Tomggg 『Flow Tides』
トラックメイカー、プロデューサーとして活動しているTomgggによる1年半ぶりのアルバム。ena moriの無邪気な歌声と自由なサウンドが合わさった"なんてね"が「ポカリスエット」のCMに採用され大きな話題を呼ぶなど、数々のシンガーとのコラボもあるが、今回はイントゥルメンタル・オンリーのアルバムとなった。「ものすごく楽しくなる音楽」をモットーに作られた、自由で好奇心がくすぐられるエレクトロニック・サウンドは実に多面的。大胆なパンニングやピッチベンドが巧みに織り込まれ、毒々しいけど爽やかで、痛快。ゲームの中盤のような、マリオの6、7面のような楽しさです。夏にぴったりの作品をぜひ。(菅)
スカート 『スペシャル』
スカート10枚目のアルバム『スペシャル』を聴いて、『ストーリー』(2011年)で初めてスカートを知ったときのことを思い出した。春風に舞う土埃の中、かすむ目でとらえたあの人の姿。動く心。なにがあっても決して侵されない自分だけの領域がある。スカートは、そんな特別な感情を描き続けてきた。今作ではバイオリンやパーカッション、コーラスには柴田聡子や畳野彩加らが参加。華やかさをまといつつ、"ぼくは変わってしまった""緑と名付けて""スペシャル"など、初期のバンド・サウンドを思い出させるバンドの骨格を際立たせたシンプルな音像が印象に残る。久野遥子によるジャケットの少女とうさぎのように、これは私にとっての『スペシャル』だ。(石)
超右腕 『I WAS WAITING FOR YOU AT OKAYAMA-STATION』
この歌詞を、この声で、このギターリフとリズムにのせて歌う。バンドを組むって、そういうことだよね、と思わされる。90年代USオルタナの質感を、今を生きる日本語詞で更新した、岡山の4人組バンド、超右腕 (スーパーウワン) の3rdアルバム。今の日本に「カレッジロック」があるとしたら、これこそがその核心かもしれない。足りない・うまくいかない・もどかしい・切ない──そんな感情が歌われてきたアルバムのラスト、永遠に聴いていたくなるアウトロが鳴り止んだとき、心にぽっかりと穴が開く。アルバム全体を通して、サブスクなら自動再生は切って聴くべし。前2作と比べ圧倒的に進化した音像を持つ、2025年の大傑作。(高)