日常と切り離されたライヴ空間でありたい
——続いて“ViewPoint“はどんな曲になりましたか?
Taochy:これはチャーリー・XCXのリフをサンプリングしたり、日本人なりのハイパーポップをやってみたくて振り切って制作しました。歌詞は自分を客観的に見ることをテーマにして書いています。漫画「ブルーピリオド」のなかに、壁の穴を覗き込むと、穴の上に自分の目が投影されるというインスタレーションが登場するんですよね。その作品のテーマが「人は穴を覗くとき、自身も見つめられている」と解釈して、イメージを膨らませて楽曲を制作しました。
——次の“Kisaragi Park”ですが、タイトルはどういう意味なんですか?
Taochy:ネットから生まれたひとつの都市伝説で「きさらぎ駅」というどこかに存在していると言われている駅があるんです。それをパークに変えて、インターネット上で集まる不穏な場所をテーマに作りました。
——8曲目の“Qall”ですが、これはどういう曲になりましたか?
Taochy:これは、世界の流れに流されてしまっている人をテーマにしました。僕はそういう生き方は退屈なんですけど、「流れに身を任せるのは楽でいいよね」という肯定的な意見も周りにあるんです。いろんな意見がある曲だなと思います。
Deewa:僕は「流れに身を任せる」という選択すらも「Vector」だと思っていて。何もしないことも「何もしない」を選択したことになるんですよ。曲自体は同じフレーズを繰り返すことで世界観を作っていますね。
——続いては“Interlude”ですが。
Taochy:これは次の“Liminal”に繋がる曲として“Qall”を作ったんですけど、どうしてもキーが合わなくて、間を繋ぐための曲です。New Orderの「Blue Monday」のキックをサンプリングして作りました。
——そして先行曲の“Liminal”ですが、どんな曲になりましたか?
Taochy:「リミナルスペース」というネットミームがリファレンスになっています。これは、普段人がたくさんいるのに、誰もいない場所の写真なんですけど、どこか不穏な感じがするんです。僕にとって「リミナルスペース」は、人がいる時間/いない時間がただあるだけで、その時間がパラレルで無数に存在しているんじゃないかと考えているんですね。それでこの考えをT.M.Pのフロアに当てはめてみようと思ったんです。ライヴ会場に来た/来ていないというパラレルな世界があるけど、今ライヴをしているこの世界はここにしかない。この瞬間僕たちのライヴをみているのは君たちしかいないんだということと、それをやっている僕たちも僕たちしかいないなと。パラレルに対して自分たちはここしかいないと思って作りました。
Deewa:フロアは、お客さんにとっても、僕たちにとっても選択肢の中から選び取ってたどり着いている場所なんです。だから「Vector」と「Scalar」という概念は“Liminal”でも大事なんじゃないのかなと。

——11曲目は“VirtualAirRider”です。
Taochy:これは、ゲーム「スマッシュブラザーズ」がイメージの元になっています。「スマブラ」には、任天堂だけじゃなくて、ドラクエとかFFとかいろんな世界のキャラクターが集合しているんです。そのイメージで、いろんな壁を壊して1つの世界を作ったらどうなるんだろうと思って曲を作りました。僕らはVRChatも好きなんですけど、これがオープンワールドみたいになっていたらもっと素晴らしいなと思って、空を飛びながら自由に行き来している様子を描きました。タイトルの「AirRider」は造語なんですけど、アニメ「エウレカセブン」をイメージしています。2番の歌詞にはくるりの「ハイウェイ」をリファレンスしている部分もあります。
Deewa:他にもオアシスの“Morning Glory”だったり、Taochyの好きなアニメや音楽がこの曲にはいっぱい入っていますね。様々な作品の要素を取り込むことで、世界をまたいで行き来している様子を表現しています。
——そして最後“Vector”です。長尺の曲ですが、どのように制作を進めていったんでしょうか?
Taochy:ミドルテンポの曲を作るというアルバムの構想のもと、BPMも遅めに設定しています。このBPMでもお客さんを満足させられるかという挑戦でもありましたね。モッシュが起きるというより、シンガロング的な感じです。僕は3月に観たポーター・ロビンソンのライヴに衝撃を受けて、そこがリファレンスになっている部分もあります。
——歌詞はどのようなイメージなんですか?
Taochy:結局「Vector」って選択の連続だなと思ったんです。自分たちで何かを選んで、どう動くかということがずっと付き纏うのが人生なんだろうなと。だからこそ「その選択を恐れることはない」というメッセージを込めました。
Deewa:これまでT.M.Pの活動の中でも、色々考えることはあったんです。でも考えた結果とった選択は恐れるものではなかったし、肯定できるのは自分しかいないと思いました。これは、いろんな選択を肯定した決意の曲だと思っています。
——最後にT.M.Pが今後成し遂げたいことを教えてください。
Deewa:T.M.Pはバーチャルモッシュパーティーバンドを自称しているんですけど、そのバーチャルとはVR空間やインターネットのことだけでなく、日常と切り離されたライヴ空間にしたいって意味も込めてるんです。だから没入感のあるライヴ体験を作りたいなと思っています。もっと現実から離れられるようなコンセプチュアルなことがしたいですね。
Taochy:T.M.Pは他のアーティストがやらないようなことをやっているのが強みだと思っていて、今までにないライヴ体験を更新し続けたいと思います。でもそれを更新し続けていくためには、リスナーの数を増やしていかないといけない。いろんな人に聴いてもらって、その上で僕らしかできないことをやりたいです。

編集 : 西田健 & 草鹿立
T.M.Pの決意がこもった初アルバム
PROFILE

2018年結成、2022年より本格始動。東京・大阪在住の二人組によるバーチャルモッシュパーティーバンド。 ハイパーポップ、ニューウェーブ、オルタナティブロック、シューゲイザー、ヒップホップなど多様な音楽から影響を受けたダンスミュージックを展開する。フロアの熱量が最大限に高まった結果起こる現象をモッシュと定義し、熱狂的なモッシュが起こるライブ空間を作り続けることを目標としている。ライブではVJを起用しており、音楽以外の要素を積極的に絡めたパフォーマンスを行う。関西地方のコレクティブ「KANG SIGH HYPER CREW」に所属。
T.M.P 公式twitterアカウント
https://twitter.com/THRMOSHPARTY