2025/07/16 20:00

諦観から始まる希望の音楽──colormal 『夜に交じる人たち』

【REVIEW】 colormal 『夜に交じる人たち』

文 : 高田敏弘

大阪を拠点に活動する4人組バンド、colormalの3rdアルバム『夜に交じる人たち』は、諦観から始まる希望の音楽だ。

Gt/Voの家永は、2022年のセカンドEP『anode』リリース時のインタビューで、それまで「特に意味はない」と語っていたバンド名の由来について、実は ‘color’ と ‘normal’ の組み合わせであり、ジャンルの多様さ (color) とJ-POP的普遍性 (normal) の両立を目指しているのだと明かした。

その言葉通り、EP『anode』は優れたメロディと歌に寄り添うバンド・アンサンブルを「J-POPらしさ」として結実した作品だった。続く2023年5月のEP『cathode』は、ライブでは顕著なcolormalの複雑さやいびつさが前面に出され、いかつさの後景に美が見え隠れする作品になった。そしてその両作の (インタールードを除く) 全曲を収録したミニ・アルバム『diode』により、家永の言う「color+nomal」はひとつの完成をみた。

そこから2年を経てリリースされたのが、今回のアルバム『夜に交じる人たち』だ。『diode』が二極を並列に置いた作品だったとすれば、本作は、対比を超え、それらを溶かし合わせることで得られた結晶であり、これこそが「colormal」だという確信に満ちている。高い大衆性を持ちながら、その実、家永にしか書けない歌メロが息づく。バンド・アンサンブルのアイデアの豊かさ、チャレンジ、それを魅せる演奏力が惜しみなく詰め込まれている。

アーティスト・コメントによれば、本作は「『無敵の人』を主人公として据えたコンセプト・アルバム」だという。「無敵の人」とは、失うものが何もないがゆえに社会的制約を感じずに犯罪などへと走る人を指すネットスラングだ。自暴自棄の言い換えだと捉えてよいだろう。だとしたら、そのような主題を据えた本作が執拗に鳴らす「美しさ」をどのように受け取るべきなのか? 自棄のなかに美しさを見出すべきなのだろうか?

アルバムは前半と後半で大きく二分される。冒頭の “放銃” はまるでドラマの幕開けのように鳴り響き、続く ”獣たち” のコーラス (ゲストを迎えて収録された) は、孤独さと、孤独なる人がひとりではなく多数おりその共感の輪さえ存在し得ることの恐ろしさを表現しているかに感じられる。“再放送” と “発光” では事件の余韻のような高揚と沈滞が描かれ、不穏で陰鬱な前半は閉じられる。

後半の幕開けとなる “長い夢” は、このアルバムのハイライトだ。「極限まで歪ませた」マツヤマの胸を抉るベースは「傷」を音響化するかのようだ。夢の中のようなギターと浮遊するリズムのなか、泰然とした歌メロが響く。続く “アドレセンス” と “wrong song” ではJ-POP的な美しさが強く立ち上がる。叙情的なリリック、サウンドの優しさ、歌やギターの色気、情緒性への敬愛が確かなかたちで息づいている。J-POPを好きでよかった、と思わせてくれる音楽だ。

そうして魅力と魅力が畳み掛けられていった先で主題に沿うよう悲観的な結末を迎えるかと思いきや、最後に奏でられるのは “東京(2025)” だ。colormalの初作品『DAY/NIGHT E.P.』や1stアルバム『merkmal』に収録されていた楽曲の、現バンド編成での再録。ドラマの終焉ではなく、ふとまた元の居場所に戻るような感覚を与える。ただしそれは正確には「元の場所」ではない。バンドという環境を得て始まった、新たな「夢みる季節」がそこにある。

「無敵の人」という概念をcolormalの文脈で読み替えるなら、それは「諦観」となるのだろう。そして、諦めることの先にあるのは、自暴ではなく、思いがけず現れる美しさや、過去・他者とのつながりに見出される価値かもしれない。そうした「抵抗」をポップスというかたちで提示する──それこそがこのアルバムの試みではないだろうか。

colormalの活動が始まって今年で10年、バンドになって5年。決して順風満帆全速疾走とは言えないのかもしれない。が、このように自分たちの魅力を確かなかたちにできるアーティストは、そうそういない。この美しく希望に満ちた作品に、心からの敬意と感謝を捧げたい。

リリース情報

colormal『夜に交じる人たち』

リリース日 : 2025年7月16日
レーベル : Oaiko
品番 : OAIKO-0008

PROFILE

colormal

大阪を中心に活動する4人組バンド。2015年4月にイエナガ (Gt.Vo.) の宅録ソロユニットとして活動を開始。2021年より、やささく。(Gt.)、マツヤマ (Ba.)、田井中 (Dr.) を迎えたバンド体制となる。これまでに3作のEPをリリースし、精力的なライヴ活動を行っている。2023年5月にリリースした2nd mini album『diode』はディスクユニオンの週間チャート一位を飾り、君島大空トリオ・笹川真生を迎えて開催した東阪リリースイベントも盛況に終わる。2024年6月には東京・下北沢近道にてキャリア2度目の単独公演を敢行、ソールドアウトとなる。Gt.Vo.のイエナガは声優・上田麗奈の音源に参加・ベルマインツの楽曲をプロデュースするなどギタリスト・編曲家としても活動の幅を広げている。

X : @colormal
Instagram : @colormal.band
YouTube : @colormal

DISCOGRAPHY

2023年5月リリースの3rd EP。OTOTOY購入特典として歌詞カードを同梱

2022年8月リリースの2nd EP。OTOTOY購入特典として歌詞カードとライヴ使用機材解説を同梱

2021年7月リリース。バンドになって初のEP

まさにメルクマールとなったソロユニット時代の傑作ミニ・アルバム。2018年1月リリース。サブスクでは聴けない “最後の演出” は今はここでのみ入手可能

ファーストEP。2017年5月リリース

インタビュー

colormal、初のバンドメンバー全員インタビュー (2022年9月)

やりたいことが増えて満足してないです──バンドになったcolormalが目指す色彩と普遍

colormalソロ・ユニット時代のインタビュー (2020年6月)

宅録とバンド、両岸を軽やかに渡り歩く喜びを分かち合う、colormal

この記事の筆者
高田 敏弘 (takadat)

Director。東京都出身。技術担当。編集部では “音楽好き目線・ファン目線を忘れない” 担当。

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