都市の力を味方につけることで女性の力を底上げする戦略がおもしろかった

ーー心拍数のシステム以外で、リアルタイムで感じられる仕組みで進んでいるものはあるんでしょうか。
小林 : 少しズラして答えてみると、視覚聴覚という楔からアイドルを解き放ちたいんですね。まだ使われている頻度が少ない感覚として嗅覚と味覚が残っていると思うんですけど、味覚に関しては「あーん会」とか、アイドルがファンに何か食べさせてあげる物販みたいなものがあって。でも、触覚・味覚は現場じゃないと味わえないですよね? だからこそ握手は地下アイドルの現場性の象徴だったんですが、まずそれを拡張したくて鼓動を飛ばしたいなと思った。それに加え、嗅覚はまだ利用が少ないし、現場と在宅を繋ぐ感覚なので、嗅覚を利用すればリアルタイムとしての“現場”を遷延させる仕組みが作れるかなと。嗅覚って存在というより“存在感”に関わるんですよね。リアリティを持って現場を思い出すのに、匂いの感覚が記憶に結びついているので、そうしたところは使えるのかなって。
ーーちなみにお披露目の日程は決まっているんですか?
小林 : 9月4日に原宿ストロボカフェでワンマン・ライヴを行います。ちょうどBiS再結成ライヴの前の時間なんですよ。だからその前に寄ってください(笑)。
ーー(笑)。原宿もテーマの一つになっていますが、これはどういう意図があるんでしょう。
古村 : もともとアイドル自体、オタク文化の1つとして発生したということもあって秋葉原がメインの場所だったと思うんですね。それを相対化するものとして新宿の楽曲派とか、渋谷の女子性やギャル性と結びついたアイドル文化が出てきた。そういうふうにしてアイドルが多様化してきた結果、男は身勝手なので全部一斉に見たいという欲が出てきて、どこのアイドルかは関係なく陳列された状態で見ることができるアイドル・フェスが生まれた。「秋葉原のアイドル」みたいに界隈ごとに分かれていたものを全部均して並べる点で、「場所性をなくす場所」としてお台場とか新木場が機能しているんです。でもそれって結局、男の欲望を網羅するという点でファンの男性的欲望がどうしてもメインだったと思うんですよ。それに対してこの2年くらいで出てきたのが原宿発アイドルだと思っていて。

都倉 : 神宿さんとか原宿駅前パーティーズさんとか。きゃりーぱみゅぱみゅさんとかも、ある種そうかもしれないですね。
古村 : 男性の欲望でしかなかったものに対して、明確に女性の欲望を対峙したっていう点で区別されるイメージがあるんですよね。わかりやすいのが例えば原宿発アイドルのmeltia。彼女たちはまずロリィタという衣装自体が、女性(正確にはマイノリティとしてのロリィタ好き)の欲望をどう肯定するかを強く意識している。その上で、それこそmeltiaはストロボカフェでライヴをしていたりするんですけど、男たちでライヴを観に行こうとすると、男2人で原宿を歩いていかなければならない。クレープを食べている女の子たちの場所に入っていかないといけない感じ。それは秋葉原でも渋谷でも新宿でもなかったと思うんですよ。要するに、都市の力みたいなものを利用しているのが新しいなと思っていて。女の子たちだけではオタク的欲望に対抗できないところを、都市の力を味方につけることで女性の力を底上げするみたいな戦略がおもしろかった。
ーーなるほど。
古村 : やっぱり僕の中で原宿発アイドルは特殊化された存在として映っていて。だったら自分達のグループも原宿発アイドルにしようと思ったんです。ただ一方で、女性の側からみても原宿を好きじゃない女性っていると思うんですよ。それもあって、表参道、青山といったもうちょっとハイソな領域も加えて、初期はこの3つを中心にしようと考えています。


今までアイドル界隈で推しを選んでいたのとは違うやり方を提示したい
ーーこれまでの話を聞いていて、確かにおもしろいなと思うんですけど、もはやアイドルではないような気もしていて。特にメンバーの顔も名前も出ないってなった時、女の子たち自身が一番輝くのはどこなんでしょう。
都倉 : 顔が可愛いとか仕草が可愛いとかそういうのって、結局男目線なんですよね。外見を中心とした第一印象で決まってしまう要素で、受け手はアイドルを選んでいる部分があって。例えば、顔を隠したとしても、名前がなかったとしても個性ってにじみ出ちゃうと思うんですよ。そういうもので好きなアイドルを選ぶ体験をファン側ーー主に男性にしてほしい。そういう意味でも、今までアイドル界隈で推しを選んでいたのとは違うやり方を提示したいなと。

ーー変な話、名前もなくて顔もわからなかった場合、メンバーが脱退して入れ替わっていても気づかないですよね? そこは入れ替え自由な存在としてメンバーを考えているのか、絶対このメンバーじゃなきゃいけないのか、どう考えていますか。
古村 : 2つ答え方があって、1つ目は究極的には入れ替え可能であると。コンセプト・レベルで、人よりも場や都市の力を称揚したい思いはあります。実はメンバーの数がよくわからなくなる仕組みも考えたりしているんです。一方で、これは明言したいんですけど、この子たちがいいと思って採用しているので、いまのメンバーじゃなきゃダメなんです。個々人の個性というか、輝きが出る仕組みも作っていますし。いずれ顔を出す時期がやってきたり、アイドル現場以外で顔を見られる場所も作る予定です。それもただ出すわけじゃなく、ファンのみんなで探してほしい。そんな仕掛けを考えています。
みきれちゃん : 僕は楽曲制作がメインなので、コンセプト部分にはそんなに加わっていないんですけど、実際のところアイドル的だと思うんですね。全部ではなくても顔は出るし、ライヴもするし、歌うし、踊るし、接触もするわけですし。自分は曲を作ってこういうふうにパフォーマンスしてほしいって伝えているんですけど、アイドルがやるからこそ栄えるような曲にしています。なのでアイドルとして見ようと思えば全然見れるコンテンツにはなってると思うんですよ。ただ最初は何かすごい違和感はあると思いますけど。
ーー最後に1つだけ教えてください。グループ名はなんていうんですか(笑)?
古村 : 一応表記は「・・・・・・・・・」なんですけど、どう発音したらいいのか僕たちもまだわからないんです(笑)。
都倉 : 我々はドッツって読んでますけど、なんでも好きなように呼んでもらえたら嬉しいです。
LIVE INFORMATION
・・・・・・・・・初観測ライヴ
2016年9月4日(日)@原宿ストロボカフェ
時間 : OPEN / START 13:00 / 13:30
料金 : 500円+1D
内容 : ライヴ&物販
PROFILE
・・・・・・・・・
東京で観測される現象。
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