セッションならではの刹那を詰め込んだ〈YGNT special collective〉──山中拓也 × GOMESS

これまでミュージシャンが様々な場面でセッションを行い生み出された音楽は数多くある。年末に放送される大型音楽番組や、大型フェスやライヴなどでその日の出演アーティストとともに演奏をする姿は音楽ファンであればよく見る光景だろう。だが、これらの演奏は刹那的な側面を強く持ち、どれだけすばらしい演奏をしても、その場限りのものになることが多かった。そんななか、ライヴ・セッションや番組企画などさまざまな場面で生まれる貴重な演奏をデジタル・アーカイブとして残す新レーベル〈LIFE OF MUSIC〉が誕生した。
〈LIFE OF MUSIC〉
〈LIFE OF MUSIC〉レーベル・ロゴ
THE ORAL CIGARETTESやbonobos、Saucy Dogなどのマネジメントを担当する柳井貢がレーベル・オーナーを務めるチャンネル&レーベル。ライヴ・セッションや番組企画などさまざまな場面で生まれる貴重な演奏や楽曲。それらをライヴ会場での演奏や数回の放送だけで終わりにするのではなく、デジタルアーカイブとして残し、未来に贈ることを目指す。
http://lifeofmusic.jp/
このレーベルの第1弾作品としてリリースしたのがYGNT special collectiveである。出演する予定だったBillboard Live Yokohamaのオープン記念イベント自体は新型コロナウイルス感染拡大の影響で開催中止となったが、現在前述の〈LIFE OF MUSIC〉より5週連続で配信リリースを行なっている彼らの作品は、実際に会場にて行われたセッションの様子を記録したもの。そのため、これまでなかなか作品を通して感じることが難しかったセッションならではの緊張感や、ライヴならではのアレンジ、卓越した演奏スキル、そしてフレッシュな空気感を楽しむことができる作品になっている。
YGNT special collective (YGNTスペシャル・コレクティヴ)
YGNT special collective
後列左からSWING-O(Key)、鈴木 渉(Ba)、DUTTCH(Dr)、山岸竜之介(Gt)、Hiro(Cho)、Kana(Cho)、
前列左からヒグチアイ(Vo/Pf)、山中拓也(Vo)、GOMESS(RAP)
Billboard Live Yokohamaのオープンを記念して結成されたスペシャル・バンド。メンバーは、THE ORAL CIGARETTESの山中拓也をはじめ、ヒグチアイ(Vo/Pf)、GOMESS(RAP)、SWING-O(Key)、鈴木 渉(Ba)、DUTTCH(Dr)、山岸竜之介(Gt)、Hiro(Cho)、Kana(Cho)の9名。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により会場での公演は中止となったが、6月下旬にBillboard Live Yokohamaにて演奏収録を行った5曲を5週連続でデジタル・リリース中。2020年8月5日(水)に5週連続リリースの第3弾“Poetry”が配信開始。
これまでリモートでレコーディングが行われた“蝋燭の私”と、Billboard Live Yokohamaで収録した“じれったい”、“Shala La”の2曲をリリースしてきたが、2020年8月5日(水)に新たに“Poetry”が配信開始となった。この曲は、バンドにも参加しているラッパー・GOMESSの楽曲を〈YGNT special collective〉によって演奏したもので、山中による大胆なアレンジが施され、従来の楽曲とも全く異なる表情を見せるものとなっている。
“Poetry”の音源購入、ご試聴は↓から
OTOTOYではこのタイミングで、YGNT special collectiveのメンバーである山中拓也とGOMESSへのインタヴューを掲載。GOMESS自身、もともと苦手意識を持っていたTHE ORAL CIGARETTESの音楽に感じた共感性とは? セッション・バンドとして数回のリハーサルしかしないなかでの演奏で見えてきた“音楽を鳴らすことの楽しみ”とは? このセッションの様子を改めて振り返ってもらった。
山中拓也
2010年に奈良にて結成されたロック・バンド、THE ORAL CIGARETTESのヴォーカル / ギターを担当。人間の闇の部分に目を背けずに音と言葉を巧みに操るそのキャラクターが映えるライヴ・パフォーマンスを武器に全国の野外フェスに軒並み出演する。YGNT special collectiveでは、ヴォーカルはもちろん、中心メンバーとしてバンドの参加メンバーの選出も行なった。
【THE ORAL CIGARETTES 公式HP】
https://theoralcigarettes.com/
【THE ORAL CIGARETTES 公式ツイッター】
https://twitter.com/oral_official
【山中拓也 ツイッター】
https://twitter.com/OralJOE
GOMESS
1994年9月4日生まれ 、静岡県出身。第2回高校生ラップ選手権準優勝を機に“自閉症と共に生きるラッパー”として注目を集め、自身の生き様を歌った楽曲“人間失格”、“LIFE”は見る者に衝撃を与えた。以降、NHK Eテレの番組『ハートネットTV:ブレイクスルー File.21』で特集を組まれるなど、独特の思想やライフスタイルが様々なメディアで取り上げられていく。自身の経験から生まれた言葉と音楽は、これからを生きる人たちへの指針となっている。
【公式HP】
http://www.gomeban.com/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/gomessthealien
インタヴュー : 飯田仁一郎
構成 : 綿引佑太
文 : 鈴木雄希
写真 : 大橋祐希
「あ、オープニング・テーマの人と違うんだ」

──〈YGNT special collective〉(以下、YGNT)結成のきっかけは?
