Helsinki Lambda Clubと行く! “不思議なタイムトラベル”──新AL『Eleven plus two / Twelve plus one』

Helsinki Lambda Club(以下、ヘルシンキ)から、『ME to ME』以来4年ぶりのフル・アルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』が到着!! 1990年代のオルタナ・ロックや現行のインディ・シーンからの影響を受けつつ、遊び心のある中毒性の高いメロディーでもって、インディー・シーンの中でも独自の活動を広げる彼ら。今作は、「過去・現在」をテーマに、これまで影響を受けた音楽をいまの自然体で表現したアルバム前半、そして後半では「未来」をテーマに展開される。バンドのフロントマン、橋本が“見た”未来でヘルシンキはどんなバンドになっているのでしょうか!? さぁ、君もヘルシンキと一緒に楽しいタイムトラベルに出発しよう!
およそ4年ぶりのフル・アルバム
INTERVIEW : Helsinki Lambda Club

『Eleven plus two / Twelve plus one』は、バンドが抱える音楽の懐の深さを余すことなく発揮した1枚だ。そんな今作は、橋本薫(Vo)の「未来見たんだけど」という、突拍子もないひと言から生まれたコンセプト・アルバム。クリスピーなギター・サウンドと8ビートに後押しされるアルバム前半部分から、だんだんと打ち込み混じりの“未来の音楽“に移っていくグラデーションが耳を引きつける(未来の自分の年齢を想定して曲のBPMを落としているとしたら、ますますシビれる)。今回、確固たるコンセプトのもとで制作された最新アルバムについて、そしてこれからのヘルシンキの未来についてたっぷり熱く語ってもらった。いま、時空を超えた楽曲の数々がここに集結です!
インタヴュー : 飯田仁一郎
構成 : 綿引佑太
写真 : 西村満
いままでのフェーズからは明らかに外れた

──最新アルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』のコンセプトについて教えてください。
橋本 : アルバムの前半は「過去・現在」、後半は「未来」をテーマにした2部構成になっています。前半については、今作の制作期間がちょうど僕が30歳を迎えるタイミングで、若いうちしか鳴らせない音とか熱量に意識が向いたんですよね。バンド組みたてのときに影響を受けていた音楽の雰囲気を、いまのメンバーで肩肘張らずに表現してみたいなと思って、結成当時の手法を再現したりしました。
──いまは、バンドのサウンドの移行期だという実感がある?
橋本 : もともと音楽性がコロコロ変わるバンドなので、アルバム全体を同じテイストで統一することは出来ないと思っていました。それなら、思い切ってコンセプトありきでいろんな曲を収録した方がおもしろいなって。
──なるほど。アルバム後半のテーマの「未来」とは?
橋本 : これは「未来的なサウンド」という意味ではなくて、「僕が見てきた未来でやっていた曲」ということなんです。
──それは、おっさんになった未来の自分たちが演奏していた曲ということ?
橋本 : そうですね。数年、数十年後に自分が演奏する曲を先取りしちゃおうっていう。
──今回のコンセプトはどのように生まれたんですか?
橋本 : 今作の全貌が見えてきた2年前には、すでにアルバムの最後に収録されている “you are my gravity”の断片ができていたんですけど、この曲に未来の荒廃した風景が見えたんですよ。これをキーにするならどうすればおもしろくなるかなっていう逆算をしたときに、「未来の自分たちが演奏していた曲を先取りする」っていうコンセプトを思いついて。そこから、過去と現在もくっつけた2枚組風のアルバムにするっていう今回のコンセプトに繋がっていきました。
──「荒廃した未来が見えた」とはどういうこと?
橋本 : 曲中ずっと鳴っているアコギのシーケンスから浮かんだ風景が荒廃した未来だったんです。

