白旗なんて挙げねえよ!!ーーeastern youthが2015年に東京の底からがなるロックンロールを耳かっぽじって聴け!!

2015年に日本でロックをやるというこはこういうことだ。それをイースタン・ユースの『ボトムオブザワールド』は雄弁に語りかける。これまでのメジャー・レーベルを離れ、かねてより自身たちで運営してきた「裸足の音楽社」から初の単独リリースとなるオリジナル・アルバムは、タイトルの通り、社会の底辺からがなり立てるリアルなロックンロールだ。吉野のトーキング・スタイルの歌が印象的な「街の底」、かねてから親交が深く極東最前線にも出演している向井秀徳(ZAZEN BOYS)、射守矢雄(bloodthirsty butchers)、cp(group_inou)らがゲストコーラスに参加した「直に掴み取れ」など、音楽的なアプローチも新たな側面を魅せる。23年に渡りベースを務めた二宮友和の脱退が発表され、現体制では最後となる魂の叫び。ハイレゾでも掬え切れるのかはわからない。だけど、だからこそ、現時点での最高音質で聴いていただきたい。そして吉野寿に真摯に向かい合っていただけたら幸いだ。
eastern youthの魂をハイレゾで聴くべし!!
eastern youth / ボトムオブザワールド(24bit/96kHz)
【配信形態】WAV / ALAC / FLAC / AAC
【配信価格】 単曲 250円 / まとめ価格 1,900円
【TRACK LIST】
1. 街の底 / 2. 鳴らせよ 鳴らせ / 3. イッテコイ カエッテコイ / 4. ナニクソ節 / 5. コンクリートの川 / 6. 茫洋 / 7. テレビ塔 / 8. 道をつなぐ / 9. 直に掴み取れ / 10. 万雷の拍手
※まとめ購入のお客様には、Webブックレットが特典として同梱されます。
INTERVIEW : 吉野寿
このインタヴューは、街の底で生きているイースタンユース吉野寿が丁寧に語った彼の肉片だ。『ボトムオブザワールド』は、間違いなく名盤です。この名盤を表現出来るインタヴューになったと思う。言葉も力だ。ぜひ、最後まで読んでください。
インタヴュー : 飯田仁一郎(OTOTOY編集長)
写真 : 大橋祐希
まだ生きてるってことが希望だよ
ーー本作『ボトムオブザワールド』ですが、トーキングボイスの01「街の底」、吉野さんのソロの名曲04「ナニクソ節」、吉村(秀樹)に捧げたかのような07「テレビ塔」、盟友がコーラスをする09「直に掴み取れ」、そしてラストに「万雷の拍手」と、ストーリーを感じさせるアルバム展開に驚きました。イースタンユースの強い意思を感じると言うか… 今作にテーマはありましたか?
吉野寿(以下、吉野) : 作る前にはテーマを設けなかった。ただ、俺は街の底で這いつくばるように生きているわけですよ。それをストレートに形にできればいいんだろうなと思ったので、音楽に対する憧れから音楽を作るんじゃなくて、自分の中にあるもの、自分が今日までに刻み込んできたものや、今生きている状態から引っ張りだして作り出そうと。例えそれが何かにすごく似てたりしても、自分の中から自然に出てきたならOKってことにして。その代わり「○○みたいな曲」って狙いで出てくるものは全部ボツ、って気持ちでやりましたね。

ーーその考え方はこれまでと変わらないですか?
吉野 : いつもそうなんですけど、今回はソロの作曲過程に近い感じですね。もちろんバンドなんで、各々の個性のミックスというか、メンバーと阿吽の呼吸でやっているっていうのは一緒なんだけど、今回はただ自分の中から出てくるもので構成していって。今まではフレーズだけ持っていってバンドで組み立てていくことが多かったんだけど、今回は構成までかなりきっちり作り込んで、2〜3ヶ月で一気に作りました。
ーーなるほど。「これでいいんだ」と構えている感じがするというか、楽曲はシンプルなんだけど抜群のタイミングでアレンジや各楽器が構成されていて、バンドの力強さを感じました。
吉野 : 狙いが意識的に発生しないようにしたんです。ただなんとなくギターを弾いて、「この感じだな」っていうのをキャッチしたら、そのことだけを突き詰めていく。そうやって形になったフレーズが次の言葉へと導いていくので、それだけを頼りに、忠実に沿って1曲ずつ作っていきました。
ーー迷いを無くすのって難しいことだと思うんですが、それは今作で出来るようになったんですか?