山中 : Billboard Live Yokohamaのオープンに合わせてなにか一緒にやれないかっていう話をいただいて。僕らは基本、The ライヴハウスみたいな所でしかライヴをやってこなかったし、同世代のバンドマンを見回してもBillboardで演奏するバンドなんてほとんど見かけない。だからこそ、この世代のバンドマンがそこに立つ意味を感じたんです。あとは単純に、共演してみたかった人たちと一緒にやれるいい機会なのかなとも思いまして。
──THE ORAL CIGARETTES(以下、オーラル)ではなく、なぜ新たにバンドを結成しようと思ったのでしょう?
山中 : 自分の実力をどれだけブラッシュアップできるのか挑戦してみたかったんです。Billboardというハードルを感じながら、すばらしいアーティストとの共演が、ひとりの人間としてのレベル・アップに繋がると思ったので、この機会に挑戦しました。
──Billboardのハードルの高さとは?
山中 : オーラルは基本的にモッシュピットやダイヴが起こるような、ライヴハウスの熱量を感じられるステージを続けて来たんです。なので、Billboardのように机が並んで椅子に座って…… という環境で自分がどういうパフォーマンスができるのか、というのがいちばん大きなハードルでしたね。
──なるほど。そこでGOMESSさんをバンドに誘ったのはなぜ?
山中 : GOMESSとの共通の知り合いがいるんですけど、その人とよくおすすめのアーティストを紹介し合う会をよくやっているんですよ。それで、4年前くらいにそいつからGOMESSを教えてもらったんです。彼の生い立ちもそうなんですけど、音楽に繋いでいく言葉とかが、自分の書くリリックにも共感する部分があって。そこからずっとファンだったんですよ。それで今回GOMESSに声を掛けた感じですね。
──GOMESSさんは山中さんのことをご存知だったんですか?
GOMESS : もちろん知ってはいました。けど、僕オープニング・テーマみたいな曲が基本的に苦手で、オーラルの有名な曲って結構そういう感じがするんですよ。だからすごい正直なことを言うと、「(山中)拓也さんの作る音楽が好きだな」ってはじめて思ったのは、つい最近なんです。以前、「あの障害者ね」って僕の悪口を話している所に偶然居合わせたことがあって、まだまだそんなこともあるんだなと割とフラットな気持ちでTwitterに書いたんです。そしたら拓也さんが内容をちゃんと受け止めてくれて「俺にとって君はいま世界で一番イケてるよ」っていうDMを送ってきてくれたんです。それがはじめましてのやり取りで。そこからしばらく経って「アルバムができたから聴いてほしい」って音源を送ってくれて、そこでやっと「あ、オープニング・テーマの人と違うんだ」っていうのを認識しましたね。
山中 : 「オープニング・テーマの人」ってめちゃめちゃパワー・ワード(笑)。
GOMESS : この人がなんで僕のことをそんな風に思ってくれたのか、それがオーラルの音楽を聴いてやっとわかった気がして。僕もめちゃくちゃシンパシーを感じたんです。それでもなかなか会う機会がないなか、急に「一緒にライヴしない?」ってメールをいただいて。普通、対バン的な意味だと思うじゃないですか。そしたら、まさかの一緒にバンドをやろうということで、ビックリしました(笑)。
──おふたりとも仰っていた「共感性」って具体的には?
GOMESS : 凶悪性というか、化けの皮を被っている感じがすごくて。嘘をついているとかでなく、そうせざるを得ない人生を送ってきた人なんじゃないかなと。化けの皮を被ることでこの世界との調律を何とか合わせているっていう。だから、この人は無理に俺を剥がそうともしないだろうし、俺の前で急に皮を剥いで「俺こんなんだよ」ってやってこないだろうし。妙な安心感が音楽から伝わってくるというか。でも、その凶悪性が音に滲み出ちゃってるところが好きですね。隠せてないよって、目から光出ちゃってるみたいな感じが(笑)。
──山中さんはどうですか?