──この曲を作っていたのはコロナの前ですよね?
橋本 : そうですね。そして本当は3月から4月にレコーディングする予定だったんですけど先延ばしになって。収録予定だった曲もコロナの影響で変わったりしましたね。
──6曲目の“Shrimp Salad Sandwich”とか?
橋本 : そうです。コロナに影響を受けて作った曲もあるし、未来の意味が変わったというか、最初に描こうとした未来と違う未来を描きたくなったという微調整がありましたね。
──それはいい意味での微調整?
橋本 : いい意味だと思います。それまではコンセプトありきで、こんな曲が入っていたらおもしろいだろうなって感じで作っていたんですけど、1曲ずつに必然性が生まれてきたんです。
──作品の中で描かれた「過去」から「未来」という大きいメッセージを、聴き手はシビアに受け取った方がいいのか、それとも楽観視して受け取ってもいいのか、どっちでしょう?
橋本 : そうですねぇ……。楽観視ということではないですね。絶望でもないんですけど。でも、いつものヘルシンキなら、どれだけネガティヴなことを言っても最後には上向きに持っていくポジティヴさがあったはずなのに、“Shrimp Salad Sandwich”では、はじめてネガティヴなまま曲が終わっているんです。自分でも驚いたんですけど、いままでの「いろいろあるけど頑張っていこうぜ」っていうフェーズからは明らかに外れた気はしますね。
──橋本さんの描く強い世界観の中で、メンバーのおふたりはどのようなアプローチをされましたか?
熊谷 : それでいうと、僕はアルバム全体を意識して作ったわけではないんです。曲ごとの世界観しか意識していなくて。正直、アルバムとしての世界観をきっちり理解したのは、レコーディングの後半だったんですよ。
──通りで熊谷さん作曲の“Mind The Gap”が飛び抜けているわけだ。一体どんな発想から生まれたんだって思いましたよ(笑)。
熊谷 : あの曲は、立石でバンド友達と飲んだ帰りに作ったんですけど、立石ってすごい下町の雑多な雰囲気があるんですよね。だから、あんなトライバルなビートになったんじゃないかな。
稲葉 : えっ、そういうことなの(笑)!?
熊谷 : 別に狙って作ったわけじゃないんですけど、意外にもタイムスリップ感のある曲に仕上がりました。
橋本 : これはもともと、「過去と未来をつなぐ曲」っていう注文で熊谷に作ってもらった曲なんですけど、立石でできたとは知らず(笑)、僕がタイに行ったときに録った素材を使ってもらったんです。
──8曲目の“午時葵”もサイケ感がありますね。
橋本 : 意識的にサイケを作ろうと思ったことはないんですけど、よくよく考えてみると無意識の内にサイケなテイストが入っていたりして。僕らがナチュラルな部分で共有している要素に、サイケなサウンドがあることは最近気付きましたね。
薫さんの「俺、未来見たんだけど」のひと言からはじまった

──熊谷さんは今作で印象的な曲はありますか?
熊谷 : “眠ったふりして”ですね。(橋本)薫君が以前組んでいたバンドの曲なんですけど、そこではじめて彼の才能を意識したというか。僕がバンドに入る決め手と言ったら大袈裟ですけど、この曲がなかったらどうなっていたんだろうってくらい思い入れのある曲なんです。僕の大学の同期にMVを撮ってもらったりして、バンドにとっても大事な曲になりましたし、今後の活動で経験する大事な瞬間をこの曲で共有したいなと思っています。
──「大事な瞬間」とは?
熊谷 : フジロックの舞台に立つことは、バンドが掲げる目標のひとつですね。僕が担当したアレンジでも海外インディーを意識しているし、「出演する準備はできていますよ」っていう意思表示を込めました。これまで目標を意識してなにかに取り組むことってなかったんですけど、この曲には気持ちを動かされましたね。
──今回はメンバーにアレンジを任せたんですね。これまでの橋本さんからしたら、メンバーにアレンジを投げるということなんて、あまりなかったんじゃないんですか?
橋本 : 僕のエゴみたいなものは数年前に比べて大分なくなりました。普段からよく飲みに行くくらい仲もいいし、いまはふたりを信頼しきっていますね。
──稲葉さん作曲の“Sabai”も収録されてますもんね。あれはなんなんですか(笑)。
稲葉 : なんなんですかね(笑)。
──本当にびっくりしましたよ。これは絶対橋本さんの声じゃないと思って。我々は一体なにを聴かされているんだ…… と(笑)。
稲葉 : “未来を見てきた”薫さんが言うには、どうもそのタイミングでヘルシンキは僕と(熊谷)太起さんの2人体制になっているらしくて(笑)。それで1曲作ってほしいって頼まれた結果、完成した曲です。
──まず、なんでそんなコンセプトを思いついたんですか?
橋本 : 未来でそれが見えちゃったので……。
──それを聞いた稲葉さんはどんな気持ちになりました?
稲葉 : なんか、「脱退するんだ」みたいな(笑)。
──稲葉さんが曲を作られたのははじめてですか?
稲葉 : はじめてです。
橋本 : 曲を作ったことがあるとないでは今後の活動においても気持ちが違うだろうなと思ったので、今回無理矢理作ってもらいました。