吉野 : 半ば強引にね。捨てるというか、引き算で「無し! 捨て! はい、残ったのはこれ! 以上!」って。それで笑われてもいいじゃんと思ってさ。
ーー引いていって残ったものは何だったのでしょうか。
吉野 : 客観的にみれば、自分の中の掛け値のない心棒というか、核みたいなものだよね。それだけを抽出したかった。例えそれがみっともなくても実際そうなんだから、言い訳しないでおこうと。それで勝負するしかないから、駄目だったら駄目でいいというかさ。
ーーその核は何で出来ていますか?
吉野 : 俺の今日までの足取り、這いつくばって生きていることじゃないですか。苛立ってるし、もうどう生きていいかわからないけど、それでも生きてかなきゃいけないわけで。死んでないっていう事実があるんだから、そこに懸けるしかないですよね。学歴も経験もスキルも技術も才能もないし、この先どうなっていくのかわからないけど、どう生かされるのか殺されるのかってことに懸けちゃってる人間のドキュメントなんですよ。
ーー「這いつくばってでも生きる」っていうのは、eastern youthにとってずっとあるテーマだと思うんです。ただ、今回はタイトルを含め、特にそれが如実に表れていますよね。
吉野 : ぶっちゃけた話をすると、去年からいよいよ経済的にも困窮してきてるわけ。
ーーえっ?
吉野 : 職業として完全に破綻したんだよね。それが現状。そんな中で、本当にどう生きていっていいのかわかんない。だけどギター弾いて歌い散らすことしかやれることがないし、やりたいこともないし、自分の人生を懸けられると思えることもないから、半ばやけくそではあるんだろうけど、そこに懸けてる感じが出てるんじゃないかな。今のところ家もあるし、まだ本当のベタ底ではないと思うけど、何の宛てもない。この歳になって宛てのない人生をどう生きていったらいいのかなって思うけど、どうせ最後は死ぬだけだから、死ぬまでやるしかないでしょ。

ーー厳しい状況だと思いますけど、その時にやろうと思ったのがこの作品を作ることだったんですか?
吉野 : うん。それをちゃんと形にしておきたかった。変に大げさに嘆いたりするのも嫌だから、ジメジメさせないで、真っ直ぐに形にしたいと思って。
ーー生活のことを考えたら、働くとか故郷へ帰るとか、いろんな選択肢があるじゃないですか。そんな中で迷わずこれをやるんだって思ったんですか?
吉野 : 思ったね。「俺は働かねえぞ!」って意思表明でもある。ハハハ。お金にならなかったら「仕事」って呼ばないのかもしれないけど、俺のやるべき仕事はギターを弾いて歌うだけ。それ以外のことをやりたくないし、そうやって生きていったらどうなっちゃうんだろうって思いもある。瀬戸際にきてるけど深刻ぶってもしょうがないし、「よーし、駄目になるぞ! みててね!」って感じで。
ーー今作が完成したことやその後にツアーがあることは、吉野さんにとってはひとつの希望だったりするんですか?
吉野 : ない。特に今作に希望みたいなものは全くない。絶望一直線。だけどメソメソしたりするのは嫌だから。希望が残っているとしたらまだ死んでいないっていうことだよ。死んだ人は歌えないから。ギターも弾けないし、酒も飲めない。まだ生きてるってことが希望だよ。
あの頃俺たちはテレビ塔を見上げて生きていて、その下で右往左往してた
ーー各曲について訊かせてください。いきなりトーキングボイスの「街の底」で始まります。今までのeastern youthにはなかった手法ですよね。
吉野 : ただこういう曲がやりたくて。言葉を突っ込みたかったんです。焦燥感というか、「ヤバい! クソー!」っていうものは、悠長なメロディーに乗せるより、もっとザラっとした、言葉の生々しさとか毒々しさでぶっ飛ばしたほうがいいんじゃねえのかなって思ってやったんだけど、嫁さんとかにものすごく批判されて。「こんなことお前らがやることじゃないんだ」って(笑)。
ーー(笑)。
吉野 : 「えー?!」って、何パターンか取り直したんだけど、結局は一番最初に録った一発OKのやつで落ち着いて。やっぱり俺のファースト・インプレッションは間違ってなかったんだなって思います。
ーー驚きましたけど、違和感はなかったです。この曲が1曲目っていうのは意図的なものですか?
