電音部、カブキエリア真新宿GR学園がステージに襲来!──〈GR Masquerade〉ライヴレポート

バンダイナムコエンターテインメントが仕掛ける本格的なダンスミュージックを中心とした、音楽原作のキャラクタープロジェクト〈電音部〉。そのオールナイトイベント〈GR Masquerade〉が2022年12月10日、東京渋谷・道玄坂のライブスペースduo MUSIC EXCHANGEにて開催されました。カブキエリア真新宿GR学園がステージで大暴れした、そのイベントの模様をOTOTOYのスペシャルレポートをじっくりお届けします。
〈電音部〉カブキエリア真新宿GR学園の音源、配信中!
REPORT :〈GR Masquerade〉
取材&文 : 西田健
撮影 : 宇佐美亮
12月10日、深夜0時。夜の帷が降りた東京渋谷・道玄坂のライブスペースduo MUSIC EXCHANGEには、イベントのドレスコードである真っ黒な服装に身を包んだ人々が集まっていた。その日、開催されるイベントの名前は、「GR Masquerade」。バンダイナムコエンターテインメントが仕掛ける本格的なダンスミュージックを中心とした、音楽原作のキャラクタープロジェクト〈電音部〉。そのオールナイトイベントとして行われるものである。
電音部には、エリアと呼ばれるチームがそれぞれに存在しており、今回の「GR Masquerade」で登場するのは、コンテンツの中で新たに生まれた新エリア、カブキエリアである。今年の3月に開催されたライヴイベント〈電音部 2nd LIVE -BREAK DOWN-〉にて、その存在が明らかになったカブキエリアは、この電音部全体のストーリーにおいては、悪役的な立ち位置を担う。電音部の新章として登場したこのエリアは、その設定のなかに含まれる「違法DJ」というワードで度々SNSを賑わせるなど、注目度も高い。


今回、開催される「GR Masquerade」で事前に明らかにされていたのは、イベント名、出演者、時間程度で、どのようなイベントが行われるのかは、ほとんど謎のまま。しかし、そのような状態にも関わらず、チケットは完売である。会場内にBGMとして、カブキエリア真新宿GR学園の楽曲“禁言”のインストが怪しげな雰囲気を醸し出すなか、今か今かと開演を待ち望む観客で賑わっていた。
定刻を少しすぎ、オープニングBGMが流れ出すと、前方スクリーンに、真新宿GR学園のロゴが浮かび上がる。そこに現れたのは、大神 纏役の吉田凜音、安倍=シャクジ=摩耶役のSONOTA、りむる役のをとはの3名。彼女たちはそのまま、カブキエリアのエリア曲である“禁言”をプレイしはじめた。この「GR Masquerade」は、いわばカブキエリア真新宿GR学園としてのお披露目イベントであり、彼女たち3人にとっても生のパフォーマンスもはじめて…のはずなのだが、それぞれが完璧に仕上がっている。もう何年も共に年月を過ごしてきたかのようなチームワークで、客席を完全に掌握しているその様には、正直驚愕した。

3人で“禁言”を歌い終えると、ステージには大神 纏役の吉田凜音ひとりになり、彼女のソロ曲“Cheater”へ。恋愛リアリティーショーへの出演などでも知られる吉田凜音だが、ラップのスキルは折り紙付きで、強靭なステージングはまさにホンモノ。時折不敵な笑みを浮かべ、余裕を見せつけるようなスタイルで、会場全体を飲み込んでいく姿は圧巻だった。フロアを完全にロックした彼女は、次に出演するDJ、NARISKを呼び込み、ステージを去っていった。

ここからは、NARISKによるDJの時間がはじまる。しかし、そこで展開されるのは、ヒップホップ、トラップ、トライバルなビートを軸にしたDJプレイであり、いわゆるアニクラで流れるような歌モノというわけではなかった。フロアのあちらこちらではSHAZAMというアプリでかかっている音楽を検索する人々の姿が見られたが、ほとんどがそこにひっかっからない、かなりディープでゴリゴリな選曲である。もちろん客席にいるのは、電音部のファンがほとんどであり、NARISKがかけるような曲に触れたこともなかった人々もかなりの人数がいたと推察される。そういった客層に媚びることも妥協することも容赦することもなく、自分の世界をDJで表現していく。最後まで、彼の持ち時間のなかで電音部の楽曲はかかることはなかったのだが、それであっても客席がそれにしっかり応えていたのが印象的だった。

続いてステージに現れたのは、日本にとどまらずアジアを中心に注目を集めるSSW、OHTORA。R&Bやシティーポップなどの音楽をJ-POPに落とし込んだ楽曲で、バックDJのmaeshima soshiと共にフロアを盛り上げていく。途中、アザブエリアの楽曲“KOI WAZURAI”をOHTORA Ver.で披露すると、彼のスウィートかつパワフルな歌声にフロアは完全に魅了されていた。
こういったキャラクターコンテンツで、歌モノではないヒップヒップDJや男性SSWが登場したりするのはアウェーの空気になるのではないかと思うのだが、全くそんなことはなく会場全体が完全にホームの空気だったことに驚いた。フロア全体にこういう光景を作り出すことができているのは、「どんなことをやっても楽しんでもらえるだろう」という電音部の運営側の自信と、「どんなことが起きても楽しむぞ」という客側の期待による信頼関係があるからこそなのだと思う。これこそが電音部というコンテンツの凄さである。

