
僕は音楽文化としてまだまだ発展の余地はあると思っている(森)
森 : その某著作権団体がここまで嫌われ出した理由ってどの辺だと思いますか
木戸 : 時代に合わなくなったんでしょうね。価値観にも。
森 : やっぱりすべてからお金を取るっていうのはもう限界ですよね。YouTubeとか、誰かがブログに乗っけてるのまで全部を管理はやっぱり無理で、ある程度無料の部分とお金を払う部分を、時代にあわせてもっと適正に定め直すべき。包括契約の分配は適当すぎるし。そもそもの著作権のあり方を根本から見直すみたいな動きも、どっかの国をきっかけに起こり始めることもあり得るんですかね。
木戸 : やっぱりアーティストが変わらないとだめだと思うんですよね。ちょっと怠けすぎじゃないですかね、今どき請求書も書けないなんて。
森 : 虎岩さんも近いこと言ってましたね、結局作り手かユーザーが変わんないと業界の中は変わんないよって。
木戸 : 中の人達は臨機応変に動けますからね。結局そうしないと食ってけないから。

森 : 木戸さんが言うように日本の音楽自体もいい方向になってると思うんですけど、YouTubeとかで色んな曲を聴けるようになったことで、みんなが色んなものを知るようになって、いい音楽がピックアップされるようになったのかなって。
木戸 : いい音楽がピックアップっていうよりは細分化された細かい部分に目がいくようになったんじゃないですかね。例えば、10年前に僕とか森さんが音楽をやってたとして、日本でCDを出したいって言ったら多分無理だったと思うんですよね。どこにも相手にされなかったと思うんですよ。かと言って自分でも立ち上げられない。方法も分からない。iTunesなんて雲の上だし、ディストリビューター50個くらい挟まなきゃいけなかったかもしれない(笑)。
森 : この流れが進めばひょっとして、もっと音楽の質とか業界の流れもいい方向に向かうんじゃないかなって。好みとかを抜かして、ヒップ・ホップであろうがジャズであろうが全部。隠れた才能が平等に人の耳にとまるようになって。ただ、虎岩さんが言ってたように、メジャーの役割はそのまま残りそうで。それとは別に、アーティストが食ってくならやっぱり自給自足していかないと。
木戸 : 高知県の馬路村ってあるじゃないですか、ゆずの産地の。ゆずで色んな商品作るんですよ。ゆずジュースとか、ゆずポン酢とか、今や大ヒット。それもいわば質のいいコンテンツなんですけど、レーベルっていうのはそういう枠組みでありたいと思うんですよね。そこでいう村役場ですかね。ただ、ただの名前だけの村役場。これまではアーティストに対する過剰摂取が激しかったので。
森 : 僕は音楽文化としてまだまだ発展の余地はあると思ってて、アングラなものとしては今までもあったと思うんですけど、もっと幅広い文化として根付かせるには、プロパガンダに踊らされない評価が必要だと思ってて。木戸さんがだんだん日本で評価される時代になってるっていうのは、それに一歩近づいたようで嬉しいんですよね。
木戸 : ただ、僕メジャーは絶対残ってて欲しいですけどね。批判する相手がいないっていうのは、これはもう悲しいですよ(笑)。だけど、いまある枠組みとかができる前に戻りつつあるんじゃないですかね。音楽を作って売るっていう。道端でスイカ売るようなもんで、お客さんに合うスイカならその人はそれを買うし、甘すぎるなんて思う人は批判もするでしょう。
森 : スイカにしてもすっごい健康にいいスイカと、すっごい甘くておいしいものと、歯ごたえが最高なのと、色々あるとして、例えば甘くて最高って思うのも3日食べ続けたら飽きてくるかもしれないし。
木戸 : そうなんですよ。たまにはオリオン製菓のラムネも食べたい訳ですよ。どこの学校にもいたじゃないですか、みんなと違う音楽聴いてるやつ。そんな人たちがたくさんいるのが普通の状況になってきてる。
森 : 選択肢をなるべく提供してあげて、色んな文化が発展するっていうのがいいですよね。
木戸 : ちなみに、Aureoleの3枚目は今までとちょっと違うポジションで作ったんですか? 3枚目ってヒット受け狙いました?

森 : ヒットっていうよりは、文化の発展っていう意味で、知ってもらうきっかけにしたかったアルバムなのは事実なんですよ。いわゆる「売れ線」というよりは、心から文化の発展っていう意味もこめて。でもそれが自分のイメージする反応を獲得できなかったというのが残念ですね。自分はそんなつもりじゃなかったのに、最悪に分かってない意見としては「媚びてる」って思われたり、完全な誤解と思えるところもあって。ポップだろうがなんだろうが純粋に良い作品だと思うんですけどね。
木戸 : 誤解を生むって、僕以外に言われた人いるんですか?