吉野 : 曲順は最初からそのつもりだったんだけど、歌の載せ方ってところでは、新しい手法を取り入れたというより、言葉ありきの曲だったからこういうかたちになったんですよね。街の底で這いつくばって生きている焦燥感をより濃く出したかったから。
ーー「街の底/人間達/彷徨っている」っていうフレーズありきの曲だと。
吉野 : そう。いろんな事情があってさ、いろんな荷物を背負ってさ、それでも人知れず生きてるわけだよ。「冗談じゃねえんだぞ、生きてるんだぞ」って。街の底には野良犬がいっぱいですよ。その力というか、エッジを出せればいいなと。
ーーアルバム・タイトル『ボトムオブザワールド』というキーワード、タイトルはいつからあったんですか?
吉野 : 一番最後。録音してミックスしてる最中に「そろそろアルバム・タイトル決めなきゃな」ってなったときに、いろんな案があったんだけど、これだなと。自分を底に置いておきたいんですよ。視点をそこに据えておきたいし、底から歌われるうたでありたいよね。
ーー4曲目、ソロのoutside yoshino名義で発表していた「ナニクソ節」をバンド・バージョンで収録したのは何故なのでしょうか。
吉野 : 震災の直後に作った曲なんだけど、アルバムの曲を作り進めていく中で、アルバムの全体像を考えたときに「これは今出来るな」と思って。元々バンド・アレンジでもできそうな曲だったし、そんなに深い計算もなく、原曲のまま楽器がコミットしてくれれば成り立ったんで、やってみるなら今だなって。
ーーそして7曲目「テレビ塔」の、友人に投げかけるような歌詞とこのタイトル。これは吉村(秀樹)さんのことを歌っていると思っていいんでしょうか?
吉野 : うーん、それは「さあ?」ってことにしときます。俺、追悼の曲とか嫌でさ。なんかダシに使ってるみたいで、利用して乗っかっちゃえっていうのが嫌で。そんなふうにしたくない。曲自体はもっと前からあって、それこそこれもソロ用に作った曲なんだけど、バンドでアレンジしなおしたんです。これは、俺が札幌から貰ったものを表現した曲なんだと思うんだよね。与えてもらったものというかさ。その象徴としてテレビ塔がある。あの頃俺たちはテレビ塔を見上げて生きていて、その下で右往左往してたんだけど、雪が降ったり花が咲いたりする中で、いつもテレビ塔があって、時計台の鐘が鳴ってさ。そうやって生きてきたし、そうやって死んでいくんだなって、そういう歌かな。
ーー札幌からはどんなものを貰ったと思いますか。
吉野 : もう本当にニュアンスの話になるんだけど、俺の感情の中心にあるものというか。音楽的なこともそうで、「テレビ塔」に関して言えば、この曲だけのチューニングでやってるんですよ。そのチューニングで「ガーン!」と鳴らしたときに広がる札幌感というか。
ーーそれは、感じました。
吉野 : バーッと音が響いたときの鐘感、雪感みたいな。あれはよーちゃん(吉村秀樹)に教えてもらったというか、俺が子供の頃に周りをうろちょろしていて盗み取ったもので。でもそれを意識してやっているっていうよりは、俺の中に染み付いた札幌感なんだよね。札幌感=よーちゃん、っていうのが大きな要素としてあって。ブッチャーズを初めて観て「なんじゃこりゃー!」とあのギターに痺れてから、俺はずっとそうやってギターを弾いてきたから。それがすごく色濃く表れている曲なんじゃないのかな。
ーー前奏が終わって、単音から「ガーン!」といくところ、聴いていてもの凄く気持ちよかったです。
吉野 : 今回、実際によーちゃんのギターで録ったんだよね。
ーーそうなんですか!
吉野 : 射守矢くんがよーちゃんのヤマハのギターを持っていて、「俺ギター弾かないし吉野が持ってたらいいんじゃない」って、俺のところに回ってきたの。昔のギターで変わった形なんだけど、すごく状態も良いやつ。で、曲も札幌感全開だし、せっかくだし使ってみるかと思ってやってみたら、いい音が出るんだよ。絶妙なフィードバックというか、ハウリングにならないギリギリのところでガーン! と音が出て、やっぱ楽器って魂みたいなもので弾くのかなと思ったよね。「すげえな吉村、死んでるのに恐ろしいな!」って。

ーー札幌で活動していた頃は、皆何処に集まってたんですか?
