところもあります。
――料理長の升さんの料理はどれも美味しそうですね。
森 : 応募いただいた方に実際に作ってもらったんです。料理の味と、盛り付けと、あとは人柄。特に人で選びましたね。スタッフは、みんな優しい感じの人たちばかりです。人も味も、まずは店への信頼をしてもらうところからですからね。
――ちなみに、ヒソミネとはなにかしら連動はするんですか?
森 : 今のところは様子見なんですけど、必ずしたいと思います。まずはお店が動き出してからかな。
――この数年間、レーベルのファンクラブを作ったり、ライヴハウスを運営したり、本当にいろいろなことに挑戦されてきましたよね。森さんのその熱量はどこから来るんでしょう?
森 : レーベルでもバンドでも、挫けそうになることって多いじゃないですか? 僕も挫けそうなことは多くて。30歳を超えて仕事が忙しくなったり、子どもが生まれたり、いろいろな理由でバンドやレーベルを辞めてく人も多いんですけど、まだいけるでしょ? っていうきっかけを作りたいんです。現状維持でヒソミネをやっていたら、食べていけるくらいには運営できているんですけど、初心に返って、自分が素晴らしいと思う音楽を広めたい、本当にいいものなんだよっていうことを伝えたいんです。そこからのブレはなくて、今はそこを諦めないってところで突き進んでいますね。
――森さんの「諦めない」「くじけない」力って、すごいと思うんですよ。挫けてしまわない秘訣みたいなものがあるんでしょうか。
森 : やっぱり、トライ・アンド・エラーをし続けることですよね。エラーのほうが多いんですけど、やってわかることもあるし、とりあえず有言実行みたいなところは20代後半から自分の中のテーマになっているので、やるだけですよね。一度きりの人生ですから。
――最後に、bekkanの大きなテーマを教えてください。
森 : 人、文化、おいしい食事と、偶然出会うことをテーマにしています。なので、「あそこの店、うまいらしいぜ?」くらいのきっかけで来てもらうのでもいいなと思います。このインタヴューを読んでくださっている方は音楽好きの方も多いと思うので、まずはヒソミネ寄りがてらにでもぜひ寄ってみてほしいですね。
本格的な料理も魅力のひとつ。料理長 升さんインタヴュー

――bekkanで提供する料理には、どんなテーマがあるんでしょう?
升 : テーマは、この空間にあった料理をなるべく提供しようということと、あとは飾り過ぎない素朴な味を出してくことですね。
――空間にあった料理というのは、例えばどんなものですか?
升 : 今日お出ししたような飾らない料理だったり、貝の蒸し物のように素材の味を活かす料理ですね。素材の味でシンプルに勝負したいなと思っています。
――全部目玉だと思うんですけど、そのなかでも特にオススメの料理を教えてください。
升 : 南部鉄器を使った蒸し物がオススメです。この他にも、ブイヤベースも用意しているのでオススメします。自分がこれまでやってきた料理はビストロ・フレンチなので、その分野のお食事が結構揃っています。田舎パテとか、レバームースとか、本当に古典の料理に加えて、夜向けに新しい料理を始めてみようとも考えています。


――飲み物に関しても料理長が選ばれているんですか?
升 : 基本的にスタッフで試飲しながら選んでいるんですけど、ワインを見てくれという話をいただいたので、僕が選んでいます。いろんな国から、いろんなぶどうの品種を使ったものを揃えているんですけど、定番のラインナップは全部無視して、やろうかなと(笑)。
――料理とのマリアージュを考えているわけですね。
升 : と言うよりはこの雰囲気に合うかどうかですね。ヨーロッパ風な雰囲気にちょっとアンティークが入ってるので、そこをイメージして、いろいろやろうと。ある意味、僕も冒険だなと思って臨むつもりです。
――オーナーの森さんは音楽業界で仕事をしてきた方ですけど、升さんが働いてこられたレストランとは違う感触はあったりしますか?


升 : オープンしてから、また変わった感想になると思うんですけど、まるっきり違うものになると思いますね。カフェでもなく、異様な雰囲気を醸し出すのは間違いないですね。
――それによって料理のラインナップも変わっていったらおもしろいですね。
升 : そうですね。僕もいい意味で刺激を受けたくて。失敗することも多々あると思うんですけど、長い目で見ればプラスになっていけばいいなと考えています。
取材&文 : 西澤裕郎
写真 : 大橋祐希
bekkanの内装をさらに写真で紹介




bekkanへのアクセス(宮原駅から)
宮原駅東口から出たらファミリーマートを右手に見て、目の前の道路をひたすら直進。歩いて5分で左手にフクロウの看板が見えてきたらそこがbekkanだ。ちなみに、さらに次の信号まで歩いて右に5分ほど直進すると右手ライヴハウス ヒソミネが見えてくる。
PROFILE
森大地(kilk records、ヒソミネ、bekkanオーナー)
2007年にAureoleを結成し、vo>として作詞作曲を担当。2009年に1stアルバム”Nostaldom"をリリース。2016年現在、4枚のフルアルバムを発表している。2010年にはkilk recordsを設立。2013年5月には埼玉県さいたま市宮原町にライブスペース「ヒソミネ」を、さらに2016年4月にはカフェラウンジ「bekkan」をオープン。
>>kilk recoreds オフィシャルサイト
>>ヒソミネ オフィシャルサイト
>>more recoreds オフィシャルサイト
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