シンプルに楽しく踊れるアルバム
──他の楽曲についてもいろいろきかせてほしいんだけど、1曲目の“台湾の煙草“は今年4月に出していた“スピード“と歌詞以外全く同じ?
橋本:そうなんです。簡単にいうと「スピード」のパラレル・ワールドというか。僕が歌詞を書くときって、1行ごとよりも、言葉をガーッと引っ張り出してきてまとめていくという作業がほとんどで“スピード“の歌詞を書いていたら、言葉が溢れすぎて、世界がふたつ(2曲分)に分かれてきちゃったんです。この歌詞は“スピード“、この歌詞は“台湾の煙草“っていう風に分かれていったら結局2曲できたというわけなんです。
──じゃあ「スピード」を作っていたときから、“台湾の煙草“の歌詞はすでにできていたんだ。
橋本:そういうことです。でもどっちの曲も僕の言いたいことで、絡みあっているんですよ。ただ“台湾の煙草“は、もうちょっとバンドとか仲間みたいなことを書いた曲で、“スピード“の歌詞の世界観よりも、いい現実を生きてない人たちを描いているんです。だから“台湾の煙草“は、夢から覚めて現実からスタートするっていう曲ですね。
──録り直したの?
橋本:歌だけですね。ミックスも多少やり直しただけで、ヴォーカル以外は「スピード」の音をそのまま使っています。
──2曲目の“Chandler Bing”はどういう風に制作されたんでしょう。
稲葉:相当時間かかりましたよね?
熊谷:今年の頭に15分のシングル「NEW HEAVEN」をリリースしたときに、試聴会をやったんですけど、その翌週に“Chandler Bing”と“スピード“のレコーディングがあって。その試聴会の控室でも制作していましたね。
橋本:僕がいちばん心地いいと思う、トロピカル、トライバル、エスニックの要素を入れています。デビュー前に作った“KIDS”で出しきれなかったイメージを今回“Chandler Bing”で出せたんじゃないかな。あとデモの段階では打ち込みでパーカッションを入れていたんですけど、それもちゃんと録音しています。
──3曲目“バケーションに沿って“はいかがですか?
橋本:客観性を落としこむことで色々な人が楽しんで聴いてもらえるような曲を作ろう、というのが念頭にありました。歌詞は「多様性」について書いています。正しさにこだわりすぎちゃうのはどうなんだろうと常々思っていまして。恋愛もそうですけど、なんでも色々な形があるなかで、それぞれの形を大事にしていきたいと思って書きましたね。
──リファレンスしたアーティストはいる?
橋本:僕はRex Orange Countyがすごく好きなんですけど、ああいうインディー・ロックは日本であまり受け入れられていないんじゃないかなと思って。だからRexの要素を僕らが日本っぽいアプローチで落とし込んだらどうだろう、みたいなことは考えましたね。あとは僕も稲葉も、L’Arc~en~Cielが好きなので、その要素も結構あるかな。
稲葉:めっちゃラルクっすね。ベース・ラインとか結構。
──ベース・ラインがラルク(笑)!?
稲葉:僕がベースをはじめた理由はヴィジュアル系が好きだったからなんです。やっとここで自分の培ったものが出せました。かなり考えましたし、勇気も必要でしたね。
橋本:僕のなかの裏テーマとしては大瀧詠一さん的なシティ・ポップのエッセンスもいれたりとかしています。
──ラルクから大瀧詠一まで(笑)。“愛想のないブレイク (with FORD TRIO)“は、なんかもうすごい曲ですね。
橋本:いや、これめちゃくちゃっすよね(笑)。冒頭と最後のふにゃふにゃのところは、僕がGarageBandで作った、寝ぼけながら歌ってるデモをそのまま使っていて。そのくらい自由なフィーリングで作りたかったんです。これは稲葉と一緒にスタジオと家にこもって制作しつつ、時々太起も監督しに来てちょこちょこ進めていきましたね。完全に宅録なのでその要素も濃く出ていると思います。
──フィーチャリングのFORD TRIOはタイのファンク・バンドですが、彼らが参加したのはどういう経緯で?
