〈カクバリズム〉の新星・シャッポ、ファースト・アルバム『a one & a two』ついに完成!

いつの時代も普遍的で良質な音楽を届けるインディー・レーベル〈カクバリズム〉から、2019年、期待の若手バンドが誕生した。ともに2000年生まれの福原音と細野悠太から成るインスト・バンド、シャッポだ。その後、初のリリースとなるシングル曲「ふきだし」は2023年の末で、約4年もの間ああでもないこうでもないと地下で穴を掘り続けていたという。そんな彼らがファースト・アルバム『a one & a two』を携えて、ついに地上に出てきた。細野晴臣をはじめとし、知人友人など周囲の人間の存在がキーとなった今作の制作プロセスを、曲ごとの解説を交えながら語ってもらった。
友人も多く参加し、シャッポの雑食性が存分に引き出されたファースト・アルバム!
INTERVIEW : シャッポ

シャッポ待望のファースト・アルバム『a one & a two』は、20代半ばの若者ふたりによって作られたとは思えないほどの玄人感が滲みでている。今回のインタヴューで話を聞いていると、福原の口から数多くのリファレンスが出てきて頷けた。懐古的でマニアックなものばかりなのだ。かなりの音楽愛好家である福原と、彼と波長を通わせながら絶妙な間合いで合いの手を入れる細野。ふたりのバランスが不思議な空気感を生み出している。シャッポは風変わりなバンドだ。でも、それがおもしろい。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 石川幸穂
撮影 : 大橋祐希
人によって選ばされるものこそが自分たちの本当の姿なんじゃないか
──2023年12月にファースト・シングル「ふきだし」を出してから周囲の反応はどうでしたか?
細野悠太(以下、細野):1曲しか出してないのにライヴに呼んでもらえたりして、驚きました。
福原音(以下、福原):半年くらいかけて、外に対する恐怖心が徐々にほぐれていった感覚です。いい手応えは感じつつも、不安はずっとありましたね。ライヴが始まる前に「こんな変な音楽、誰が聴いてくれるんだろう」って、僕はよく弱音を吐いてました。
──「ふきだし」を出す前にドラムの海老原颯さんが辞めて、そこからふたりで活動されていますね。最近のライヴでは5人編成でやっているそうですが。
福原:ライヴは2024年3月ごろから5人に増えて、そのあたりから人を頼ることを覚えはじめました。ÅlborgやTill Yawuhくんなど同世代のレーベル・メイトとも仲良くなって、警戒心が強かったころからしたら考えられないことですね。
細野:周りの人と関わり出してから変わったよね。米呂くん(小山田米呂)の存在も大きい。

──同世代の友達が増えたことがシャッポの活動にどう反映されましたか?
福原:自分たちの音楽に“こだわり”以外のものが入ってきた感じがあります。曲にもいろんな人の声を入れたり、ミュージシャンじゃない友達の名前を曲のタイトルにつけたり……。
──“ATOH”ですね。彼は何者なんですか?
福原:亜問くん(轟木亜問)は一般企業で働いている友達です。Ålborgのアルバム・レコーディングに僕が顔を出していた時期で、その頃にÅlborgのメンバーの友達として彼がいたんです。誰とでも打ち解ける人で、僕らとも最初から話してくれて仲良くなりました。
──曲のタイトルにしたのは?
福原:「亜問」という名前が単純にかっこいいと思っていたんです。あと、この曲をスタジオで作って煮詰まっていたときに、亜問くんが差し入れを持って遊びにきてくれたことがあって。彼が来たことによって一気にアイデアがまとまったんです。タイトルとシングル・ジャケットも亜問くんにしました。
細野:レコーディングで音のことをやるのは僕らふたりだけど、スタジオには音楽以外の友達も呼んで場を和やかにしてもらってましたね。
──どうやらその友達の存在がシャッポにとって大事な要素のようですね。
細野:そうですね。亜問くんなんかはリモート・ワークしていて、ただそこにいるだけなんですけどね。いるだけだけど、作業が進むことがあるんです。

──曲作りのプロセスは?
福原:僕はいつもデモを作り込むわけではなく、弾き語りで作るんですが、曲ができたらまず悠太くんと会って喋るところから始めるんです。世間話やお笑いの話をいろいろ話したあとに、「で、実はこんな曲があったりするんだけど~」と、ふわっとした感じで原型を聴かせます。悠太くんの反応を伺いつつ、良さそうだったらベーシックを組む作業に進んでいく。悠太くんはそこでやっと曲の全体像を知ります(笑)。
細野:原型では本当にボソボソと歌っていて、ほぼなにもわからないんです。
──アルバムの構成はいつ頃から考えていたんでしょう?
福原:シャッポがインスト・バンドとしてやっていくことに決まって、曲作りを1から考え直さなきゃいけなくて。「ふきだし」を出した後もアルバムの構想はいまいち固まらないままでした。曲選びもすごく悩んだけど、そこは悠太くんの判断が早くて助かりました。僕が入れたくないと言った曲も最終的に入ることになったりして。
──なぜ判断が早かったんでしょうか?
細野:いやー、なにも考えてなかったからだと思いますけどね。考えてないがゆえに判断が早いみたいな。あとは普通にいい曲だと思ったので。
──どの曲が悠太さんのアドバイスで入ることになったんですか?
細野:“あなたならどうする?”と、“スタンダード”ですね。
福原:“めし”もそうでした。
──結構軸になってる曲ばかり!
福原:入れたくないというより、自信がなかったんですよね。基本、自信のなさがベースにあるんです。そこを悠太くんが「アレンジでなんとかなるよ」と後押ししてくれて、それを信じてみようかなと。

──いいバランスのふたりですね。
福原:いろんなイベントに出させてもらったり、音楽以外でも友達が増えて、人との関わりのなかで自分たちの姿が見えてきた感覚はありました。今回のコンセプトもそこにつながっていますね。
──自分たちの姿というのは?
福原:自分がやりたいと思っているものや好きなもの、例えばある特定のジャンルの音楽が好きだとして、それは自分では自分の意思で選んだと思っていても、実は親が聴いていただとかその音楽に手が届くような環境にあるだとか、そういった自分以外の要素が関係していて、必ずしも自分の力だけで選んでるわけじゃないと思うんです。人や取り巻く物事によって選ばされるものこそが自分たちの本当の姿なんじゃないかなと思うようになりました。
そもそもが細野(晴臣)さんに後押しされてはじまったというのもあって、細野さんという人の手のひらの上で転がされているような気もするし、そこがテーマなんじゃないかなと。