吉野 : ロッテリアかな。
ーーあのハンバーガー屋のですか(笑)?
そう。2階建てで、レジは1階なんだけど、2階からも入れる仕組みになってたの。自由に出入りできたからそこにたむろってた。鋲ジャンとかモヒカンとかばっかりだから、店員も怖くて2階に来て注意できない感じで。
ーー迷惑だったでしょうね…。
吉野 : だろうね。あとはUKエジソンって輸入レコ—ド屋に昼間からたむろしてレコードばっかり聴いてた。「BAD BRAINSってやべえぞ!すげえな!お、レゲエじゃね?!」とか言いながら。暖かいときは大通り公園のベンチで寝たり、その辺りをぐるっと回れば誰かいる感じだったね。
ーー世代としては、吉野さんのちょっと上に吉村さんや増子さん(増子直純/怒髪天)が居て、同じ世代に谷さん(谷ぐち順/LessThanTV)とか真二さん(増子真二/DMBQ)が居る感じですか?
吉野 : そう。清水(清水泰次/怒髪天)とかも俺と同じ世代。でも、その頃の仲間がちょっとずつ死んでいっててさ。本当に定期的に。俺は死にかけたのに死ななくて、他の奴が死んでいって、なんだよって呆然とする。自由に生きると、それだけ代償を払わされるのかなって気もするけど、だからといって先回りして保険かけるような生き方しても今更どうにもなんねえし、時間は無限じゃないから、今本当にやりたいこと、やるべきことをやらないとあっという間に終わっちゃうって感じてます。あいつもこいつも、もう夢も見れないんだから。終わるんだ、忘れんな、後先考えている場合じゃねえって。これは、よーちゃんが死んでから特に強くそう思うようになったね。
ーー「直に掴み取れ」では、ゲスト(向井秀徳/ZAZEN BOYS、射守矢/ブッチャーズ、cp/group_inou)が参加していますね。eastern youthにしては珍しいと思ったのと、「人間万事塞翁が馬(※)/直に掴み取れ」っていうフレーズがすごく印象的でした。これはどういう構想だったのでしょうか。
※人間万事塞翁が馬(にんげんばんじさいおうがうま) - 人生における幸不幸は予測しがたいということ。幸せが不幸に、不幸が幸せにいつ転じるかわからないのだから、安易に喜んだり悲しんだりするべきではないというたとえ。
吉野 : 「ええじゃないか」みたいな曲にしたかったんです。暗さをぶっ飛ばせというか、明るい感じにしようと思って。一人一人は個で生きてて、尊重されるべきものも個だと思ってるのね。集団とか群れとか大嫌いだし、個で生きてて「ほっといてくれ!」って感じなんだけど、その個と個が共存しているのが街なわけで。ぶつかり合って作用し合って、関わりあってるんだけど、あくまで個が混沌の中で共存して生きていくことで生まれる街の息吹みたいな、そういうニュアンスが出ればなと。だからコーラスの部分も、いわゆるロックのシンガロングみたいな統制された合唱というよりは、混声で老若男女がぐちゃぐちゃになってるコーラスにしたかった。民衆の個の力というか、「やーい! 言うことなんか聞かねえよー! そう簡単に白旗なんて挙げないよ!」みたいなニュアンス。
ーーゲストの向井さん(向井秀徳/ZAZEN BOYS)のパートは、適当なことを歌ってるような、冗談みたいなラップなのに隙がないですよね。
吉野 : 元々あの部分に何かお囃子みたいなものを入れようと思ってて、皆がコーラスにきてくれたので「この部分何か入れたいんだけどさ、できない? やってよ」って突発的に頼んだの。「えー、どうすればいいの」って言ってたんだけど、5分くらい考えて、パッと録ったら一発であれだよ。「持ってる男は違うな〜!」って納得。