橋本:昨年、FORD TRIOの「เปล่าเลย (なんにも)」でコラボさせてもらったんですけど、それですごく仲良くなったんです。本当にいいバンドなんですよ。この曲は飛行機でどこかへ行くイメージがあったので、途中で違うバンドに切り替わったらおもしろいなーと思ったんです。それでFORD TRIOにお願いしたら快く受けてくれました。16小節くらい空けておいて、「ここにハマるものを作ってくれない?」って無茶振りしちゃったんですけど、ばっちりでしたね。

──“触れてみた“では柴田聡子さんとコラボしているけど、なぜオファーを?
橋本:僕はゆらゆら帝国さんと坂本慎太郎さんが昔からずっと大好きで。でも本当にすごい方だから吸収して形にするなんて簡単にできないんですよ。でもなんとかいい形でアウトプットしたいと思っていたときに、柴田さんとならようやくそのマインドをうまく消化して出せるんじゃないかなと思えたんですよね。歌詞は恋愛っぽいけど、色々なものを取っ払った生身のふれあい感みたいなものを歌詞でも音像でもとにかく表現したかったんです。
──だから“触れてみた“ってタイトルなんですね。柴田さんのうたが素晴らしいですね。
橋本:無邪気さもありつつ、ただ子供っぽいわけでもなく──大人と子供の要素を行ったり来たりできるような人がハマるだろうなって思ったんです。それで柴田さんの人柄もそうですし、声の使いかたとかも含め、この曲に合うんじゃないかなと思いました。
──気持ちがいいです。
橋本:以前リリースした“Good News Is Bad News”は削ぎ落としたロック・バンドの音を目指して楽器も最低限にしているんですけど、この曲でそのアプローチをもうちょっと押し進めたかったんです。ミックスで加工するより、録り音から雰囲気を固めていて。楽器のフレーズにもいつも以上に必然性を持たせるようにしています。
──ヨガの影響もあるんだって?
橋本:最近ヨガをやっていて、オケを録るときに「一緒にヨガしてくれない?」ってスタジオで一緒に身体ほぐしてからレコーディングしました(笑)。なるべく脱力した状態で演奏したくて。
──最後に今作がどのようなアルバムになったか、それぞれ教えてください。
稲葉:やっとHelsinki Lambda Clubが固まったと思います。僕らもこの先がクリアになったし、やりたいこともまたこのアルバムを作ったことで見えるようになりました。タイトル通り、ここから入ってきて欲しいです。
熊谷:いろいろな要素があるので、確かに僕らへの入り口としてはいちばんいいよね。あとライヴで活きる曲も結構あると思うんです。“収穫(りゃくだつ)のシーズン“はライヴで育った曲ですけど、改めて今作に収録したことで聴き直すとヒリヒリしている当時の雰囲気が音源にパッケージされていていいなと思うし。そういう意味で他の曲もライヴでどんどん進化していくと思うので、パフォーマンスも楽しみにしていて欲しいです。
橋本:たしかに! “See The Light”とかめちゃくちゃ長尺でやっちゃいそう。僕はシンプルに楽しく踊れるアルバムだと思っています。音楽を楽しみたい人はそれもいいし、マインドに共鳴してくれるのも嬉しい。あとはディズニーランドみたいなアルバムになったので、マップを描いてほしいな(笑)。ディズニーのマップってエリアがそれぞれ分かれていますけど、あんな感じで「1曲目から3曲目までのゾーン」とか描いてほしいですね。
稲葉:すごく分かります。僕もマップ描いてほしいなってちょうど思ってました。
──(笑) 。10周年に突入したタイミングでいまがスタートとなると、今後ヘルシンキがどこへ進んでいくのか気になります。
橋本:楽しいことは自分たちで作っていきたいし、大きいイベントもやってみたいですね。あとは海外に憧れて音楽をはじめたので、日本はもちろん大事にしていますけど、海外公演もたくさんやっていきたいです。刺激的なものを海外で得つつ、日本ではちょっと落ち着いた雰囲気で活動するとか。いろいろな楽しみ方をしていきたいですね。