──稲葉さんは、完全に橋本さんの手の平の上で転がされてるんですね(笑)。
橋本 : でも、アレンジはめっちゃ投げてたけどね(笑)。
──そうなんですか!?
稲葉 : DTMソフトの使い方もわからないし、音の録り方もわからないので、全部やってもらいました(笑)。
熊谷 : でも、歌詞を1から全部作ったのは本当にすごいよ。アルバムの中で確実にいちばん短いけどね(笑)。
──あと、なんであのキーにしたんだろうって。間違いなく低いなって(笑)!
稲葉 : なんなんですかねぇ……。
──でも、もっとキーが高い曲だったら目立って来なかったかもしれないですよね。あのパンクな感じがかっこいいなと思って。
稲葉 : まあ、あくまでも薫さんがいない間でもヘルシンキをやっていきたいなっていう、ストレートな感じで作りました(笑)。一応、この曲で数年は2人でやっていく想定で……。
──アクセントとしてすばらしい曲ですよね。稲葉さんは本アルバムのコンセプトをすんなり理解できたんですか?
稲葉 : レコーディングの最中にタバコを吸いながら「そういうことかぁ」って納得した記憶がありますね(笑)。
橋本 : 1年前くらいからずっと言ってたけどね。ぜんぜん通じてなくて(笑)。
稲葉 : 薫さんの「俺、未来見たんだけど」のひと言からはじまったので(笑)。
──それはたしかにムズイ(笑)。「想像したんだけど」くらいからはじめてほしかったですね。
熊谷 : 「見たんだよね」って言いきってたもんね。
稲葉 : 「俺、脱退するからさ」みたいな。「ええーーっ!」て(笑)。
最後に行き着く先は同じ“かもしれない”