ーー(笑)。この曲になるとあのフレーズを待っちゃいますもん。
吉野 : これでグッと華やかになったよね。バカっぽさもあるし、個の「俺は俺のほうへ行く!」みたいな感じが色濃く出て、すごいなと思った。あれは才能だよ。
ーーアルバム最後の「万雷の拍手」に出てくる「ちっぽけな人生の物語」というフレーズは、吉野さん自身のことを歌っているのでしょうか。
吉野 : 俺を含めた、誰にも注目されないでただただ生きている人達のことを言ってますね。何のために生きてるのかわからないけど、自分の人生の中では主人公なわけですから、自分でつかみ取らないとさ。人間万事塞翁が馬で、悪いと思ってたことがよくなったり、良いと思ってたことが駄目だったりするから、何が良いかなんてわからないよ。あと、前作をリリースしてからライブしまくってわかったことはさ、俺はそんなに難しいことできないんだなって。単純なのが性に合っているんだよね。「よっしゃー、カウント! ジャーン!」みたいな。
ーー(笑)。
吉野 : 光の当て方次第でいろんな曲ができるけど、そんなに難しかったり高度だったり、重かったり複雑だったりするものは全然好きじゃないし、やりたくもない。スカッと真っ直ぐでありたいんだよね。「理由つけていろんなことしようとするけど、本当にそんなんやりたかったの? これじゃねえの? これが一番いいじゃん。「はいカウントー! ジャーン! よっしゃー!!」って、それでいいじゃん、よしやろう!」って。そうじゃなかったら人生棒に振ってる甲斐がないから。格好つけたって誰も責任取ってくれないし、格好つけていいことなんて何もない。
白旗なんて挙げねえよ
ーー実は、今作を初めて聞いたとき、ゆらゆら帝国の『空洞です』を彷彿とさせられたんですよね。これはひとつのバンドの到達点だなと。
吉野 : あのね、今の編成でやるのは、次のツアーで最後なんですよ。二宮(友和)が抜けるんで。だからまあ、アルバムもちょっと最後のつもりで作った部分もありますね。「どう思われてもいいから、不純物を取り除いて作ろう」って。ただ解散はしないので続けていこうと思ってるんだけど。
ーー二宮さんが抜けることに対してはどう思っていますか?
吉野 : 彼は彼で違う道を行くんでしょう。俺は俺で行くし、それでいいと思うよ。
ーーeastern youthをやろうとする意志が残っているのは可能性がみえているから?
吉野 : うん、まだまだ。次に繋がるアイデアも気力もあるし。田森(篤哉)は器用なドラマーではないけれども、その中で面白く展開していく自信がある。俺と田森がいるうちはeastern youthとして活動しようと思ってるし、それに対しては投げ出していないですね。

ーー削ぎ落としていくのって究極の形だと思うんです。そんなアルバムを作った後にまだ可能性がみえるものなんですか?
吉野 : 全然あるよ! 「はい、次!」ってどんどん捨てていけばいいんだもん。例えば今後、全く違うもの作って「えー、前作はよかったけど今回は良くない」って言われても、自分の中から本当に出てきた、自分と直結したものだったら後悔しない。商売としては失敗するかもしれないけど、自分が納得できたらいいわけだから、そういうことに関しては投げ出してないですよ。音楽は面白いし、まだまだギターの可能性も信じてるから。
ーー吉野さんは、デモへの参加やSNSでの発言など、社会に対して思うことを発信されていますけど、このアルバムはそこと結びつかなかったんですよね。たくさんの人に勇気を与えるというか、頑張ろうと思えるようなものだなと。その辺りは意識的に取り入れようとしていないのでしょうか?
