シン・PK shampooは“第三種接近遭遇”
──この曲のMVも撮影されているんですよね。取材の時点では、まだ撮影中ということですが、ヤマトくんがいわゆる監督的な立場で制作しているとのことで。
新宿の繁華街にチンピラっぽい人らを集めて、追っかけ回されてどつかれたりって撮影をしてます(笑)。ずっとライヴの撮影をしてくれる佐藤瑞起とふたりでディレクションを話し合いながらやっていて。MVの最後、家に帰ると彼女役みたいな女性に「大丈夫?」って心配されるんですけど、「なんやうるさい!」って振り払って逆ギレする。そしたら「心配してやったのになんだよ!」って女の子からゴミ箱を被されてゴミまみれになって終わるという。そういうコンセプトですね(笑)。
──(笑)。それは、どういう着想から思いついたんでしょう?
僕は上京するとき、風呂敷ひとつで来たというより、必要にかられて来たというか。同じように、締め切りとか、人間ってなにかにかられて生きていると思うんです。お腹がすくのも、一種生存するための欲望に追われていると言えばそうですし。それを考えたら、周囲の目にかられてなにかやることって必ずしも悪いことじゃなくて、なにかに追っかけられてみようかなみたいに思って、「(僕を)追っかけてください」って人に頼むという、よく分からない逆転現象が起こって(笑)。友だち伝てに「見た目怖い人いない?」って訊いたら、本当に怖い見た目の人が来て。そのタトゥーがめちゃめちゃ入ってる人が、実はPKのファンでって言ってくれたりもして、それもおもしろかったですね。
──レコーディングでいうと、以前プリプロを見せてもらったとき、ヤマトくんの判断が早いというか明確で、作りたい音のイメージがはっきりしているんだなと印象的でした。
最近はスパンって決めるようになりました。前までは130本くらいギターを入れたりしていたんですけど、鬱陶しくなってきたというか、自分でもめんどくさいし、意味ないし、みたいに思うようになって(笑)。何百本もギター入れるのは、格好つけた言い方で言うと、アーティスト・芸術家になろうとしてた部分があって。何百本ギターを入れることそのものに意味があるというか、手段自体を目的化するちょっとアートっぽい作り方というか。そこからすると、作り方が根本的に変わった。ギリギリまで締切を引き伸ばして、本当のデッドライン直前にやってくる「やばい! 書かなきゃ!」の過集中を引き起こして、ものを作るという方向にいって(笑)。8月31日を意図的に作り出すみたいなやり方にシフトすると、音像もすっきりするし、結果的に聴きやすくなった。後からここをこうすればよかったとか思うんですけど、そこも切り捨てて進んでいくのが、ある種、人生じゃい! って言い切る(笑)。
──2曲目"あきらめのすべて"は尺的にかなり短いですよね。
49秒ですね。
──この楽曲はどのように作られたんでしょう?
作った曲でいうと22曲目なのかな。もともとミドル・テンポでバラード・チックな感じにしようと思っていたんですけど、それこそ3、4曲目と曲調が似ちゃうとか、納期がやばいというのがあって、思い切ってショート・チューンにしようと(笑)。一応2番まで歌詞も構成も考えてはいたんですけど、バッサリ落として、ちょっとメロコアっぽくやってみようよって。いままであまりPKでやってこなかったことで、アイデア被りを気にする必要がなかったから、ここはこうでいいやろ! 最高! とかやってたら、1時間ぐらいでできちゃって。
──ヤマトくんとしては珍しいくらい早くできた曲なんですね。曲のテンポも速いですよね。
本当はもっと速かったんです。38秒くらいかな。ただ、EP収録曲の1曲が完全な再録で、もう1曲はソロからの引用、リード曲はセルフ・オマージュで、(残り1曲が)38秒の曲って言われても……って感じで、日本コロムビアの方から指摘されて(笑)。じゃあ、ちょっとでも長くします! って、BPMを落として、最後のギターをドゥーン!って延ばしたりして、トラックとしては45秒とかになったのかな。
──ものすごい荒技ですね(笑)。
最終的にスタジオまでコロムビアの人が来て、2番つけられないのかとか言われたんですけど「諦めてください!」って言って(笑)。「そこをなんとか!」「いや、こっちこそそこをなんとか!」ってことをやっていたら、締め切りが来ちゃって。諦めましょうってなったときに、俺がタイトルを"あきらめのすべて"にしました(笑)。
──あはははは。
「夜中に来る震度4くらいの地震みたいだったの」とか、歌詞もコケティッシュというか。僕が好きだった高校生、大学生くらい頃の好みをぶち込んで、日本語でやり直した感じです。この曲はやっていていちばん楽しいですけどね(笑)。
──3曲目には、ヤマトくんのソロ曲"第三種接近遭遇"(ソロ音源『衛星都市計画』収録)のバンドverが収録されています。
単純に歌詞を含めてこの曲が好きで。ソロで作って弾き語りとかずっとやっていたんですけど、バンドに持ってこようと思ったんです。ぐるぐる回ってるみたいなイメージの曲でもあったし、3曲目で「第三種」という点で引っかかってくるものもある。逆に、この曲がEPの4曲を象徴しているというか。1曲目"死がふたりを分かつまで"がリード・トラックですけど、どっちかと言うと、思想、コンセプトのコアになっているのはこの曲な気もしますね。
──たしかに、PK shampooのイメージはこちらの楽曲のほうが近いですね。
PK shampooを再定義しているのはこの曲というか、思想的な部分の根幹なのはむしろこの曲なので、真ん中に置きたかったのがあります。だから、実はシン・PK shampooはこっち。"死がふたりを分かつまで"はメジャー・PK shampooみたいな感じ(笑)。
──わかりやすい例えですね(笑)。
2Bの「僕はまだどこにも向かえなくて」("第三種接近遭遇")以降は歌詞を付け加えているので、完全な再録というより、これも根本的にはリメイクなんです。なので、実は「シン・第三種接近遭遇」でもある。"死がふたりを分かつまで"ほど派手ではないんですけど、PK shampooってバンドを組むときにやろうとしてたことはこっちの方が近い。ミドル、ロー・テンポぐらいで音像をガシャガシャさせながらメロディアスに日本語で歌ってみようみたいな。そういうコンセプトではじまったバンドやし、全般的に再定義しているのはこっちかもしれないのはありますね。
──そして4曲目は、PK shampooファンにはお馴染みの"神崎川"です。
ずっとやってきた曲ですね。
──音像的にもすっきりして、曲の輪郭がよく見えるようになりましたね。
ファースト・アルバム『PK shampoo.wav』に再録しなかったのもあるんですけど、最後に大阪というか尼崎でも流れている川で終わる。東京で言うと、明け方に山手線に乗って寝ちゃって、一周して新宿戻ってきちゃったみたいな感じになるというか(笑)。5年くらい前に録ったver.がいいって言ってくれる人もいますけど、吐き捨てるように歌いすぎていて、もうちょっとちゃんと録り直したいなと思っていたんです。そこは好き嫌いだと思うんですけど、聴きやすくちょっとコード進行とかも部分部分で変えながら収録しています。