甘くて口当たりがいいのに違和感?ーーヲノサトル、新作ムード・エレクトロをDSDで1週間先行リリース&DUB MASTER Xによるリミックスをフリー配信

明和電機「経理のヲノさん」として知られる音楽家のヲノサトルが、前作『舞踏組曲』から2年半ぶりとなるオリジナル・アルバム『ロマンティック・シーズン』をリリース。甘くムーディな電子音楽 = ムード・エレクトロ全開の本作は、シンセサイザーやコンピュータを駆使した最先端の電子音響でありながら、どこか懐かしく甘いラテンやラウンジ、フュージョンの空気が満載。そんな大人のインストゥルメンタル・ミュージックをDSD5.6MHzとHQDで1週間先行ハイレゾ配信!! この夏、手放すことのできない清涼感とロマンティシズム漂うエレガントなテクノ・サウンドを存分にお楽しみください。また、伝説のリミキサー、Dub MasterXがリミックスした「Sweet Of You」をハイレゾで無料配信!! mp3版もフリーでダウンロードできますので、聴き比べしてみてください。それにしても、あまりにサービスしすぎじゃないですか、ヲノさん?
>>「Sweet Of You (Dub's Rehouse For Dancefloor Mix)(24bit/48kHz)」のフリーダウンロードはこちら
>>「Sweet Of You (Dub's Rehouse For Dancefloor Mix)(mp3版)」のフリーダウンロードはこちら
新作を1週間先行でハイレゾ配信スタート!!
ヲノサトル / ROMANTIC SEASON
【価格】
5.6MHz dsd + mp3 / HQD(24bit/96kHzのALAC、FLAC、WAV) まとめ購入のみ 2,484円
【Track List】
1. Sweet Of You
2. Fragile
3. Samba Do Insônia
4. The End Of A Farewell
5. Drive Me Pop
6. Elapse
7. El Sur
8. After All
9. Moritat
10. Old Fashioned
11. Chambre
ダウンロードに関して
高音質音源はファイルサイズが大きいため、回線速度によってはダウンロード完了するまでにお時間がかかることがございます。通信環境、お使いのPCの空き容量をご確認の上、ダウンロード頂きますようお願い致します。
※ダウンロードしたファイルに不備や不明点がありましたら、info(at)ototoy.jpまでお問い合わせくださいませ。
INTERVIEW : ヲノサトル
ヲノサトルが提唱しつづけている“ムード・エレクトロ”という言葉、一度は耳にしたことがある方もいるのではないだろうか? その定義は「ムード音楽的な甘い空気を、エレクトロニカのようなエッジの効いたサウンドと融合させた音楽」ということであるが、その手の音楽はありそうで、意外と多くない。その理由は、下記のインタヴュー内で詳しく語られているのでお読みいただきたいが、要するに、異なる時代に生まれてしまったことにより、それぞれの価値観が相容れず混じらなかったというのが大きな原因であろう。しかし、ジャンル関係なしにウェブ上に素材が並ぶいま、様々な要素をごった煮にしてしまうことは当たり前の価値観になっている。だからこそ、ヲノの“ムード・エレクトロ”は、これまで以上に心地良く届くに違いない。ライヴ音源をコンスタントにリリースしながら、2年近くかけて制作していたという本作『ロマンティック・シーズン』について、ムード・エレクトロについて、ヲノにじっくりと話を訊いた。
インタヴュー & 文 : 西澤裕郎
2つの極端な世界を融合したいという感覚がいつも自分の中にある
ーーヲノサトル名義としては、どれくらい振りの作品になるんですか?
ヲノサトル(以下、ヲノ) : いわゆるパッケージとしては、前作『舞踏組曲』から2年半近くたちますね。その間、オンラインではOTOTOYさんから数ヶ月置きに配信は続けてきましたが。
ーーそうですよね。個人的には、かなりコンスタントにリリースされていた感覚があって。
ヲノ : それはやはり、今の時代ならではのスピード感というか。今作の場合は、2年半かけて少しずつコツコツ作り続けたんですけど、こういう作業って終わりがないんですよね。どこで終わらせてパッケージにするかは自分次第なので、いくらでも時間をかけられる。それに対してライヴ音源は生ものですから、必然的になるべく早く形にして届けようとする。作るスタンスが全然違う気がしますね。
ーーヲノさんは自身の音楽を、ムード・コアだったり、ムード・エレクトロって銘打っているじゃないですか? そもそもムード・コアってどういうものなんですか?
