REVIEWS : 056 ポップ・ミュージック(2023年3月)──高岡洋詞

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜から9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による“ポップ・ミュージック”。SSW、バンド、ハイコンテクストな話題のプロデューサー・ユニットなどなど、この国で生まれた良質なポップ・ミュージック、2023年最初の3ヶ月の9枚をお届けします。
OTOTOY REVIEWS 056
『ポップ・ミュージック(2023年3月)』
文 : 高岡洋詞
aiko 『今の二人をお互いが見てる』
今年デビュー25年を迎えるaikoの2年ぶり15枚目のアルバム。しっかり聴くのは久しぶりだが、独特のブルージーなメロディも、ハ行がことごとくカ行になる発語も、リヴァーブを排した録りも揺るぎなく凄味満点。もちろん全曲ラヴ・ソングだが、些細な変化を察知する観察力、そこに大きな意味を見出す想像力、それを一編の物語に描き上げる創作力には感服するばかりだ。“荒れた唇は恋を失くす” も “ぶどうじゅーす” も “アップルパイ” も “telepathy” も、もはや恋愛をモチーフにした祈りにすら聞こえる。アレンジはおなじみの島田昌典と前作から参画するトオミヨウがほぼ半分ずつ担当し、美しい仕事ぶりでしっかりと主役を支えている。親しみやすさと個性とプロフェッショナリズムを併せ持った、現代最良のJ-POPである。
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蓮沼執太フィル 『symphil』
総勢15人のフィルハーモニック・ポップ・オーケストラによる5年ぶりのアルバム。ジャズ、ロック、ネオ・クラシカルを軸に多様なスタイルが入り混じり、少なからず前衛的な部分もあるが、フルート、ユーフォニウム、ヴァイオリン、マリンバ、スティールパンなどアコースティックな楽器が多いせいか音色が柔らかく、スリルと癒しの両方の要素があり、音量を上げても下げても心地よく聴ける。奇数拍子のマス・ロックと思っていたらビートが変わってxiangyuのラップが現れる “#API” 、同一のモチーフが繰り返し顔を出す長尺のインスト “BLACKOUT” 、ポップな開放感のある “HOLIDAY” などなど聴きどころ満載。最終曲 “Eco Echo” の大谷能生の朗読がすばらしく、最後の「ありがとう」(歌)の豊かな余韻にもう一度最初から聴きたくなる。
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PAS TASTA 『GOOD POP』
hirihiri、Kabanagu、phritz、quoree、ウ山あまね、yuigotというネット・ギークな次世代クリエイター6人が2023年最新型GOOD POPをプレゼンする。VTuberのオシャレになりたい!ピーナッツくんを客演に迎えた “peanut phenomenon” の驚愕の折衷主義(ギター・ポップ~夏祭り~メタル)とchelmicoの鈴木真海子が参加したバラード “finger frame” の落差にも驚いたが、6人で合宿して制作したという終幕曲 “zip zapper” にはやられた。2分45秒の間にせつないエレクトロポップがダブステップ~EDMにコロコロ展開し、ムシ声のボサ・ノヴァで締める。「なんじゃこりゃ」と狐につままれつつも、最後は「いい曲だった」という印象が残るのが不思議。情報処理の速度がアナログ世代とは桁違いの、まさに俊英集団だ。
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