丸山茂雄 × Ryo’LEFTY’Miyata スペシャル対談──音楽業界のレジェンドに学ぶ生き様のヒント

timelesz、official髭男dism、Superflyなどの楽曲を手がける音楽プロデューサー・Ryo ‘LEFTY’ Miyataがメインパーソナリティを務めるFMラジオ番組『MUSIC TOURIST』。アーティストや映画監督、作家、芸術家など、さまざまなクリエイターとの対話を通じて、“生き様のヒント”を届けるトーク番組である。2025年7月にリニューアルされ、現在は全国JFN系列で放送されている。
リニューアル初回のゲストには、1978年にEPIC・ソニー(現・EPIC Records Japan)を設立し、佐野元春、渡辺美里、TM NETWORK、DREAMS COME TRUEなど多くの人気アーティストを世に送り出してきた丸山茂雄氏が登場。現在84歳にして、国内外の音楽シーンに精通し、今なお多くのアーティストや業界関係者から信頼を集めている丸山氏。音楽業界にとどまらず、プレイステーションの誕生にも関わるなど、エンターテインメント全体に大きな影響を与えてきた人物だ。
OTOTOYでは、その丸山氏とRyo ‘LEFTY’ Miyataによるトークの内容をテキストで掲載。年齢差を超えて交わされるLEFTYの鋭い問いかけと、丸山の軽妙な受け答え──その掛け合いにぜひ注目してほしい。
プロフィール
●丸山 茂雄

OIKOS MUSIC株式会社 特別顧問
1978年EPIC・ソニーを設立し、佐野元春、渡辺美里、TM NETWORK、DREAMS COME TRUEなどの有力アーティストを多数世に送り出す。92年に株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役副社長、98年に同社社長に就任し、音楽産業の発展に寄与。一方で、93年から07年まで株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント取締役として会長などを歴任、プレイステーションを成功へ導く。
●Ryo’LEFTY’Miyata <番組MC>

