oono yuuki bandの特異な音の構築手法──自由に往来する変拍子、立ち上がる空洞

11年ぶりに活動を再開させた『GREENISH BLUE,BLUISH GREEN』(2023年)から約2年。oono yuuki bandから最新アルバム『まわり道、風の三角』が届けられた。本作に通底するのは、ポストロックやパンク、ハードコアの冷たく鋭い眼差し。そこにフルートやサックスといった管楽器や、oono yuukiと「凍れる」でゲスト・ボーカルとして参加した浮の歌声が入り混じり、有機的な温度を帯びていく。彼らの音楽の核には譜面に縛られない変拍子のリズムがあるが、この独自のサウンドはどのように作られているのか。初となるメンバー全員参加のインタビューから、その構築手法に迫る。
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■対象期間
2025年6月25日 (水) ~ 2025年7月16日 (水) 23:59
■対象者
OTOTOYにてoono yuuki band『まわり道、風の三角』のハイレゾあるいはロスレス音源を全曲まとめてご購入いただいたかた
※単曲購入は対象外となります
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■応募方法
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■当選発表
賞品の発送をもって、当選者の発表にかえさせていただきます。
INTERVIEW : oono yuuki band

大久保淳也(Sax)はリモートでの参加
よくあるバンドものの記事ではリーダーなり中心人物なり、代表者を立て意見を求めることが少なくないが、このたびのoono yuuki bandの取材は全員参加。サックスの大久保淳也は諸事情でオンラインでの参加となったが、メンバーもれなく話をうかがう貴重な機会となった。参加者は大久保の他にoono yuuki(Gt, Vo)、高橋洋成(Dr, Per)、樺山太地(Gt)、佐々木雄大(Fl, Per, Tp)、後等太一(Ba)の6人。後等はともにラブ・ワンダーランドのサポートをつとめていた樺山の推挙で今年7月より正式加入した新メンバーなので、今回の取材のおもな話題である『まわり道、風の三角』には未参加である。すなわちoono yuuki bandはすでに次の段階(第7期)に移りつつあるのだが、だからといって『まわり道、風の三角』の特異さと稠密さと奥深さにはいささかの揺らぎもない。oono yuukiの言葉を待つまでもなく、ハードコアを基調にしたサウンドの最初の一音に、これまでの3作で培った彼らの少数言語にも似た音楽言語の結晶化したものが宿っている。巷間を見渡してもなかなか見当たらないこのユニークな音楽性は何に由来しどこに向かいたがっているのか。oono yuuki bandに言葉を持ち寄ってもらった。
取材・文 : 松村正人
撮影 : 小財美香子
“宇宙戦艦ヤマトの膨らみ”をイメージした造形的な音作り
──実質的に第6.5期oono yuuki bandによる『まわり道、風の三角』は表題が印象的です。どのようないきさつでこのようなタイトルになったのでしょう。
oono yuuki(以下、oono):いろいろ迷って決まらないままにずっときていたんです。「風の三角形」という風力と揚力、正しくはわからないのですが、飛行機の飛行に関する力学の図形にそういう言葉があったのを、どこかで聞き知って、アルバムジャケットに写っている塔(針尾無線塔)を実際に見に行ったら、塔の中に風が吹き込んで渦を巻いていたんですね。外から見たら静止してどっしりとしているんですが、塔の中で風が囂々と吹いていた、そのことが印象に残ったのと、撮影のためにこのまわりを3日間、ぐるぐると回っていたという、曲線が重なっていくようなイメージが曲をつくっていたときにもあったと思い出して、そのようなタイトルになりました。
──この塔には入ることができるんですか。
oono:1本だけ入れるんです。
──カバーに掲載している篠田優さんの写真は絵画的で、きわめて静的ですが、中では風が渦巻いていると。レコーディングに臨むにあたっての構想はどのようなものでしたか。
oono:漠然と、音の色とか温度のイメージはずっとあったんですけど、こういうものをつくろう、全体像に対する方針のようなものはなかったです。
──これまでのペースを考えると、2023年の前作『GREENISH BLUE,BLUISH GREEN』からあまり間を置かずのリリースになります。
oono:前作を録ったのは実は2020年で、出るまでに3年かかっていているんですね。そこから考えると、今年2025年ですから、『まわり道、風の三角』をつくりはじめるまで5年ほどかかっていて、その間自分が聴いたものがパンクだったり、わりと殺伐とした音楽が多かったので、そのような影響はあるかもしれません。
──パンクにもいろいろありますが、具体的にはどのようなレコードですか。
oono:フガジにいたギー・ピチョットのライツ・オブ・スプリングとか──
──話をさえぎって申し訳ないですが、『まわり道、風の三角』のジャケットはフガジの3作目(『In On The Kill Taker』)へのオマージュかと思っていました。針尾無線塔をワシントン記念塔になぞらえているのかと。
oono:フガジは好きですね。他にはパンソニックも聴いていました。
──パンソニックというのはミカ・ヴァイニオの?