ヲノ : 一言でいえば、昔ながらのムード音楽的な甘い空気を、エレクトロニカのようなエッジの効いたサウンドと融合させた音楽ですね。実はデビュー当時から同じようなことを言っていて。「テクノとラテンの融合」みたいな。2つの極端な世界を融合したいという感覚が、いつも自分の中にあるんですよね。
ーーそうした融合を求めるきっかけってなんだったんでしょう?
ヲノ : もともとクラシックの作曲を勉強していて、いわゆる現代音楽にたどり着きまして。大学院の先生が住谷智さんというヨーロッパでも有名な電子音響系の作曲家だったということもあって、80~90年代は、コンピューターやサンプラー、ターンテーブルとか様々な電子機器を並べて、即興演奏をしていました。当時は大友良英さんやカール・ストーンさんなど、すごい人たちのライヴも間近で見たりして。いわゆる「音響派」が生まれる直前の時期ですね。そういった実験音楽とかノイズとか、先鋭的な音を目指していた時期があって。一方では、子供の頃から好きだった映画音楽とか、ムーディーな音楽への偏愛みたいなものも常にあって。今作では、それらが融合したと思っています。

ーー即興とムーディーな音楽って、割と両極にあるものってイメージがありますけど、その2つが同居していればいいなみたいな気持ちがあったってことですか?
ヲノ : 例えば、エレクトロニカとかテクノでは、音の響き自体はカッコいいんだけど、「物語」はなかったりしますよね。何も物語らず「音響」として自立しているのがクールな音楽。でも、あえてそこに物語というかムーディーな世界観を接続したらどうなるだろう、と。ビート主体のループ・ミュージックとかは、カッコいい音を作れる人が既に世の中たくさんいるし、僕はちょっと違う方向を示そうと。
ーーその2つが融合しているものが少ないのはなぜなんでしょう?
ヲノ : いわゆる「サビ」のある音楽が、ある時代からクールじゃなくなったんですよね。起承転結があるとか、オチが着くっていうのはダサいと。無限にループしながら音色や音響の変化で聴かせるほうがクールだと。でも、そういった音響主義もちょっと飽和してるようにも思えて。時代錯誤でもいいから、グッとくるメロディとか、胸が熱くなるコード進行みたいなものが、電子音楽に再び召喚されてもいいかなと。タイトルの「ロマンティック」には、恋愛とか甘いロマンスだけでなく、19世紀のロマン主義芸術のように「現実離れした夢想」とか「理性主義への抵抗」のような意味もこめたつもりなんです。
ーーAORとかフュージョンっぽさが入っているのは、当時の人に対するノスタルジックな気持ちも入っていたりしますか?
ヲノ : 自分ではノスタルジーとは思ってませんが。その時代の音を聴いて育っている以上、ハーモニーの印象とか、音色の質感ってのは、匂いとか味みたいに記憶に残りますよね。それが手癖のように出ちゃってる部分はあるかもしれません。
「最近、牛乳をこぼしても無意識にコマンド+Zを押してしまう」って
ーー現在の社会って、低コスト社会というか、ある意味で窮屈な感じがあるじゃないですか。そういう時代のなかでムーディな音楽をやる意義みたいなものは感じますか。
ヲノ : 世の中に不安や閉塞感が溢れる時代は、甘いものとか、麻薬のように精神を麻痺させてくれるものを求める空気って、出てくるんじゃないでしょうか。ただ作り手としては、一見キャンディのように甘いんだけど、よく聴くと「あれ? 何だろう? ずっと鳴ってるこの変なノイズ?」と、何らかの違和感が生じるようなものを目指してます。BGMとして聴けば、甘くて口当たりがいいんだけど、それだけじゃないという。一粒で二度美味しい、みたいな。
ーー確かにノイズも混じっていておもしろいなと思いました。でも、クリーンなノイズですよね。
ヲノ : いわゆるグリッチ、接触不良みたいなノイズは多用してますが、耳が痛いとか、悪い意味でのショックにはならないよう、音色や音程のエディットにはこだわっていますね。チューニングというか、全体に溶け込むようにと。
ーー全体的に音がきれいじゃないですか。どういうところに気を使ったんでしょう?
ヲノ : 今回は、アナログ・シンセ、しかもハードウェアを多用しているので、録音の段階でかなり神経を使った部分はあります。しかしそれよりも、とにかく自分の耳が、そっち側に寄せたい欲が強かったんですね。
ーー「そっち側」っていうのは?
