誰もが“ゴールドマイン”を探し求めている──GLIM SPANKYの枯れない原動力

渋くてクール、かつポップな7枚目のアルバム
GLIM SPANKYの7枚目のアルバムは、『The Goldmine』と題された。直訳すると、「金脈が見つかる鉱山」。輝く宝のような曲を発掘してほしいという思いを込めて付けたタイトルだと、作品資料に書いてあった。しかし今作について話をじっくり伺っていると、この“ゴールドマイン”という単語は、どうやらGLIM SPANKYの精神性にも深く繋がりがあるようだ。ふたりが今作に込めた、この優しく前向きな想いの根源を探るとともに、旧友だというプロデューサーのSoma Gendaとの制作や初回限定盤ジャケットのデザインのエピソードについても訊いた。
INTERVIEW : GLIM SPANKY
ミュージシャンはリリースのタイミングで何本もの取材を受ける。どうしても内容は似通ってくるものだが、GLIM SPANKYはそれぞれの記事が立っている。複数のメディアに目を通しても「この話、よそでもしてたな」とは思わせない。下調べをしながらその向き合い方に感服した、と話したら「だって、どこでも同じ話するんだったら、1本受ければいいってことになるじゃないですか」と、ド正論で返してくれた。
考えていることはひとつでも、質問によく耳を傾け、どう答えるかをその都度考えて、伝え方を工夫しながら話すことでヴァリエーションを生む。根っから話好きなのだろう。新作『The Goldmine』収録曲ひとつひとつの背景を、元気に、いきいきと、楽しそうに、ときにふたり同士でも対話しながら、丁寧に語ってくれた。
取材・文 : 高岡洋詞
「大人が聴いてる渋くてクールなもの」としてちゃんと存在したい
──前作では "形ないもの" "シグナルはいらない" といった王道タイプの曲を先に作って、その後にロックっぽい曲を作っていったと話されていましたが、今回はそういう軸みたいなものはあったんでしょうか?
亀本寛貴(Gt):なかったですね。「送りバントとかないから。全曲ホームラン打とう」ってずっとふたりで話してました。
松尾レミ(Vo / Gt):テイストはそれぞれ違えど、それぞれのテイストのなかで。まぁ、タイアップが3曲(編注)あったので……。
亀本:強いて言えばそいつらが軸ではありましたけどね。
編注
「不幸アレ」(BS-TBS『サワコ〜それは、果てなき復讐』書き下ろし主題歌)
「Odd Dancer」(NHK放送技術研究所「技研公開2023」体験展⽰起⽤曲)
「ラストシーン」(Paravi『恋のLast Vacation 南の楽園プーケットで、働く君に恋をする。』書き下ろし主題歌
──入れることが決まっている曲ですものね。タイアップ曲があるとアルバムの雰囲気が変わると気にする人もいますが、そういうことは?
亀本:なかったですし、結局アルバムと言っても曲はひとつひとつ独立したものではあると思うんで、そのときのなにかを象徴する1、2曲があればすべてまとまると思ってました。今回はタイトル・トラック("The Goldmine")がそれで、アルバム・タイトルがついた後に作ったんですよ。この曲がアルバムを綴じる紐みたいになってるのかなって感覚があります。
松尾:"怒りをくれよ(jon-YAKITORY Remix)"を入れましたけど、これももとは映画『ONE PIECE FILM GOLD』の主題歌ということで、(アルバムのタイトルにもある)GOLDでキュッとまとまった感じがしてます。最初からそう決めてたわけではないんですけど。
── "The Goldmine"は最後に作ったんですね。
松尾:そうです。しかもすごいスピードで作ったよね。
亀本:3日ぐらいだったよね、たぶん。レコーディング・スタジオ押さえてるのに曲ができてなくて、「もうミュージシャンのスケジュール押さえられません」って言われたから自分で全部やってるんですけど(笑)。しかも録りの当日までメロディが確定してないから、サビのオケとかは「1回なんとなく録っとこ」みたいに、後から自分の家でも編集したり、ギターを足したりして、ポスプロ込みで作っていきました。
松尾:メロディもギリギリまで作ったし、歌詞も歌入れの当日にまだできてなくて「3時間遅らせてください」って言って、その場でバーッと書いてレコーディングしました。
──かなりの綱渡りですね。
松尾:そしたら逆に気に入った、この曲(ニッコリ)。
──火事場のなんとかみたいな。けっこうそういうことありますよね。
亀本:往々にしてありますね。年齢を重ねてくるとだんだん無理も利かなくなってきますけど、若いときは「もう時間ないから徹夜で作ってそのまま行くしかねえ」みたいなことがよくありました。ま、たまにはいいかなということで(笑)。
──結果オーライですよ。ちょっとザ・ホワイト・ストライプスやレッド・ツェッペリンを思い出しましたが、そういう曲をほぼ打ち込みで作ったんですね。
松尾:亀の打ち込みの技術が上がってきました。
亀本:そうだね。コロナ禍以降3枚目のアルバムなんですけど、その間に少しずつ自分でできることを増やしていって、自分ひとりでオケを完パケしてみたいってずっと思ってて。やっとある程度、納得できる形にまで持ってこれた気がします。とはいえまだまだすごい人はたくさんいて、例えば2曲目の "Glitter Illusion" はGendaくんっていう地元の後輩のプロデューサーにやってもらったんですけど、やっぱりすごいです。
──Soma Gendaさん、地元が同じなんですね。
松尾:わたしの中学校のときの友達で、「Somaくん」って呼んでました。1コ下で学校も違うんですけど、彼もわたしもギターやってて、まわりにあんまりそういう子がいなかったから友達になったという(笑)。
──両方プロになったのはすごい。
松尾:そうなんです。以来ずっとつながりがあって、彼はプロデューサーになって、わたしたちもこういう風になって、やっと一緒にできました。
亀本;Virgin Musicのスタッフと「Gendaさんって地元一緒なの?」「あ、そうっすよ」とかよく言ってたんですよ。
──いまやHYBE LABELS JAPANのサウンド・ディレクターですからね。
松尾:ねー。わたしは全然知らなくて、HYBEっていうのも韓国っていうことぐらいしかわかってないんですけど(笑)。
亀本:この曲をやるにあたって久々に会ったんですけど、そういう仕事をバキバキやってるから「めちゃくちゃ業界風吹かせてたらどうしよう」って思ってたら、まったく変わってなくて。
──ご一緒してみていかがでしたか?