OHTORAのステージで完全にボルテージが上がりきったフロアにDJ、Sho Okadaが煌びやかで治安の悪いビートを流し込むと、そこら中からクラップが鳴り響いた。Sho Okadaはさらに、BPMの早いバッキバキのベース・ミュージックを展開。このイベントでまず最初に披露された“禁言”や、アザブエリアの楽曲“いただきバベル”、そのほか自身が作曲を手がけた楽曲までも、マッシュアップで自身の色に染め上げていく。その姿はまさに、「違法DJ、襲来」というカブキエリアのキャッチコピーのイメージそのものだった。
ライヴアクトとして次に登場したのは、安倍=シャクジ=摩耶役のSONOTA。普段はおーるどにゅーすぺーぱーというユニットでの活動のほか、MCバトルの大会に出場し、バッチバチにかましまくっている彼女だが、この日はまた一段と様子が違った。タイトルの通り、狐が取り憑いたような妖艶な表情を浮かべながら、ソロ楽曲“狐憑キ”を披露。すでに配信されている音源で聴くより、ライヴではドスの効いたガナリ声の迫力により魅力が何倍も上がっていた。楽曲のキメ台詞「頭いいフリやめな?w」で何人もの観客がノックアウトされていく。ちなみに、筆者もそのひとりだ。


続くDJのShogo Nomuraは時折ゲームミュージックを織り交ぜながらも、彼独自の世界観を提示。ハラジュクエリアの楽曲“Distortion”や“シロプスα”をエフェクトで歪ませながらプレイすると、観客は一気に湧き上がる。そこに、クラブの爆音で聴く電音部楽曲の素晴らしさが伝わってきた。時間はもうすでに深夜3時を回っているのだが、低音が鳴り響き続ける会場には、なぜだか心地のよい空気が蔓延していた。
ライヴアクトとして最後に現れたのは、りむる役のをとは。彼女は、音楽制作から映像・イラスト制作まで行うマルチクリエイターであり、ハラジュクエリア桜乃美々兎のいわゆる闇堕ち楽曲 “Do you Even DJ? 2nd”のジャケットデザインを手がけた人物(ここに、カブキエリアとハラジュクエリアの因縁めいた文脈を感じる)。声優やユニットでの歌唱については、今回の電音部プロジェクトへの参加がはじめてのことなのだが、リリースされたばかりの“ハカハカイプリンセス”を歌うその姿には、そのりむる役としての再現度の高さにただただ驚くばかりであった。


をとはからバトンを受け取ったのはDJ、KOERU。Repezen Foxxの楽曲を数多く手掛ける彼は、EDMを中心としたスタイルでフロアを包み込んでいく。シブヤエリアの楽曲、“Be All Right”や“CHAMPION GIRL”で見せるサービス精神も欠かさない。とめどない音の洪水が会場全体を支配していた。
KOERUのDJが終わると、再びりむる役のをとはがステージへ。いったいなにが行われるのか、客席全体がざわついていると、そこで披露されたのは、なんとまだリリースされていない最新楽曲だった。バッキバキのビートに、をとはの台詞が乗る、なんとも治安の悪いナンバーである。ステージを縦横無尽に走り回り、時折寝転がりながら歌い散らかす彼女の姿を見ていると、頭がバカになるくらい楽しくなってしまった。


をとはによる、とんでもないステージが終わり、このイベントのクロージングDJであるShin Wadaのプレイがはじまった。時刻はこの時点で朝の4時をまわっているのだが、容赦のないキックが会場全体に響き渡る。かなり情報量が多い楽曲群をプレイし続けた彼だが、踊り疲れた体には妙に心地よく感じられた。Shin Wadaはさらに、ハードテクノにシュランツでビートの渦に客席を巻き込んだあと、アンビエントでイベントを締め括ったのであった。
かくして、「GR Masquerade」は幕を閉じた。「Masquerade」とは良く言ったもので、このイベントは電音部の「仮面」を被った極めて本格的なクラブイベントだった。すでに90曲以上がリリースされている電音部の楽曲だが、イベントのなかでそれらがプレイされたのは、トータルで2割程度ではなかっただろうか。終演後のSNSには「全然知らない曲ばかりだったけど、本当に楽しかった」「こんな時間の渋谷、しかもライブハウスに来ることは今日のイベントがなかったら一生なかったと思う」「こういう場所に一歩踏み出す勇気をくれる電音部が好きだ」という言葉が溢れた。電音部は、スタート当初から「新たなカルチャーとの遭遇体験」をテーマに掲げ、それを体現するべくプロジェクトを進行してきた。その目論見は、大成功だ。電音部は、これからもエリアミーティングなど、様々なイベントを開催する予定だ。電音部はエリアによって楽曲に違いがあるため、それぞれで雰囲気も変わってくるだろう。来年2023年には、ますます大きな展開が見られるであろう電音部から、これからも目が離せない。