ヲノ : 音圧がビシビシ効いて、体にガンガンくるフロア向けの音楽という側じゃなくて、バーカウンターなんかでリラックスして聴ける電子音楽の側ですね。マスタリング・エンジニアの森崎雅人さんも、その辺を分かってくれて、ガンガン音圧を高くして細部が潰れるようなマスタリングはしてないんですよ。だから、パッと聴いて音が小さく感じられるかもしれないんですけど、その場合は再生のボリュームを上げてみてください、と。そうすると音の「間」とか密度みたいなものを、じっくり味わっていただけると思います。

ーー以前、トラック・メイカーの方から、デスクトップで作った音楽って、ハイレゾでもあまり変わらないんじゃない? って言われたんですけど、その辺ってどうなんですか?
ヲノ : 僕は、全然変わると思いますね。
ーーどこら辺が変わってくるんでしょう?
ヲノ : 一つはレンジ感。一番小さい音から一番大きい音までの幅がぐっと広がる。同時に音の立体感、奥行きの深さもぐっと変わりますよね。もう一つは、音自体のコクというか味というか、甘みだとか芯の太さが鮮明になる。いい音、悪い音って話じゃなくて、「楽しい音」になるっていう印象がありますね。
ーーそれは、作り手の制作過程においても何かしらの変化を与えると思いますか?
ヲノ : それはありますよね。一個一個の音に対する意識も変わりますね。
ーー最初におっしゃってたゴールがない状態のなか、ジャッジはどのように行なうんですか?
ヲノ : 不思議な物で、「この曲はここまでだな」とわかる瞬間があるんですよね。メロディを作るときでも、夜中じゅう「ああでもない、こうでもない」と考え続けていてる内に、ある瞬間に突然スラスラスラっと降りてきて、これでOKって瞬間があります。根拠はないんですが(笑)。
ーーブライアン・イーノとカール・ハイドが、共作を制作するにあたって「コマンド+Z」をしないことを課したみたいですけど、そうでもしないと終わりがないのかなって。
ヲノ : いい考えですね(笑)。コンピュータだと、たいていの作業がアンドゥーできるじゃないですか。今回アート・ディレクションしていただいた菊地敦己さんも「最近、牛乳をこぼしても無意識にコマンド+Zを押してしまう」って言ってました(笑)。僕も、家の本棚で本を探す時とか、「コマンド+F」で検索したい衝動を押さえるのが大変です(笑)。
自分としては「建築」を作りたいんですよね
ーー(笑)。そういう機材の発達や簡便さは、作り手の増加にも繋がっていると思うんですけど、そこへのジレンマみたいなものを感じたりすることはありますか。
ヲノ : 乱暴にたとえれば、昔はリスナーが1000人いて、100人ずつで10組のアーティストを支えていた。今はアーティストも増えたし、ネットで発表するP(プロデューサー)とかも現れて、作り手が100人になっちゃった。1人の作り手につき10人しかリスナーがいない、みたいな。このままいくと作り手の方が聴き手より多くなるっていうことも、あり得るんじゃないですか(笑)。
ーーそういう中で音楽を作っていくっていうのは、心持ちもだいぶ変わってくるのかなと思って。
ヲノ : もはや、これは自分の曲だとか、そういう所有の仕方は必要ないのかなって気持ちもあるんですよ。ヲノサトルが作った何とかじゃなくて、ただクラウド上にあって「いい曲だな、いい映像だな」と鑑賞する人が増えていくという。作家の名前なんか消えて、匿名になってもいいんじゃないかっていう考え。でも一方で、逆にそういう時代だからこそ、キャラが立ち、個性あふれる存在に価値が生じるという考え方もあるでしょうね。音楽そのもので個性を出すだけでなく、TwitterやFacebook、SNS上の発言やら個人情報やら、音楽以外の個性も含めて。
ーー自分の名前がなくなって、匿名性が強くなるっていうのは、どういう気持ちなんでしょう。
ヲノ : 自分としては「建築」を作りたいんですよね。自分は住みたいのに、まだ誰も作ってくれていない「音の建物」を建てたいだけ。建築家として自分の名前を残したいっていう欲よりも、自分が住んで気持ち良い家を建てたい。
ーーいわゆる、テクノ、ハウス、エレクトロとかって、未だに新しい音楽ってイメージがあるんですけど、もうなんだかんだで歴史としてはかなり古いですよね。
ヲノ : 70年代のテクノポップあたりから数えても、もう40年以上続いてますね。
ーーその中で、ヲノさんが突き詰める部分ていうのはどういう部分なんでしょう。