森 : まあたまに… 心外ですけどね(笑) 。それはある程度覚悟してたんですけど、むしろ、そうではない「そういう音楽を聞いた事のない人」の返しがそんなに来なかったのが誤算だったんですよね。でもこれからその路線でこれ以上いくと完全に自分たちの役割じゃないなって。だったら「そういう音楽が好き」っていう人をとことん唸らせよう、かつてないほど驚かせようという方向だけにしようっていうのを今のとこ思ってるんですよね。
木戸 : いやあ、いいことだと思います。僕がおととしソロで出した『Fairy Tale』っていう作品があって、結構聴きやすいんですけど、思ったより反応がよくなくて。その反動でAnoiceで『The Black Rain』を作ったんですよ。タイトルのせいかもしれないんですけど日本のメディア一個ものせてくれなかったんですね。雑誌もwebも全部断られたり無視されたり。けど国内では今までで一番売れたんです。だから、分かんないですね。このアルバムに関してはCDショップの店員さんのおかげですけど。さっき言ったTSUTAYAのコンシェルジュみたいなバイヤーさんが確かに存在してるんですよ。
森 : そういう、一般的な広告ツールを使わなかったものが一番売れたと。
木戸 : 使わなかったんじゃなくて使えなかったんです(笑)。
森 : いわゆる「J-INDIE」「J-ROCK」に寄せるのは、それこそ文字通り、日本のインディー・「ロック」・ミュージシャンの仕事で僕ではないなって。その一方で、ここ数年の在り来たりなエレクトロニカ、ポスト・ロックもとにかく嫌で、その飽和状態をなんとかしようという思いも強くありまして。
木戸 : そういう経緯があってこのアルバムができたんですね。
森 : そうですね。とにかく売れるようにっていうのは汚い意味じゃなく、文化を変えるっていう意味でなんです。
木戸 : 売れさせる努力は大事ですよ。全然効果ないときもありますけど(笑)。この対談の結果としては信じてやるしかないってことですよね(笑)。
森 : そうなんですよ、自分たちのいいと思うものをとことん追求すればいい方向に向かうんじゃないかっていう。
木戸 : やっぱり仕事をちゃんとするってことじゃないですかね。ちゃんと営業して、お金を払えるぐらいCDを売って。ちょっと厳しいこと言うと、今の時代でもアーティストにお金払えないってなったら、これはレーベル側の怠慢だと思うんですね、営業不足。音が酷かったらしょうがないですけど。作品を選ぶのもレーベルですからね。
森 : 結果をちゃんと見せると。
木戸 : そうです、結果を残しさえすれば信頼してくれると思います。たぶんね。
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kilk records session vol.9 オーガナイザー座談会
kilk records session final レーベル・メイト座談会
PROFILE
kilk records(森大地)
2010年、Aureoleの森大地により設立。「精神に溶け込む、人生を変えてしまうほどの音楽との出会い」。kilk recordsはそういった体験を皆様にお届けすることを第一に考えております。オルタナティブ・ロック、ポスト・ロック、エレクトロニカ、テクノ、サイケデリック、プログレッシブ、フォーク、アヴァンギャルド、アンビエント、ヒップ・ホップ、ブレイクコア、インダストリアル、ジャズ、クラシカル、民族音楽... 。魂を震わせるような音楽であれば、ジャンルは一切問いません。kilk recordsが最もこだわりたい点は「独創性」です。信じられないほどの感動や興奮は「独創性」から生まれるように思えます。これから多数の作品をリリースしていきます。末永くkilk recordsにお付き合いくだされば幸いです。
木戸崇博(Ricco Label)
2006年にボストンImportant RecordsよりAnoiceのメンバーとしてデビュー。ソロ名義Takahiro Kidoに加え、RiLF(Anoiceのメンバーとmatryoshkaのヴォーカリストcaluによるバンド)、mokyow(AnoiceのTakahiro Kido、Takahiro Matsue、Tadashi Yoshikawaの3人とキーボーディストKenichi Kaiによるバンド)、cru(AnoiceのTakahiro KidoとYuki Murataによるネオクラシカルユニット)等のバンド / ユニットを結成し、多くのアルバム作品をリリース。UKのCan Evgin監督映像作品「Internet is a Desert」の音楽をAnoiceのYuki Murataと担当し、ヴェネチア国際短編映画祭で受賞。Studio Mangosteenの短編アニメーション「Li.Li.Ta.Al.」の音楽を同じくYuki Murataと担当し、ベルリンとアヌシーの各国際映画祭にてノミネート、及び札幌国際映画祭で最優秀作曲賞受賞。モスクワ国際ヤングヴィレンナーレにて、ウクライナのデザインユニットSYNとのインスタレーション「Enlightenment」を発表。イタリアのファッション・ブランド、アルマーニの短編映画の音楽を担当し、ミラノコレクションにて発表。東宝映画「ホノカアボーイ」の楽曲を一部制作。オーストリア映画「Penerose」の音楽、及び音響エンジニアを担当。ニューヨークのElite Model ManagementをフィーチャーしたUKのRobin Masonの映像作品「Weekend」の音楽を担当。UKのジュエリーデザイナーNoemi Kleinのコレクション映像の音楽を担当。チェコ共和国のヤナーチェクシアターにてバレエ「Tanzbrucke 2011」の音楽を一部担当。豊島区の区政80周年記念、及びセーフコミュニティー認証イベントの映像楽曲制作を担当。ルイヴィトン、Rag&Bone、フォード、Google、NTT、JT、SEEDなどの企業のCM音楽を担当。フランス「Purple」オランダ「Another」イギリス「POST」ベルギー「GONZO」等の多くのアート系マガジンの企画に参加している。音楽レーベル / 制作事務所Ricco Label(リッコレーベル)代表尻拭い役。