REVIEWS : 037 ジャズ(2021年11月)──柳樂光隆(Jazz The New Chapter)

毎回それぞれのジャンルに特化したライターがこの数ヶ月で「コレ」と思った9作品+αを紹介するコーナー。今回はアップデーテッドなジャズ+αに切り混む、好評シリーズ“Jazz The New Chapter”の監修を手がける音楽批評家、柳樂光隆による、なんと年末スペシャルな大ボリュームな14枚。
OTOTOY REVIEWS 037
『ジャズ(2021年11月)』
文 : 柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
Kurt Elling 『SuperBlue』
グラミー賞の常連、現代最高の男性ジャズ・ヴォーカリストのひとりカート・エリング、前作のリリースからUKのレーベル〈Edition〉に移籍。移籍後2作目はヴィンテージなサウンドのジャズ・ファンク・サウンドで人気のブッチャー・ブラウンのDJハリソン&コーリー・フォンヴィルに、ディアンジェロ『Voodoo』への参加でも知られるジャム系変態ギタリストのチャーリー・ハンターのベースレス・トリオのファンキーなサウンドをバックに歌うファンキー・インプロ・ジャム。〈ストーンズ・スロウ〉と契約中のビートメイカーでもあるDJハリソンの鍵盤奏者としての実力をたっぷり堪能できる上に、ドラムはクリスチャン・スコットのバンドでもお馴染みのコーリー・フォンヴィルで、そこにチャーリー・ハンターが加わるだけで予測不可能で、そこに超技巧派のカート・エリングがここぞとばかりに即興やスキャットを炸裂させるすさまじさ。しかも、ベースラインをDJハリソンとチャーリー・ハンターが曲によってスイッチするというフレキシブルな作りで終始スリリング。ジャズ・ヴォーカリストは即興演奏者であるということを鮮やかに示す快作。それにしてもカート・エリングはどんなサウンドでもアメリカン・ショウビズ感を失わないハードボイルド&ゴージャスさがタイムレスで最高ですね。
Melanie Charles 『Y'all Don't (Really) Care About Black Women』
メラニー・チャールズはマーカス・ストリックランド『People Of The Sun』、カッサ・オーバーオール『I Think I'm Good』をはじめ、今年はMach Hommy『Pray for Haiti』にも起用されていた新鋭のヴォーカリスト。彼女が名門〈ヴァーヴ〉の過去音源をリミックスするプロジェクトの1作目に抜擢された。かなり大胆にリミックスが施されているが、過去のサウンドの質感と共存するような意識が強く感じられるのは今年、マカヤ・マクレイヴンが〈ブルーノート〉の音源をリミックスしたのと同じで、このあたりは時代性なのかもしれない。1950〜60年代のジャズのヴィンテージな質感だけでなく、エレガンスも上手く使いながら、再構築しているのが聴きどころ。その中でダイナ・ワシントン、サラ・ヴォ―ン、マリーナ・ショウ、ベティ・カーター、エラ・フィッツジェラルドらの声も歌をそのまま使ったり、声ネタ的にサンプルしたり、かなり大胆でもある。全体的にはかなり尖った作りになっているにもかかわらず、どこかオーガニックな感覚でさらっと聴けちゃうのはメラニーのヴォーカルにジャズの歴史がしっかり入っていて、全編でタイムレスな歌がずっと聴こえるから、かもしれない。タイトルや選曲からわかるようにBLM的なメッセージが入っているので、その意味を読み解くのも聴き方のひとつかと。
V.A. 『A Gift to Pops : The Woderful World of Louis Armstrong All Stars』
〈ヴァーヴ〉の企画ものを続けてもうひとつ。今年はルイ・アームストロングの生誕120年、没後50年ということで、トリビュート盤が出ました。共同プロデューサーのワイクリフ・ゴードンの指揮の下、ニコラス・ペイトン、レジナルド・ヴィール、ハーリン・ライリーといったストレートアヘッド系を中心にトップ・プレイヤーが集まり、サッチモゆかりの曲を演奏する楽しいアルバムなんだけど、スペシャル・ゲストとして、ウィントン・マルサリスとやコモンも参加したちょっと豪華なアルバム。いちいち演奏がいいのと、演奏のディテールまでこだわっているので、今のミュージシャンの巧さはありつつ、ノスタルジックなムードを醸すことも忘れない塩梅が絶妙です。例えば、「St Louis Blues」や「Swing That Music」のリズムなど、ところどころで現代的なエッセンスも入れているんだけど、それがきちんと他の曲に中で浮かないような配慮が施されているのでトータルのアルバムとして聴けるのもいい。そして、その上で様々な時代のスタイルのジャズやゴスペルやソウルやラップまで入っている幅の広さも素晴らしい。DJやっている人的にはジャンルをまたぐときのブリッジみたいな曲が見つかるかなとも思います。