対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』
あるとき訪れた、「ドラムを叩きたい」という欲望を認めた瞬間──ゲスト : 北山ゆう子(ドラマー)

シンガー・ソングライターの見汐麻衣が、いまお会いしたい方をゲストにお迎えする対談連載、『見汐麻衣の日めくりカレンダー』。「大人になったと感じた時のこと」をテーマに据え、逆戻りの「日めくりカレンダー」をめくるように、当時のあれこれを振り返ります。
第2回のゲストは、キセルやエクスネ・ケディ(井手健介と母船)をはじめとし、数々のミュージシャンと共演を重ねているドラマー、北山ゆう子さん。高校生のころに初めてドラムを叩いたという北山さんは、2002年に曽我部恵一ソロのツアーに同行したのをきっかけに、日本のインディー・シーンを支えるセッション・ドラマーとして欠かせない存在に。聴くものをあっという間に虜にする独自のグルーヴは唯一無二。対談が進むにつれて、自身のドラム・スタイルにもあらわれている、自分を縛りつけない北山さんの純朴な心のあり方が表出していきます。
【第2回】ゲスト : 北山ゆう子

文 : 石川幸穂
写真 : 安仁
「なんかいい」とか「なんかやだ」とか、感覚的な部分が大事
見汐麻衣(以下、見汐):ゆう子さんのことを知るきっかけになったのが、2008年に〈compare notes〉からリリースされたlake(*1)のファースト・アルバム『LAKE』をレーベルの小田(晶房)さんから勧められて聴いたのが最初でした。すごくかっこいいなと思って。その後、初めてお会いしたのが2011年の冬で。私がやっていた埋火(2014年に解散)というバンドのレコ発を渋谷〈O-NEST〉で開催したときに湯浅湾とキセルに出演して頂いてその時ご挨拶したんですが、覚えてます?
北山ゆう子(以下、北山):うん……(笑)。
見汐:企画などで共演しても挨拶程度で、楽屋が同じでも話しをすることって少ないですよね。
北山:そうですね。
見汐:2007年から2013年くらいにかけて、演奏しているゆう子さんをお見かけすることが増えてきて、当初はlakeのドラムの人、バンドの方だという勝手な認識があったので、キセルや三輪二郎さんやイノトモさん、児玉奈央さんや堀込泰行さん、最近だとエクスネ・ケディ(*2)なんかもそうですが、色んなジャンルの音楽家のサポートとして活躍されている姿を目にすることが多くなるにつれ、改めてセッション・ドラマーなんだなと思って。今回お会いするにあたって改めてゆう子さんの参加されてきた作品を聴き直したりしていました。
北山:わざわざありがとうございます。
見汐:自身がバンドを始めた頃から変わらず思っていることなんですが、バンドのアンサンブル、曲の土台となるドラムはとても重要だと思っていて、まぁベースもしかりですが。いつかゆう子さんと一緒にやってみたいと思っていた時、お誘いできる企画があって「今だ!」と思い、ご連絡しました(2016年、神保町試聴室のライヴにて共演)。
北山:覚えてます(笑)。
見汐:一方的にゆう子さんのドラムが好きというだけで、それほど面識もない中でご連絡したので、ドキドキしながらメールしました。一緒にスタジオに入って演奏した時、お尻に感じるキックの音で「あぁ……最高」と思って(笑)。改めて嬉しかったです。当時作っていた自分の曲は極力音数を減らすことを意識していたアレンジの曲が多くて、ゆう子さんのドラムは至極シンプルなのに、一緒にやっていると少ない音の中にグルーヴがあり、ウネり出すというか、何をしたいのかを言わずとも理解してくださっている感じがあって、本当に楽しくやれて。

北山:すいません、なんか。ありがとうございます。
見汐:ゆう子さんはご自身のサイトを持ってないですよね、作らないんですか?
北山:恥ずかしいんですかね。
見汐:作ってほしいです。いつライヴがあるか知りたいですし。ライヴを観ながら始終フロント・マンだけ見てる人ばかりじゃないと思うんですが……。
北山:そんなことないですよ! ライヴで後ろから見てるとお客さんがフロント・マンの動きを目線で追うのがわかるから、やっぱりフロントの人はすごいなって。見汐さんもそうですよ。
見汐:いやぁ……どうなんですかね。高そうな録音機材をもった方々が最前列に必ず数人いらっしゃるということは過去にあったりしましたけど。以前、『ドラムマガジン』で読んだんですが、バンドをやっていたお父様の影響で幼少期からビートルズを聴いていたと話されていて。楽器も一通り触れたんですよね?
北山:あ、それは、家にあったから文字通り楽器を「触れる」だけで、弾けるわけではないんですよ(笑)。
見汐:本当に一通り触れたということなんですね(笑)。千葉ご出身とのことですが、大学から上京されたんですか?
北山:大学生のときは横浜に住んでました。コピバンのサークルに入ってましたね。
見汐:どんなバンドをコピーしてたんですか?
北山:何やってたかな……。でも当時楽器を買うお金もなかったから、ドラムなら安くできるかなって思って始めました(笑)。いちばん最初に叩いたのは高校生時代ですね。
見汐:そうなんですね。大学のサークルで本格的にドラムを演奏し始めて、当時から真剣にやっていた感じですか?
北山:そうでもないです(笑)。ドラムって人数がそんなに多くないので、色々掛け持ちすることになるじゃないですか。

見汐:はい、私の周りもドラムの人、掛け持ち多かったです。その経験が現在の活動形態へと続いてるんでしょうか。あのー、これも『ドラムマガジン』のインタヴューで読んだ情報ですが、ゆう子さんが影響を受けたドラマーの方って、セッション・ドラマーが多いですよね。
北山:言われてみればそうですね。
見汐:好きなドラマーにジェームス・ギャドソン(*3)とか、スティーヴ・ガッド(*4)を上げられていて。彼らはいろんなバンドやアルバムに参加しているじゃないですか。ゆう子さんも形態やジャンルに捉われず活動されていて……なんとなく腑に落ちました。
北山:気づいてなかったです(笑)。
見汐:ジェームス・ギャドソンやスティーヴ・ガッドにはどんな風に影響を受けたんですか?
北山:多分ですけど、好きなドラマーって歌のバックで叩いている人ばっかりな気がしていて。だからスティーヴ・ガッド単体も好きなんだけど、ポール・サイモンが歌ってる後ろで叩いている方が好きだったりするんですよね。
見汐:ゆう子さんとご一緒したとき、うたっていてここちよかったです。考えていることを試したりしながら叩いている時もありますか?
北山:多分何も考えてない(笑)。
見汐:じゃあ感覚的に演奏されてるんでしょうね。
北山:そうかもしれないですね。「なんかいい」とか、「なんかやだ」とか。
ジェームス・ギャドソン参加作品
スティーヴ・ガッド参加作品