2025/07/04 18:00

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.332 何しに来たんだっけ?

OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)


何しに来たんだっけ?

ついこないだ仕事で初めてお会いした方が、たまたま歳が近くて、住んでる最寄駅も同じだった。色々話していくうちに、お互いが通っていた大学の最寄り駅も同じで同時期に近所に住んでいたことまで判明する。当時どこのお店によく通っていたかとか、最近久しぶりに行ってみたら街並みがすっかり変わっていた話とか、思いがけず話すことがたくさんで大変だった。その人は私が前職で働いていたお店にも来たことがあったそうで、その周辺でも共通の知り合いが何人かいたり……。「世間はせまい」とはよくいうけれど、こんなにも実感したのは初めてだった。その方は伊集院光さんが好きと話していて、好きになるきっかけとなったエピソードも、とてもとても素敵だった。

数日前、電車の乗り換えで渋谷駅の構内をぼーっと歩いていたとき、前を歩く女性のTシャツの背中に「東京、何しに来たんだっけ?」と書かれているのが目に入った。何かのバンドかグループのグッズのようだったけど、地方から出てきたまま東京に居続けている人はきっと一度はどこかのタイミングでこの問いにぶつかるときがあると思う。かくいう私もそのうちのひとりで、2年ほど前には地元に戻ろうかと考えたことがあった。その結果、「今ここにいるんだから、いる」というあいまいな答えのまま今も東京で暮らしている。でもそれでいい気がする。居続けたかったらそうすればいいし、居場所じゃないと感じたなら別のところへ移ってもいいし、わからなかったらそのまま考え続けたって構わない。地元を出る衝動こそ大きなものだったけど、そのあとの正解のゴール地点はある必要はない。出発とゴールが必ずしも一直線になくたっていい。思った通りにいくことのほうが難しいんだから。

ということをここ1、2週間でぼんやりと思うなどしていた。初めて会った人との会話が、上京したてのころの暮らしを久しぶりに思い出させてくれた。あのころライブに通っていたミュージシャンの曲でプレイリストを組んでみたりもした。意味を見つけようとするのは人間の習性だけど、それでも、こないだの素敵な出会いがあったのはいま私がここにいるからだとは本気で思う。

この記事の筆者
石川 幸穂

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