ヲノ : サウンドの魅力でしょうね。音の響きという意味だけではなく、1曲の中での音楽的な展開も含めて、トータルな意味で「サウンド」と言っていますが。例えば、ハウスが最初に出て来たときは、「展開しない」っていう過激さがあったわけですよね。Aメロ、Bメロ、サビ、みたいなポップスの定型の外側で、メロも何もなくてずっとリズムだけなのにカッコいい、っていう過激さが。例えばそういう枠組みは利用しつつ、そこに再び自分なりの「物語」を書き込ければと。
ーーヲノさんはこの2年半、本作を作り続けてきた一方で、ライヴ録音もしてきたじゃないですか? これからの活動はどうされていくんですか。
ヲノ : どうしましょう(笑)。いま、言われるまで考えてなかったなー。とりあえず今回の作品を多くの人に聴いていただけるよう、全力を尽くしているところなので。どうしたらいいですか?逆にご提案いただきたいところです(笑)。

ーー(笑)。広く伝えるという意味では、今回はDub MasterXさんのリミックスを無料配信させていただくわけじゃないですか。このリミックス音源は、どういう経緯で制作されたものなんでしょう。
ヲノ : だぶ(Dub MasterX)さんとは、20世紀のレガシーなネットの時代に、オンラインでやりとりしてたのが最初だと思います。ニフティーサーブのフォーラムとか。それが最近たまたまFacebookでコメントとか飛ばし合ってるときに「そういえば今、曲を作ってるんで聴いてみてください」って送ったら、「これはオレがミックスしなきゃダメでしょ!!」みたいに反応してくれて(笑)。「えっ、じゃあ、お願いしますよ!」って、渡したら数日で作ってくれまして。めちゃめちゃ忙しいのに、めちゃめちゃノリがいい方で。
ーーそれは素晴らしいですね!!
ヲノ : 配信用のボーナストラックにするとか、シングルとして単曲販売するって選択肢もあったんですけど、それって逆にもったいないなと。「おもしろいから」ってミックスしてくれた、だぶさんのノリには、損得じゃなくおもしろいものをシェアしたり二次創作を加えたりする、ネットの自由さに近い空気を感じたんですよね。それを僕が囲い込んで「商品」にするってのも、なにか違うなと思って。じゃあ、もう自由に聴いてもらおうじゃないかと。
ーー非常にいまっぽい流れのなかで生まれた作品なんですね。
ヲノ : そうですね。僕の中の「ネット・ユーザーとしての自分」が、こういう発表の仕方がいいんじゃないの、と自分に提案したんですね。さっき、作り手と聴き手を切り分けた話をしましたけど、実際は切り分けられないですよね。西澤さんもエディターであると同時に、リスナーだったり、ネット・ユーザーだったりするわけでしょ?
ーー確かにいまは一体ですもんね。ステージの上の人、そうじゃない人、っていう感覚は薄くなっていきているというか。
ヲノ : たとえばTwitterのようなメディアが、それを可視化しましたよね。どんな有名人が書き込んでいても、140文字のつぶやきにおいては、まったく対等という。しかし、とはいえ、Dub MasterXさんという伝説のリミキサーが作ってくれたトラックには僕自身、テンションめちゃめちゃアガッてます。僕のミックスとはまた全然違って、完全にフロア対応のファットな音。
ーーそうなんですよ。本作を納品いただいて、誰よりも先に聴かせていただいたのが僕なんですけど、一人でオフィスでテンションあがりまくってましたから(笑)。これがフリーで聴けて、ハイレゾっていうのは時代の恩恵でもありますね。
ヲノ : まあ、とにかく楽しい時代になってきましたね。先ほど、これからどうするという質問がありましたけど。この2年半でも本当にいろんなことが変わったので、これからも、予想もつかない方向にどんどん変わっていくだろう、としか答えようがないですね(笑) 。
ヲノサトルの過去作品はこちら!!
LIVE INFORMATION
リリース記念・単独ライヴ開催!
2014年6月21日(土)@音楽実験室 新世界
時間 : 開始 18:00
PROFILE
ヲノサトル
現代音楽からテクノまで幅広い作風で知られる音楽家。芸術ユニット『明和電機』に 音楽監督=オルガン奏者「経理のヲノさん」として参加、小川範子や浜崎貴司など様々 なアーティストのプロデュースや楽曲制作も手がける。メジャーデビュー作『甘い科学』(ソニーミュージック, 1997) から最新作『舞踏組曲』(fill, 2012) まで作品多数。近年は音楽配信も精力的なリリースを続けている。『甘い作曲講座』などの著書があり、音楽誌『アルテス』に『電子音楽クルージング』連載中。多摩美術大学准教授。