oono:そうです。どん底というか。コロナの期間とも重なっていて、普段それほど音楽を聴かないんですが、さらに聴ける音楽が少なくなってきて、パンソニックばかり聴いていました。実はだいぶ前になりますが、パンクの曲を1〜2曲、つくったことがあるんですよ。未発表なんですけど。
高橋洋成(以下、高橋):4〜5曲やったよ。
oono:高橋くんとふたりでスタジオに入って。2013年から14年の間でした。活動休止中で、リハビリとしてパンク・バンドをはじめたんです。ギターがクリーントーンで、アップテンポ、サーフっぽさがあるけど、パンクの要素が強い、というような感じの曲でした。
──速いですか。
oono:速いです。テンポも速いですし、尺(時間)も短い。1分くらいです。
──『まわり道、風の三角』もその頃のことを少し引きずっているかもしれないですね。
oono:あと自分が十代のときのバンドの音源がたまたま出てきてそれを聴いたことも大きかった。当時一緒にバンドやっていた友だちが亡くなっちゃったんですけど、彼がつくった曲とかが出てきて、その人もパンソニックとか、すごく好きだったし、ジャー・ウォブルが世界で一番好きだったんですよ。
──ご友人はベーシストなんですね。
oono:そうなんです。ジャー・ウォブルが使っていたオベーションのマグナムを弾いていました。それを自分が今回、レコーディングで使うことになったんです。遺品のベースを引き受けて、レコーディングで使ったこともサウンドに影響しているかと思います。
──たしかに本作ではベースサウンドは個性的でした。音色が独特でしたし、一般的なセオリーからは考えつかないフレーズの組み立て方をしていると思いました。
oono:今回、ベースから全部つくっていったんですね。
──そうでしょうね。ベースが今回、すごく自由な立ち位置にいると感じました。
oono:ベースを使って曲を全部作っていったのと、自分はベースがメイン楽器じゃないので、多少変な弾き方になってしまうというか。
──演奏はピックですか。
oono:いや、指なんです。全部指です。
──ブリッジミュートで指で弾いているパターンもありそうですが。
oono:ミュートしているところもあります。あのベース自体がちょっと変わった音がしますね。あとはエンジニアの君島(結)さんのエンジニアリングも非常に大きいと思います。

──君島さんとは音作りについて、どのように話し合われました?