吉野 : そうだね。極端に言うと、俺は「世の中くそったれ、全員死ね、ぶっ殺す」位の気持ちで生きているんだけど、やっぱりそうは言っても街の中で関わり合いながら生きてるわけでしょ。自分に個ってものがあるなら他人にもあるし、自分の個を尊重するなら他人の個も尊重されるべきだと思うし、それを大きな力でひとつの考え方みたいなもので踏みにじる奴らがむかつくし、そういうことに対して頭にくるって思っているけど、その答えが何かってことが自分の中で解決していないから、歌詞に折り込むことはできない。自分が責任を取れることしか言えないし、まして世の中にモノ申したり、社会変革を目指したり啓発する為の手段として音楽を捉えてないんです。俺の音楽はただ生きている証とその結果だから。それだけを純粋に残しておきたいだけで、それ以外のことはなるべく持ち込みたくない。
ーーなるほど。
吉野 : 直接的に「これをこうしたらこうなる」みたいな、設問と回答みたいなものにしたくないんだよね。そういう状況に翻弄されながら生きている一人のちっぽけな人間のドキュメントとして、俺は音楽と接したいから。生きていく中で「え?」と思ったことは個人的に発信することはあるかもしれないけど、なるべく歌の中には入れたくないっていうのがあります。
ーーeastern youthはミュージシャンとして認められていて、たくさんの人に知られていて、多くの作品を出してきているじゃないですか。一方で吉野さんからは「誰にも認められてない」「俺たちは底辺なんだ」って言葉が出てくる。吉野さんの歌詞は、劣等感の塊から生まれるものなのか、それとも目の前にある事柄を描くことで感情をあぶり出しているのか、どっちなのでしょう。
吉野 : 劣等感、バリバリありますね。バリ島です。
ーー(笑)。
吉野 : 劣等感というか、ポンコツっすよ。ただそれを別に嘆いてない。人のせいにしたって自分がポンコツなのは自分のせいだもんね。俺も才能があったらそりゃ嬉しいだろうけど、ないものはないからしょうがない。あるもので戦っていくしかない。それはきっと負け戦なんだろうなって思うけど、負けるからってやらねえわけにはいかないからね。やるしかない。

ーー負けるってわかっててもやる理由は何なんでしょう。
吉野 : 死んでないからじゃない? 生きてるから。死んだら終わるんだから。それまでの話。
ーー吉野さんが自分には音楽しかない、歌を歌う、曲を作るしかないって思ったのはいつ頃からなんですか?
吉野 : 若い頃、本当に子供の頃から。音楽しか自分を慰める手段がなかったんですよね。もっと厳密にいうとパンク/ロックだけ。弾くにせよ聴くにせよ、それだけが唯一の押し返す手段というかさ。俺みたいに無能で怠け者で何もない奴は社会が許してくれないんだよ。でも俺だって「はいそうですか」って死ぬわけにはいかないから、押しつぶされないように押し返さなきゃいけなくて、その手段が音楽だった。それしか思いつかなかったし、できなかった。
ーー吉野さんが言う"パンク"は概念の話?
吉野 : うーん、「パンクとは」っていうと哲学的になってきちゃうけど、要するに「押し返す力」っちゅうかさ。自分を押しつぶそうとする圧力を押し返す力。自分が困窮するのは自分がだらしねえせいだっていうのはわかってて。だからといって白旗なんて挙げねえよと。よくわからんけど「ジャーン!」とドカドカやってたら生きていける。それがどこまでいけるのか。もう洒落にならない歳になってきたけど、ここまできたらそれがどうなっていくのかを面白半分に続けてやろうかなって。俺という人間がどういう風に決着がつくのかはわからないけど、俺なりの決着がつくはずだから、それまでやったろうって思ってます。
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販売形式 : 2000円(wavのみ)
>>第1回 田森篤哉インタヴューはこちら
>>第2回 二宮友和インタヴューはこちら
>>第3回 吉野寿インタヴューはこちら
LIVE INFORMATION
極東最前線/巡業2015 〜ボトムオブザワールド人間達〜
2015年3月28日(土)@千葉LOOK
2015年3月29日(日)@さいたま新都心HEAVEN'S ROCK
2015年4月3日(金)@金沢vanvanV4
2015年4月4日(土)@長野ライブハウスJ
2015年4月5日(日)@新潟CLUB RIVERST
2015年4月10日(金)@福岡DRUM Be-1
2015年4月11日(土)@広島ナミキジャンクション
2015年4月17日(金)@横浜F.A.D
2015年4月18日(土)@静岡SUNASH
2015年4月19日(日)@京都磔磔
2015年5月9日(土)@松山Double-u Studio
2015年5月10日(日)@岡山ペパーランド
2015年5月16日(土)@盛岡the five
2015年5月17日(日)@仙台CLUB JUNK BOX
2015年5月23日(土)@名古屋クラブクアトロ
2015年5月24日(日)@梅田クラブクアトロ
2015年5月30日(土)@渋谷TSUTAYA O-EAST
2015年6月6日(土)@札幌cube garden
PROFILE
吉野 寿 : エレキ・ギター、ボイス
二宮友和 : ベース・ギター
田森篤哉 : ドラムス
1988年、吉野、田森、三橋徹により結成。
1991年、バンド上京に伴い三橋脱退。
1992年、二宮加入。以降、コンスタントに活動を続け現在に至る。