REVIEWS : 026 ポップ・ミュージック(2021年6月)──高岡洋詞

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(たいたい3ヶ月ぐらいあのターム)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による9枚+1枚な10枚。エッジの効いたバンド、ラップ、SSWとさまざまなスタイルの現在進行形のポップ・ミュージックをテーマにセレクト&レヴュー。
OTOTOY REVIEWS 026
『ポップ・ミュージック(2021年7月)』
文 : 高岡洋詞
mekakushe 『光みたいにすすみたい』
エレピをポロポロと弾きながら切々と歌っていた「ヒロネちゃん」(術ノ穴時代)のイメージで聴き始めたため大きな変化に驚いたが、後追いで空白を埋めていくと着実に成長してきての現在だとわかった。メロディの引力が半端ないし、それを奏でる飾り気のない歌声も、クラシックがベースにあると思われるピアノもすばらしい。現代音楽、エレクトロニカ、ポスト・ロック、往年の歌謡曲など音楽性の幅も広く、これには野澤翔太のアレンジも大いに貢献しているのだろう。“わたし、フィクション”のアニソンっぽい軽快さから“空中合唱”の聖歌のような重厚さへの流れが特に鮮烈。バラード“余映”のスケールの大きな情感に打たれ、もう一度頭から聴きたくなる。
向井太一 『COLORLESS』
4〜5年前にたまたまライヴを見たときの衝撃をよく覚えている。デビュー当時はオルタナティヴR&Bと謳われ、僕も聴いて納得した記憶があるが、加速度的に自由度を増していき、いまやジャンル無用の存在になった。CELSIOR COUPE、grooveman Spot、mabanuaらおなじみの面々に加え、百田留衣、T.Kura & michico、SONPUBといった錚々たるプロデューサーたちとの曲ごとにタッグを組んで、堂々たる彼流のポップ・ミュージックを聴かせる。“BABY CAKES”の色気、“Get Loud”と“Don't Lie”の動静のギャップ、アリーナ級パワー・バラードたる表題曲など、ビビッとくる瞬間がいっぱいだ。Colorlessとは偏りを排して音楽と対峙する心の無垢さの謂だろうか。
CHAI 『WINK』
デビュー時はプレイフルなファンク・バンドという趣だったが、リリースを重ねるごとに落ち着きを増してアダルトな雰囲気が備わってきた。この3rdアルバムではさらにエレクトロニック色を強め、Mndsgnをフィーチャーした“IN PINK”を筆頭に堂々たるメロウネスを打ち出している。メッセージも音楽性も成長著しく、ほくろを再評価した“チョコチップかもね”など以前と同じテーマでも調理法は大違い。コーラス・グループ感のある“Wish Upon a Star”も新鮮で、「幼くありたい。自由だから」と公言してきた彼女たちがキーを下げて等身大の感情と思考を歌う姿に感無量。リリックの大部分を英語詞が占めることもあり、いよいよ「世界のCHAI」になった観がある。