──ほかに稲葉さんの印象的な曲ってありますか?
稲葉 : “眠ったふりして”ですね。自粛期間中にフレーズをかなり練ることができたので、予定通り3月にレコーディングをしていたらこんな形にはならなかったと思います。
──レコーディングが遅れた4ヶ月の間でどんなことが変わりましたか?
稲葉 : 5曲目の“パーフェクトムーン”もそうですけど、ベース的にはどの曲もいくらでも複雑なアレンジに出来るんですね。でも、その4ヶ月の間に“シンプルで普遍的”っていう作品への解釈に当てる時間があったからこそ、この仕上がりになったんだと思います。
──音楽活動が止まった期間を挟み、フル・アルバムを11月にリリースするというところまで、気持ちをどのように持ち直していったんですか?
橋本 : ただでは起き上がらないぞというか。コロナなんてないに越したことはなかったですけど、こんなに世界が変わることって、なかなかないじゃないですか。こうなってしまったからこそ、寂しさや怒りとか、普段の生活の中で麻痺していた感情に改めて気づくことが出来たりして。なにかを表現する者にとって悪いことばかりでもなかったかなと思います。
──社会に対する怒りやもどかしさを感じる場面も多かった時期だと思います。そういう部分は歌詞にどのように反映されていますか? それともあえて反映させないように考えていますか?
橋本 : あえて反映しないということはぜんぜんないんですけど、表現のテイストとしてあるくらいで、直接的な事象を歌うことはあまりなかったです。でも、“Shrimp Salad Sandwich”は政治についてそのまま歌ってるんですよ。コロナを経験しなかったら絶対に生まれて来なかった曲だろうな。
──まさに、バンドのいまを表現しているのがこの曲なんですね。
橋本 : “you are my gravity”の歌詞にもあるんですけど、偶然とか必然っていうものがコロナによってはっきりしたなと感じていて。だからこそ、コンセプトだけじゃなくて、作品としての必然性をより感じるようになりましたね。
──アルバムのタイトル『Eleven plus two / Twelve plus one』について教えていただけますか?
橋本 : 実はこれ、それぞれがアナグラムになっていて、全部同じ種類と数のアルファベットで構成されているんです。
──なんとっ!!
橋本 : アルバムのテーマになった「過去・現在・未来」もそうですし、たとえばコロナがあった / なかった世界とか、辿る道が違っても、最後に行き着く先は同じかもしれないという思いをこのタイトルに込めました。それから13っていう文字数も、たまたま曲数にハマったので必然性を感じましたね。
──なるほど。
橋本 : いま「行き着く先は同じ」って表現しましたけど、ここは「同じかもしれない」っていうニュアンスで捉えてほしいんです。“you are my gravity”には「昨日までの二人とは違うってこと」っていう歌詞があるんですけど、外からは見えない内側の変化みたいなことを最近は意識していて。今作を聴いて、そのわずかなズレを感じてほしいですね。
──ヘルシンキはインディーのロック・ミュージシャンとして理想的な活動をしていると僕は思っています。30代を迎えたメンバーもいる中、これからの活動について、どうしていきたいと考えていますか?
橋本 : シャムキャッツとかミツメのような活動の仕方はずっと理想にしていますね。去年は海外公演も敢行することができましたし、日本以外のリスナーの数も徐々に増えてきています。既存のあり方に縛られることなく、僕らのやりたい音楽、聴いた人に信頼してもらえる音楽で未来を作っていけたらいいなと思っています。
稲葉 : やっぱり楽しくやりたいな、ずっと。コロナになっても仲が悪くなったり、気持ちが下がったりしたバンドの話をよく聞くんですけど、僕らはモチベーションも下がることなく今作の制作に臨めたんですよ。バンドの音楽を広めたいのはもちろんですけど、今後もずっと楽しくやっていきたいな。
編集 : 鈴木雄希
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LIVE SCHEDULE
「Eleven plus two / Twelve plus one」release tour "MIND THE GAP!!”
2020年12月5日(土)@金沢GOLD CREEK
時間 : OPEN 18:00 / START 18:30
2020年12月6日(日)@新潟CLUB RIVERST
時間 : OPEN 17:00 / START 17:30
2021年01月30日(土)@梅田Shangri-La
時間 : OPEN 16:30 / START 17:00
※OPEN・START時間は変更となる可能性がございます。
2020年01月31日(日)@名古屋APOLLO BASE
時間 : OPEN 16:30 / START 17:00
※OPEN・START時間は変更となる可能性がございます。
2020年02月15日(月)@恵比寿LIQUIDROOM
時間 : OPEN 18:30 / START 19:30
【詳しいライヴ情報はこちら】
https://www.helsinkilambdaclub.com/live
PROFILE
Helsinki Lambda Club (ヘルシンキ・ラムダクラブ)

2013年夏に結成されたHelsinki Lambda Clubは、ヴォーカルの橋本薫を中心とした日本のオルタナティヴ・ロック・バンド。
中毒性の高いメロディー、遊び心のある歌詞、実験的なサウンドは、一曲ではガレージロック、次の曲ではファンクやソウルと変幻し、音楽的ジャンルや文化の垣根を越える。
国内のフェス出演に加え、香港、北京、上海、台湾等でのツアーを果たすなど、日本のロック・シーンにはかけがえのない存在となっている。アメリカやイギリスのロックが言語を問わず世界に受け入れられたように、Helsinki Lambda Clubの音楽もまた、リスナーに高揚感と快感を与える力を持つ。
■公式HP
https://www.helsinkilambdaclub.com/
■公式ツイッター
https://twitter.com/helsinkilambda