山中 : もう1人の自分という化物を自分の中に飼っている部分ですかね。「自分のいちばんの敵は自分や」っていう言葉には2通りあるなと思っていて。ひとつは、自らを追い込んで自分により厳しくなっていく人。もうひとつは、めちゃくちゃコンプレックスを抱えていて、どれだけ足掻いてもゴールが見えない暗闇の中で自分と戦う人。僕は、前者の人よりも、常に満たされていない気持ちとコンプレックスを抱えながら心の深い部分で戦う人に共感を覚えるんですよ。GOMESSのリリックにはそれが出まくっている。「目光ってますよ」どころじゃない(笑)。
あの瞬間はバンドをやってる感じがした

──お互い根底に通ずる部分があったんですね。実際にYGNTとしてライヴをしてみてどうでしたか?
山中 : 僕は本当に勉強になりました。目の前に「はい、ここ歌ってください。どうぞー」ってレールが敷かれていることなんてなかったんですよね。音が全部すごく粒立ちして聴こえるんですよ。これまで自分のバンドで培ってきたものとは別の部分で、ミュージシャンとバンドマンの違いを感じてしまったかな(笑)。
──山中さんが思うミュージシャンとバンドマンの違いとは?
山中 : バンドマンはシド・ヴィシャスでいいと思っていて。楽器が下手で適当に弾いていても、その人自体がカッコよかったらバンドマンとしてのカリスマ性があるってことなんですよ。でもミュージシャンは本当に音楽に特化していて、全てキメ細かい所までこだわり抜いてやっている。だからこそ、音の粒は見えやすいし、さっき言った「レールが引かれている感じ」がある。その部分がいちばん違うのかなって思います。
──YGNTのメンバーだと特に誰が“ミュージシャン”だった?
GOMESS : コーラスのふたり(Hiro&Kana from The Soulmatics)の対応力の早さにはビックリしましたね。
山中 : マジ早かった(笑)。
GOMESS : すごかったですよね! ヒグチさんとの曲(“ほしのなまえ”)の、ハモリに回るパートを拓也さんが結構苦戦していて。最初コーラスのふたりは入らない予定だったんですけど、拓也さんが苦戦しているのを見ながら、ずっと楽譜を採ってたんですよ。で、それはなにをしてるのかっていうと、コーラス・ワーク考えているんです。でも自分からは決して手を挙げずに、拓也さんがちょうどヘルプ出すくらいのタイミングで「いつでもいけます」みたいな。
山中 : 「拓也さん、ここはいけてます。ここがちょっといけてないので、ここめがけながら歌いましょう」みたいな(笑)。
──それはすごい。
GOMESS : その場でですよ。ちょっとビックリして。
山中 : バンドやってるだけでは出会えない場面ですよね。

──GOMESSさんは、今回のバンドを経験してみていかがでしたか。
GOMESS : 楽しかったっていうのに尽きるんですけど、今回YGNTで演奏するにあたって、僕はかなり悩んだ末に“Poetry”っていう曲を提案したんですよ。というのも、自分の中で「自分が自分のために書いた曲は他の人と一緒に歌わない」という、10年間一度も破ったことのないルールがあって。今回その掟を破ることになったんですが、不思議と迷いはなくて。それよりも拓也さんがこの曲でなにをするかを見たいと思ったんですよね。
──そうだったんですね。
GOMESS : 自分が自分のために書いた曲は、自分が映画の主人公で、俺の見ている景色のBGMだと思って歌うんです。俺の中で“Poetry”は、なにかが大きく動く映画のクライマックスに流れるBGMだったんですけど、拓也さんの声が乗ったらどうなるんだろうって。そしたら間奏だった所にCメロ的な新しいメロディーを歌ってくれて、BGMが劇中歌になったんですよ。劇中歌ってすごくないですか? どんなシーンであれ、この世界に急に歌が流れるなんてあり得ないのに、それが自然に入ってきて感動しちゃったりする。これは本当に拓也さんと一緒にやってよかったなって思った瞬間ですね。僕は、参加している楽曲全てを即興でラップしているので、その気持ちはしっかりリリックに現れていると思います。最後の最後「この夢が好きだ」って言っているんですけど、本当に夢みたいな景色だったんですよ。
──リハーサルとも違うリリックが本番で出てきた?