東京都出身の音楽プロデューサー / OIKOS MUSIC共同創業者
編曲家、作詞家、作曲家、ベーシスト、キーボーディスト、ギタリスト、マニピュレーターなど多岐にわたる音楽活動を実施。様々なジャンルをクロスオーバーさせたアレンジメントを得意とし、timelesz、official髭男dism、sumika、Superfly、eill、MISIA、BE:FIRSTなど、数多くのアーティストへ楽曲提供やプロデュース、編曲を手掛ける。また、ユーティリティープレイヤーとしてofficial髭男dism、sumika、BE:FIRSTなど、数多くのアーティストのライブサポートも行う。フロアの熱量を上げるアジテートと、演出も含めたライブプロデュース能力が高く評価されている。
2018年よりスウェーデンに渡り海外作家とのco-writing活動を開始、グローバルな音楽活動を展開。アーティストが必要とする音楽活動全般を支援するため、2022年「OIKOS MUSIC」を共同創業。
2024年にアーティスト集団「cross-dominance」発足。
●X(Twitter): https://x.com/LeftyMonsterP
●OIKOS MUSIC: https://www.oikosmusic.tokyo
対談 : 丸山茂雄 × Ryo’LEFTY’Miyata
Ryo’LEFTY’Miyata(以下、LEFTY):丸山さんはエピックレコードジャパン(ソニー ミュージックレーベルズの社内レコードレーベル)の創設者で、TM NETWORKなど様々なアーティストのマネージャーを担当されたり、佐野元春さんや、渡辺美里さん、DREAMS COME TRUEなどなど、たくさんのアーティストを世に送り出し、長年音楽業界に携わってこられました。その一方でですね、ソニー製品の代名詞のひとつ、PlayStationの生みの親の一人とも言われています。また私をはじめとして3人で創業した、若いアーティストの才能を世界に広げる音楽エージェンシー、OIKOS MUSICの特別顧問としてもお世話になっている方です。特別顧問として、我々は常々丸山さんに多くの学びや助言をいただいていて、もう4年目になりますが、僕と初めてお会いしたときのことは覚えていらっしゃいますか?
丸山茂雄(以下、丸山):いやーまったく。もう、この年になると記憶が飛んじゃうね、ごめん(笑)。
LEFTY:僕が初めてお会いしたのは麹町のイタリアン・レストランで、フランクにお話を聞かせていただいて、この様なことをお伝えするのは烏滸がましいと思うのですが、80代にして、今の現在の音楽業界の状況やそこに対しての解像度が非常に高い方だなと思ったんですよ。僕もこんな風になりたいと思ったのが、ファーストインプレッションでした。
丸山:ありがとう。
LEFTY:では、様々なお話を伺っていきたいと思います。日本経済新聞の「私の履歴書」という連載記事のなかに丸山さんの自伝記事がありまして。その記事のなかに「何かが面白くってしょうがない、という人が発するエネルギーというのは凄まじい」という言葉が書かれていまして、それが非常に印象的だったんです。「エネルギー」っていろんな種類があると思うんですけれども、丸さんの考える「人の発するエネルギー」っていうのは、どんなものですか?ここからは、親しみを込めて“丸さん”とお呼びします。
丸山:この前新聞を読んでいると、日本はアメリカやイギリスに比べて「起業率が低い」っていう記事があった。起業率っていうのは、その年に国全体で企業が100あったとすると、その中のどのぐらいが新しい会社かということなんだけど、アメリカやイギリスと比べると、日本はその半分くらいなんだって。
LEFTY:なるほど。
丸山:今の若い人は、就活をやるじゃない。それでその枠組みに入っちゃうとさ、協調性があるとかないとかが重視される。でも、協調性を重視していたら、自分の好きなことができない。一方で、自分でガンガンやるっていう人は、そういう社会の状況を乗り越えてやるわけじゃない。だからもしかしたら、アメリカ、イギリスの人達に比べると、日本の若者でその状況を乗り越えようと思う人のほうが、エネルギーはあるのかもしれないと思ってる。
LEFTY:なるほど。丸さんも、もともとは就職活動をされていたんですよね。
丸山:一番初めは、最初は読売広告社。広告代理店だったね。
LEFTY:当時もやっぱり、ある程度協調性を求められていたんですか?
丸山:基本的にはそうだよね。そのラインの中でやんなさいっていうのが基本だから。俺も素直にそうやってたよ。
LEFTY:その中で、鬱屈としたエネルギーみたいなものが、丸さんの中であったりしたんですか…?
丸山:それが、そんなに自我が目覚めてなくて。なんとなく「俺はこのままサラリーマンでいくんだろうなー」って思ってた。自分に特別な才能があるわけもなく、家にお金がたっぷりあるわけでもなく。自分で会社を起こす度胸もなく。でも、その読売広告社って良い会社なんで。結構ね、給料が良くて(笑)。でもちょうどその時に、CBSソニーっていう、ソニーがレコード会社を作るっていう広告を見て、「じゃあこっちに移ってみようかな」って思ったんだよ。なんでそう思ったのか不思議なんだけど。だから、そこは運命だよね。
LEFTY:それからCBSソニーに入社されましたが、元々音楽はお好きだったんですよね。
丸山:それで言うと音楽はね。クラシックとジャズが好きだった。ポップスはね、全然興味はなくて。
LEFTY:その当時で言うと、やはり日本ではロックもまだそこまでですよね。
丸山:日本で全然まだ流行ってなかった。欧米だってそんなにまだロックって時代じゃなかった。ビートルズのブームよりもちょっと前だからね。でも真面目に仕事を一生懸命やってるうちに、ポップスが好きになった。だから、もしかすると自分は音楽そのものよりも、ミュージシャンという“人”が好きなのかもしれない。でも上手くいきそうもないことを一生懸命やる人のことは「なんか手伝ってやんなきゃな」って思うわけ。だから音楽が好きなのか、人間が好きなのかっていうのが、はっきりしないっていう時期だったね。
LEFTY:丸さんもよくご存知かと思いますが、音楽評論家の吉見佑子さんとたまにご飯に行くんですけど、その時に「吉見さんはどんな音楽好きなんですか?」って言ったら、「いや、私は音楽が好きっていうか、人が好きでやってるから」っておっしゃったんですよ。
丸山:吉見さん、思いっきりミーハーだからね(笑)。
LEFTY:そうですよね(笑)。やっぱりそこに近いもので、今、音楽業界というか、エンターテイメント業界も、どんどんパーソナルに寄っていってる感じがしているんです。人となりとか人間性とか、そういうパーソナルな部分に惹かれて、応援している人が多いと思います。
丸山:業界の人間が、やれグッズが売れるとか、ファンクラブの会員数が増えてるとか、そういうことばっかり考えて音楽の方に行かないじゃない。これは「音楽がもう死んでる」って思ってた。もうちょっと真面目に音楽をやってもらえよと思ってた。
LEFTY:なるほど。僕も音楽家として、商業的な成功っていうのと、音楽的な深度の深さみたいなのは、必ずしも比例しないなって思っていまして。自分が研鑽してるものは何か社会のためになってるんだろうか、みたいな気持ちに苛まれるときがあって。その自分と社会のズレみたいなのを少しでも減らしていけたらいいなと、勝手に思っています。
丸山:そう。そこのところが大事だけど。でもね、今の世の中が「こういう流行りだから」ってそこのところに行っちゃうと、大変だよね。軸を失っちゃうから。どこに戻っていいか分からなくなっちゃう。
LEFTY:そうですね。音楽プロデューサーとしてはそういう商業的な成功が常につきまとうなと思いつつ。自分の中での音楽的な深度みたいなものを、深めていくっていうことをコミットしてやっていきたいなって僕自身は思ってるんですけど。
丸山:素晴らしいと思うよ。
LEFTY:丸山さんはソニーに入られてからの業界人生の中で、たくさんの成功も失敗も目にされていると思います。いわゆる成功した人と、うまくいかなかった人で、差って何かありましたか?
丸山:平気な顔して、自分のやりたいことを突き詰めてる人は、どっかで必ず成功してるよね。時代が早すぎて「こんなの売れないよ」ってみんなに言われるかもしれない。でも平気な顔してそれをやり続けてると、その時代が来る。だって基本的に良いものは、お客さんが見つけてくれるからね。だから、見つけてくれるまで、コツコツとやった方がいいよね。
LEFTY:僕も引き続き、コツコツやりたいと思います。まあ、僕も見つけてもらう努力をしていかないといけないんですけど、そういった気持ちで、取り組んでいきたいなと思いました。