REVIEWS : 039 ポップ・ミュージック(2021年12月)──高岡洋詞

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜から9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による大ボリューム15枚。ベテラン・バンドからSSW、俳優としても活躍するアーティストの音楽作品などなど、さまざまな現在進行形のポップ・ミュージック作品をセレクト&レヴューでお届けします。
OTOTOY REVIEWS 039
『ポップ・ミュージック(2021年12月)』
文 : 高岡洋詞
kiki vivi lily 『Tasty』
2015年にkiki vivi lilyと名乗り始めて以来、特にEpistrophと組んで以降のリリースはペースもクォリティもすごい。メジャー初フル・アルバム(リリースは第2弾)となる本作は「食」でふんわり括れる7曲+インタールード×2で、荒田洸とMELRAWの仕切りのもと信頼し合う仲間たちと楽しみながら作業した現場のアットホームな空気が伝わってくる。Shin Sakiuraとのコラボ(“Yum Yum”)、レゲエ(“You Were Mine)、バック・バンドとの録音(“Lazy”)、ピアノ弾き語り(“Onion Soup”)と、初の試みもきわめてしっくりとナチュラル。どんな作り方でも高値安定のメロディと歌声にほれぼれする。
butaji 『RIGHT TIME』
『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌 “Presence” の歌パートを作った(STUTSと共作)ことで俄然、名を挙げたシンガー・ソングライターの3年ぶり3作め。前作『告白』のパーソナルな感触とは対照的に、tofubeats、STUTS、石橋英子、壱タカシ、ジム・オルークなど多くの人々の協力を得て、色彩豊かなサウンドがめいめいに光を放っている。メロディは冴えわたり、他者との関わりや変化を恐れない歌詞も、歌声のパワーとあいまって開放感いっぱい。これほど力強い「君を愛している」(“中央線”)を僕はあまり知らない。手垢のついた言い回しも、歌われ方ひとつで真価を発揮できるのだ。
折坂悠太 『心理』
『RIGHT TIME』に収録された折坂とbutajiの共作曲 “トーチ” は本作で折坂も歌っている。コロナ禍でいったん制作中断を強いられたというが、「折坂悠太と重奏」の面々とのセッション感の強さにその逸話も合点がいく。ジャズ(“悪魔” “鯱” “炎”)にフォーク・ロック(“윤슬”)、歌謡曲(“星屑”)、 ルンバ・ロック(“心”)やアフロビート(“荼毘”)など音のスケールは圧倒的。そして折坂の、古風というより日本文化の古層と共鳴するような歌と声の鋭さと温かみ。米ナンサッチあたりからリリースされていても不思議じゃない。『RIGHT TIME』と対をなす、2021年日本の音楽的想像力の頂点みたいな傑作だ。