
他の楽器が入る空間性を演出するのがすごく好きなんです

——ドラム以外の楽器はやらなかったんですか?
やりましたよ。僕、バイオリンをやっていたことがあるんですよ。隣近所の人からお下がりをもらって。でもそれは全然好きじゃなかった。結構長いことやっていたんですけどね。バイオリンって押さえるところが決まっているんですけど、ドラムって決まっていないじゃないですか。こんなでかい丸をパーンって叩くって所にぐっときたっていうのもあるんですよね。
——千住さんは、変拍子など繊細な叩き方をされている印象があるのですが、ドラムの音色そのものにこだわりはありますか?
あるある。僕は、どちらかというと音色のほうがメイン。たまたま変拍子とかそういうバンドをやってますけど、実は全然得意じゃなくて(笑)。頭の中も数学的じゃないから。音色としては、そのものを活かしきるよりも、殺していく音色作りが好き。プロジェクトによりますけど、スネアに関しても好みは如何に音を縮めて短くしていくか。叩いた音が鳴りきっていたら”ドーン”ってなるけど、ミュートしてたらドッとなるようにスペースが出来るんですよ。他の楽器が入る余白が出来る。その空間性を演出するのがすごく好きなんです。
——その空間性の作り方が、色んなバンドから千住さんが引っ張りだこになる理由なのかもしれませんね。最近はどんな音楽を聴いているんですか?
電子音楽かな。60〜70年代の本当にピュアな電子音楽。アナログな感じの電子音のレコードとかばっかり聴いてます。やっぱり昔から電子音っていうのが好き。昔は漠然と電子音が好きだったんですけど、最近は自分はどの辺の電子音が好きなのかっていう範囲がわかってきて、そこを重点的に聴いている感じですね。
——作り込まれた音楽の反面、バンドの有機的な部分も重要なんですね。やっぱり、様々なものごとに関して1つの視点に縛られるのではなく、振れ幅を持つことを意識しているんですね。
うん。バンドとかドラムって、もう生活の一部になっているからね。高校生からやっているし、やっぱりバンドで叩くと体の調子がよくなる。部屋に籠って音楽ばかり聴いているとストレスたまって暴れたくなってくるんですよ。そういう時のライヴでは、けっこう暴れたりする。だから、ライヴで毒だしじゃないけど、自分の中の入れ替えをしている。ライヴだけやっていても枯れていくし、入れるものがないとそれもよくない。そのバランスが大切で、作用/反作用みたいに循環していくんですよね。
——山本さんとのレコーディングは、どのような状況だったんでしょう? COMBOPIANOとは、臨み方も演奏方法も違うと思うのですが。
音作りは全然違いましたよ。最大限まで音を殺すというか、山本さんもそういう音がすごい好き。リズムっていうよりも1音1音置いていくっていうか、グルーヴとかよりも伸び縮みもある音を意識しました。2人で録音したので、空間性を活かしたいっていうのもありましたね。それに気持ちの面でも全然違う。
——COMBOPIANOは1日で詰め込んだ緊張感があったと思うのですが、山本さんとの方も違った緊迫感があったのかなって思ったんですが。
緊張感っていう意味では山本さんの方が全然あるかも。音は全然ちっちゃいけど、あの人とライヴをやる時に緊張しないことはないですね。あの人は敢えてそういうところに自分の身を置くから。わかりやすく言うと、リハをあまりせず臨むとか、そういうところに自分を追い込んで、そっから出てくるものを楽しむという部分がある。自分でもわからない、その状況に追い込まれてでるものを求めている。そういう状態で音楽をやるっていう意識が根底にあるから、緊張感はありますね。
——じゃあ、録音はやっぱり1日で?
そう。一発録りで1日で録った。ライヴと同じように録ったんです。緊張感という意味で言えば、琢磨さんの場合は焦燥感かな(笑)。琢磨さんは、敢えて弾かれへんようなフレーズを並べることによって、ライヴでアップアップになるんですよ。弾けてないときもあるし。でも、そこで生まれるグルーヴみたいなものが好きだから、敢えてそうしているわけで、そこの部分もすごくわかる。よく表現するのが、ウォーム・アップなしに氷水に入って、「ああ〜!! 」ってなる感じ。そういうライヴをしたいって言うんですよね。
——自分にストイックなんですね。
そうかもしれないですね。
——千住さんも、山本さんや琢磨さんのギリギリでやる状況に慣れてきているんじゃないですか?
僕も好きなんですよねそういう状況が。やっぱりMAXで最初から飛ばしてやると、始まって2、3分で限度なんですよ。腕も足も乳酸でいっぱいいっぱい。ただ、そこからもう一段階上に行った時の体内感覚がすごいんですよ。なんか音の聴こえ方も変わるし、脳の使い方も変わる。思ってもいないように叩けたりもするし、その状態になるのが好きなんですよね。
何の生産性も意味もない一有機体でいたいっていう欲求もあります
——小学校からドラムを叩いてきて、それでもストイックな状況に身をおいて音楽を続けてらっしゃる中で、音楽に求めているものって何でしょう?
すごい意味あることを言えば、意識の変容っていうか、今使っている意識とは別のスイッチを入れたいし、それは聴いている人にも入れたい。意味のない部分で言えば、意識を変えるとかはどうでもいい時があって、ゴミみたいなものを出したいときもあるんですよ。何の生産性も意味もない一有機体でいたいっていう欲求があります。何もないものでいられるっていうか、別にそれがきたなくてもキレイでもいい。

——そういう意味で、関西という土壌は、雑多性もあれば生産性とか意味に縛られないバンドが多く創出されていると思いますが、どうでしょう?
確かにそうだね。でも僕が思うのは、やり出したころから周りにそういう音楽が溢れていたから、逆に違う表現をしたかった。もちろん好きですよ。でもそういう人が集まるシーンからは、一歩ひいたところで自分のやり方を探してきました。
——刺激的なバンドや人が多い分、一歩ひいたところで活動するっていうのも難しいですよね。関西シーンみたいな文脈で語られることも多いですしね。
あれだけ面白い人たちがいれば、逆にシーンにならないと思うんですよ。シンパシーを感じるのはいいんだけど、どっかで対立してないと、僕は生き生きした表現が出来ない。反発していないとダメなんです。もちろんお互いの表現は尊敬するけど、もっと離れたところでやれば大きな輪になるし、そういう所でやりたいかな。そ ういうことを音楽でやる人たちがいる反面、全然そういうのをやらない人もいるじゃないですか。僕はその架け橋になることが面白いと思ってて。ここだけで生まれるものと、そこで生まれるもの。その両方が組み合わさって生まれるものは全然違うし、そういうのを見るのもやるのも好きなんですよ。
LIVE INFORMATION
- 2010/08/21(土) @滋賀サケデリック・スペース酒游館 playground (山本精一×千住宗臣)
- 2010/08/27(金) @吉祥寺STAR PINE'S CAFE playground (山本精一×千住宗臣)
PROFILE

2006年よりBOREDOMS a.k.a V∞REDOMSに加入。2008年6月脱退。現在、山本精一率いるPARAやウリチパン郡、COMBOPIANO(渡邊琢磨 / 内橋和久)のメンバー。その他、UA、高橋幸宏、原田郁子、湯川潮音、七尾旅人、石橋英子、sighboat(内田也哉子 / 鈴木正人 / 渡邊琢磨)、micromicrophone(a.k.a mito from クラムボン)、などのライブ、レコーディングへの参加や、近年ではソロ・ライブ活動やリミックスを手がけるなど若手を代表するドラマーとして多岐にわたり活躍している。