床がぬめりだすくらい熱気がすごかった
──ふたりにとっていちばん思い出深いエピソードはなんですか?
小花衣:このツアーではじめて地元の山形でライヴをしたことですね。いままでは地元でライヴするのが怖かったんです。すごく田舎で、周りに芸能の仕事をしてる人もいなかったので、アイドルになったばかりのころは親戚にも言いづらくて、ちょっと引け目も感じてたんです。親戚にも「こういう事ができるのもいまだけだから、いまのうちにやっとけ」って言われて。私はアイドルを本気で仕事としてやってるんですけど、多分若いうちの遊びだと思われてるんだろうなって。ライヴの前日もすごく緊張していたんです。いざ当日を迎えたらチケットもソールドアウトしていて、親戚や中学の時の先生とかが「こはるの凱旋だ!」ってたくさん来てくれたんです。そんな人たちの前で歌って踊るなんて信じられない光景で、もう4年目だけど本当の意味で「きのホ。の小花衣こはる」として認めてもらえた気持ちになりました。
桜寝:私がいちばん印象に残ってるのは、福井のライヴです。今回のツアーでは、17ヶ所ほぼ全部のライヴに来てくれる人もいれば、久々に来てくれる人も、初めて来てくれる人もいて、全員にとって楽しいライヴをするにはどうすればいいんだろうって悩んでいたんです。それを形にできたのが福井ですね。あとこの日は2曲目くらいから床がぬめりだすくらい熱気がすごかったんです。その熱気もあって、自分のなかで手応えを感じました。これまで自分がやってきたことも、きのホ。のライヴも「間違ってなかった」と思えた日でした。


──きのホ。のセットリストは、桜寝さんが考えているんですよね。そのなかで大事にしていることはなんですか?
桜寝:どんなライヴでも、きのホ。らしさや軸を残すことは意識していますね。最近はずっと“魂”でライヴしようと話しています。あとはその日のステージの大きさや対バンするグループを調べて、キャパや音響、いろんな要素を組み合わせて考えてます。
小花衣:今回のツアーは、毎回セトリがガラッと変わるから、大変でした。いままでは「この曲の次はこの曲」って大体固定されていたんですよ。でも今回はそこを変えていくことに挑戦して、なにが来るかわからない意外性をお客さんが楽しんでくれたのでよかったですね。
──2025年2月26日には「秋刀魚 / 新パラドックス」を、そして3月5日には「傾いてる / そして今日」を2曲ずつリリースします。まず“秋刀魚”ですが、どんな曲になりましたか?
桜寝:「今年の秋刀魚は細すぎて / 食卓に並ぶも少し寂しくて」とか、生活をそのまま曲にしてておもしろいですよね。
小花衣:サビの入りが「百均」って面白いですよね。「気をつけないと見落としてしまいそうな小さな幸せを大事にしていこう」みたいなメッセージだと思ってます。ブランド物や高級な車とかと比べると百均って小さいけど、そういうどこにでも潜んでいる小さな幸せを見つけていこうっていうのがいいですよね
桜寝:うん。ささやかなところが良いよね。
小花衣:「今年の秋刀魚は細すぎて」という歌詞は、きのホ。のマネージャーのお父さんが「今年の秋刀魚はほっそいで〜」と言っていたのを、(ハンサム)ケンヤさんが「いいワードだ!」ってメモしたのが歌詞になったらしいんです。リアルな日常の会話がサビの大事なところにきていて、そういう世界観がいいですね。
桜寝:私はこの曲を聴いて、晴れた日の景色がパッと思い浮かんだんです。ちっちゃな幸せだけど、すごく多幸感がある。日常のなかに幸せっていっぱい転がってるし、あなただけの幸せがきっとあるよねということを伝えてくれる曲ですね。
小花衣:“秋刀魚“はイントロも激しいし、サビもキーがすごく高くて叫んでいるんですよね。歌詞は優しくてささやかなのに、曲調は強くてカッコいい感じが好きです。


──“新パラドックス”はどうですか?
小花衣:これは応援歌ですね。「行こうぜ!」ってみんなで進んで、新しい世界がひらけていく感じがします。でもくるみちゃんが「唯一無二の武器自我を操るよ」って歌うパートで一気に世界が変わるんです。ただ明るく元気なだけで終わらせない感じがあります。
桜寝:私たちの曲って、暗い部分が絶対潜んでるんですよ。でもそれは私たちみたいな自己肯定感が低かったり、悶々としてる人に寄り添える曲になってると思うんです。「新パラ」もきのホ。らしい曲ですね。
──一推しポイントはありますか?
桜寝:「揺れるメトロライン見たことのない世界」の歌詞ですね。「メトロライン」って言葉は存在しないらしいんですけど、このフレーズだけで車窓から見える揺れる景色が想像できるのがすごいです。
──“新パラドックス”はいままでのきのホ。にはない雰囲気の曲で、新鮮に感じました。
小花衣:最近は“麗しのタンバリン”とか“シンドローム”とか、ライヴで煽るようなオラオラ系の曲が多かったんです。今回は歌を聴かせる曲が多くて、新しいきのホ。を見せられるかなと。
桜寝:私のなかで去年リリースした『都スカイハイ』あたりから新しいゾーンに入ったなと思ってたんですけど、それがさらに延長された4曲かなと思います。等身大の自分を表現しつつ、聴く人に強さを与えるような曲が、最近は多い印象です。