GOMESS : 即興なので毎回歌詞は変わりますね。リハーサルはもちろん何回かやっているんですけれども、そこで本気を出してしまうと、本番の本気具合が2回目になっちゃうじゃないですか。本番に本気の1回目をぶつけないと即興の意味がないから、なるべく本番までは本気出さないって言ったら変ですけど、入り切らないようにしていて。拓也さんの歌も聴いているけど、でも自分の中で蓋をしているというか。最後のテイクで、全部の音がワーって入って来たとき、Cメロに心が震えながら最後の最後に出て来た言葉が「この夢が好きだ」だったのは、あとから映像を見て、「あぁ俺はなんて幸せな時間を過ごしたんだろうな」って思いました。
山中 : みんなアガったっすよ。GOMESSが本番になってからぜんぜん違うから(笑)。
──やっぱりそうなんだ(笑)。
山中 : 「ええっ!」みたいな。みんなで顔を合わせて「これ俺らもいけるな」って全員テンションが上がって。あの瞬間はバンドをやってる感じがした。
GOMESS : あれはバンドでしたよね。全員がラリってるのがわかって、超うれしかった。
──あのCメロは本当に大胆だし、かなり勇気がいるアレンジだったんじゃないですか?
山中 : GOMESSがはじめて人と一緒に自分の曲をやるって知らなかったから結構攻められたんですよ(笑)。先に「はじめて人と自分の曲をやる」って言われてたらあそこまで攻められなかったと思う(笑)。
このメンツだったらどこまでも行ける

──YGNTの現場ならではの特別なことはありましたか?
GOMESS : あの日の収録が終わったときに、竜之介さん(山岸竜之介 / Gt)が「ライヴしたい!!」って叫んだんですよ。前日リハーサルもして、なんなら普通のライヴより長い時間演奏していたのに、終わった瞬間に「ライヴしたい!!」って(笑)。「このメンツだったらどこまでも行ける」という充実感や、「俺はこれからどこに走り出すんだろう」みたいなワクワク感を、いままでのどんな演奏やセッションよりも強く感じました。
──山中さんはいかがですか?
山中 : 竜之介のその言葉が全部表している通り、ライヴをやり終えた瞬間にようやく完全なバンド・メンバーになるんやなって。演奏中に目があって繋がっていく感覚って、バンド組み立てくらいのときしか味わえなかった感覚やなって思い出しましたね。そうやって音楽活動の原点に立ち返れたことが特別やったし、同時にその先の未来も見えてワクワクする感覚を味わえたことは、YGNTならではのものだと思います。

──今回は〈LIFE OF MUSIC〉というプロジェクトの一環でもあり、ライヴセッションや番組企画などで生まれた演奏や楽曲がこうやって作品として残される。こういう取り組みについてはミュージシャンとして、どう感じていますか?
山中 : 〈LIFE OF MUSIC〉は、僕がメジャー・デビューをした頃からのマネージャーでもある柳井貢さんが立ち上げたプロジェクトで。一昨年くらいから僕がイベントなどで他のバンドに入って歌う機会がどんどん増えてきたのですが、柳井さんと話しているときに「あのときの映像、どこいったんですか?」「それがさ、大人の事情もあって世の中に出せないんだよね」って会話があって。それってすごくもったいないなって思っていたので、こういうプロジェクトはすばらしいと思うし、僕としても柳井さんと信頼関係があったし前向きにやれました。
──では最後に、現在のコロナ渦における厳しい状況が続いて行く中で、お2人はこれからの音楽活動についてどのように考えているのかを、お聞きしてもいいでしょうか?
GOMESS : 僕は「時を過ごすということは、人が死ぬということであって、人が生まれることだ」と常に意識して曲を書いてきたんです。だからこそこういう状況になっても、俺がいままでやって来たことをちゃんと続けていかなきゃなって思っています。時の刻み方がどんどん重くなっているいま、俺ができることは、その時の刻み方を少しでも軽くすること。明確に分数秒数があって、その時の流れを楽しむのが音楽。だからひたすら曲を作り続けて、可能な限りの配信とか、できる舞台があるならライヴで、少しでも多くの人に届けられたらなと思っています。
山中 : やっぱり改めて感じたことは、ライヴハウスに行かないとライヴは体験できないということ。正直、今回の企画をやっても思ったんですよ。映像としてはすばらしいものができたけど、ライヴハウスに行っている感覚とは明らかに違う。ライヴが好きな人にとって、ライヴハウスに行く行為は絶対になくならないと思いました。自分ができることは、その人たちが、ライヴを目掛けていまを頑張れるように準備をしておくこと。次に会えたときに、僕らがレベル・アップしていられるよう、経験値を積んで、いろんなことを考えて、行動に移すことが大事なんじゃないかなと思っています。
編集 : 鈴木雄希、綿引佑太
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今後のリリース予定
2020年8月12日(水)
「ほしのなまえ at Billboard Live Yokohama(2020.06.24)」
(※ヒグチアイ オリジナル曲)
2020年8月19日(水)
「蝋燭の私 at Billboard Live Yokohama(2020.06.24)」
これからのリリースも楽しみにしておこう!!