oono:宇宙戦艦ヤマトの下の部分の膨らみのようなベース音がいいと思いますとか(笑)、なんかもう支離滅裂なことを僕はずっと言っていて、君島さんはそれをずっとやさしく聞いてくださるという。
──前作『GREENISH BLUE,BLUISH GREEN』に絵画的な側面があるとしたら、『まわり道、風の三角』は造形的といいますか、音の立体性や奥行きを意識されているのではないかと思いました。
oono:〈ツバメスタジオ〉という場所の感じも大きかったと思います。シングルの「Surfin' (Longboard ver.) 」に続いてアルバムのレコーディングもお願いすることになったんですが、僕らは普段メンバーがいるときは一発で録ることが多いんですね。それが今回は僕がベーシストを兼ねていたので最初にドラムとベースとギターの樺山くんで録るというパターンが軸になりました。その後、管楽器をダビングしたり、ギターを重ねたりしました。はじめてのやり方だったので、最初は慣れなかったですが、ひとつひとつの音をちゃんと聴いて重ねていけたのはよかったです。あと管楽器の二人への負担も少なかったのがよかったです。佐々木くんはアルバムのレコーディングは今回はじめてでしたが、ジュンジュン(大久保)は前回大変だったもんね。
大久保淳也(以下、大久保):前回は吹きっぱなしで大変でした。ずっと吹いているも大変なんですが、神経を研ぎすまさなきゃいけないので、それで1曲丸々通してずっとやっていくと、心身的に疲れちゃって──というのが前回でしたが、今回は分けて録ることが多かったんで、そこらへんは対応できたかなと思っています。
──大久保さんと佐々木さんがホーンセクションを組んでからまだ日は浅いですよね。
佐々木雄大(以下、佐々木):「Surfin' (Longboard ver.)」の録音にも参加したので機会としては二度目でしたが、アルバムというまとまった作品に携わるのは初めてで、今まで自分の経験してきたことと、このバンドはちょっと違うなと思いました。さっきベースの関係から分けて録るという話がありましたけど、一発録りの曲も、2曲かな、あったんですね。一発で録った時の、さっきジュンジュンさんが言っていた神経を研ぎ澄ますというんでしょうか、でっかい音につつまれながらフルートを録音すること、自分の音もはっきりしない状況下で、研ぎ澄ましてみんなと溶け込むような、集中してやるあの感覚は初めてでした。
──レコーディング期間は何日くらいですか。
oono:3月の延べ4日間ですね。今までは一発録りでだいたい2日だったので、いちばん時間かけたアルバムかもしれません。

──ギターのパートなどの兼ね合いはoonoさんと樺山さんお二人で決めたんですか。
樺山太地(以下、樺山):今回はデモができてから録音までの日にちが1ヶ月くらいだったので、oonoさんがつくったデモをアレンジするというか、尊重するかたちで仕上げていきました。デモをほぼコピーした箇所もあるんですが、それを実際にスタジオに行って合わせてみてなじむようにする、という作業ですね、音色とか。
──樺山さんのギターはバンドにおいて遊軍的といいますか、アンサンブルのあらゆる場所に遍在しますよね。音の空いているところに入り込んでいく、といいますか。
樺山:隙間産業なんです(笑)。
──その表現が正しいかはさておき、多人数の編成内でのご自分の立ち位置というものについて、どのように意識されていますか。
樺山:管楽器が二人いて、音がぶつかったりするのを気にしつつ、演奏するというのは決めています。
──逆にそれ以外、管楽器の対抗メロディを担ったり、oonoさんのギターと絡み合ったり、リードやサイドギターという役割を離れて自由にふるまえるということですよね。
樺山:でも基本的にoonoさんが考えたフレーズが軸なので、そこはoonoさんのアレンジなんですよ。
──oonoさんは全体像を考えてらっしゃるということですね。
oono:今回はその側面が強かったような気がしますが、ドラムに関してはもうお任せです。
──高橋さんは気心が知れているし、お任せで、ということですか。
oono:というか、ドラムの場合、デモはほぼキックだけなんですよ。金物まで打ち込むと拍子が決まっちゃうんですね。たとえばキックが4発、8発あったとして、それ全部ハイハットとスネアを入れちゃうと8ビートになっちゃうんですけど、そこを気にせずに曲をつくっていくので、刻んでいるキックを3で数えていったり、4で数えていったり、それをできるようにイーブンにキックだけを入れておくんです。
──5曲目の「ヨキ」は5拍子ですよね。それも楽曲が仕上がるにつれ、そうなってしまったということですか。
oono:そこが素人仕事たるゆえんなんです。それをあとからみなさんに教えてもらうんです。管楽器の二人とか、樺山くんもそうです。昨日も教えてもらいました(笑)。
樺山:曲の最後で拍子が5から4になるのを、oonoさんはずっと気づいてなかったんです。この5年間ぐらい(笑)。
oono:12年くらい気づいてなかった曲もあります。「S/N」(『stars in video game』収録)の途中が3拍子なのも知らなかった。
高橋:各楽器ごとに感じている拍子とか拍が違うんですよ。だから自分が(カウント)4回ではじめるね、といっても、「いや、6でしょ」みたいなツッコミが入ったりするんです。