亀本: "Glitter Illusion"は海外ポップスのような質感にしたいというか、そうしないとちゃんと伝わるものにならないなって思ったんですよ。でも自分でできるかどうかはやってみないとわかんないな……と思ってたときにこの話をいただいて。「絶対にGendaくんとやったほうがいい気がします」と言ってお願いしたんですけど、本当にイメージ通りの仕事をしてくれたと思います。櫻井陸来さんのベースもめちゃくちゃいいですし。実はもっといっぱい弾いてもらってたんですけど、「ここは打ち込みのほうがいい」って戻したり、プロデューサーとしての判断がすごい。バンドやってると「ま、弾いたもんは弾いたもんでいいか」みたいな感覚がありますけど、曲のクォリティに対してより合理的というか、生産的なんですよね。
松尾:最初、Somaくんは「僕がグリムとやるの想像できないんですけど」みたいに言ってて、音的な接点があんまりないから。でも自分たちの側に彼とやりたい理由がしっかりあったので、彼のスタジオで打ち合わせして、お互い納得してから始めて、すごく気持ちのいいやりとりができたし、ちゃんと深いところで握り合えた感じがあります。
──ちゃんとコミュニケーションをとって一緒に作れたんですね。
松尾:あと、高校時代からわたしたちの音楽性をわかってくれてるのもあるかもしれないです。よくライヴにも来てくれてたんで。
──ファンキーなハード・ロックという感じですが、隙間の活かし方が絶妙だなと思いました。
亀本:"Glitter Illusion"と"The Goldmine"の音は打ち込みならではですね。生のドラムだとマイクをたくさん立てるから、いっぱい鳴ってる音がかぶり合って空間になっちゃうんですけど、打ち込みだとそれが点になるので、キックはここ、スネアはここ、みたいに、帯域も音の長さも緻密に作り込めるんです。そうすると隙間と同時に圧というか音の近さも生まれてくるんで、それを生かした上で、ロックやブルースのかっこよさ、粘りを出す。そういう音楽をやりたいってずっと思ってきて、ちょっとずつ形になってきているなと感じます。
──よく言われると思うんですが、GLIM SPANKYってクラシック・ロックの要素が強いじゃないですか。そのままやると若い人たちは古くさく感じるでしょうし、そのかっこよさをいかにアップデートするかということを意識的にやっていらっしゃる気がするんです。アプローチはその都度、異なると思いますが、今回はどういうところに気を遣われましたか?
亀本:サウンド面ではいままさにお話ししたような部分を個人的には常に考えてるんですけど、「若い子たちに」みたいなことは逆にそんなに考えてないですね。 時代とか世代間の感覚にはかなり乖離があるし、そこを全部取るのは無理だと思うので。ただ、より現代的であること、新しいものを取り入れていくことはすごく意識してます。あとはメロディとか歌詞とか、普遍的にいい部分がちゃんとあればいいっていうか。自分たちがイメージしてる大衆性は、「メインストリームのなかのいちばん渋いやつら」っていうポジションなので、渋くていいと思うんです。若い子たちから見たときに「大人が聴いてる渋くてクールなもの」としてちゃんと存在したいなって。
松尾:特に "Glitter Illusion" は、打ち込みとブルージーな、ソウルフルなメロディや歌い方の融合がおもしろいと思ってやってます、わたしは。もっとド渋にもできるけど、かっこいい部分を抽出してサウンドは打ち込みにしてみたりすることによって、いまの時代でもイケてるものとして聴けるようになるんじゃないか、と。この曲に限らず全部そうなんですけど。