REVIEWS : 065 クラシック~現代音楽、そしてその周辺 (2023年9月)──八木皓平

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューするコーナーです。今回は八木皓平の、前回好評だった「クラシック~現代音楽、そしてその周辺」。このテーマの下に、ここ数ヶ月の新譜のなかからエッセンシャルな作品を9枚レヴューします。
OTOTOY REVIEWS 065
『クラシック~現代音楽、そしてその周辺 (2023年9月)』
文 : 八木皓平
Roomful of Teeth / Rough Magic
LABEL : New Amsterdam
世界で最も革新的なヴォーカル・アンサンブルのひとつであるルームフル・オブ・ティースの最新作は、4人の作曲家を軸にして構成されている。この連載ではおなじみのレーベル〈ニュー・アムステルダム〉の共同設立者のウィリアム・ブリトル、アメリカ現代音楽の大家であり、ロバート・ラウシェンバーグ賞をはじめ様々な賞を受賞し、多面的な作曲活動で知られるイヴ・ベグラリアン、ルームフル・オブ・ティースのメンバーにして、カニエ・ウェストやザ・ナショナルとのコラボも展開しているキャロライン・ショウ、そして91年生まれの若手で、ニューヨーク・タイムズ紙に「注目すべき作曲家」と評され、そのユニークな作曲が注目を集めるピーター・S・シン。この4人がそれぞれ楽曲を手掛けており、どれも特筆すべき成果を挙げているのだが、ここで特に注目したいのはウィリアム・ブリトルの楽曲だ。シンセサイザーのデジタルでゴージャスな響きと多彩なヴォーカル・パフォーマンスが奇跡的な融合を見せており、ヴォーカル・アンサンブルの新たな地平を切り開く、画期的な作曲がここにある。
Matthew Herbert, London Contemporary Orchestra
LABEL : Modern Recordings
マシュー・ハーバートのソロ名義でのプロジェクトの中で最高傑作ともいうべき作品だと思う。本作はアルバム・タイトルにもあるように「馬」を巡るプロジェクトであり、楽器に馬の骨や毛を使って作成し、馬の生態のフィールド・レコーディングを楽曲に用いている。共演するのは前回の連載でも紹介したロンドン・コンテンポラリー・オーケストラだ。彼らは最近ではシガー・ロスの10年ぶりの新作でも共演し、ジャンルを越えたその活動はますます注目を集めている。さらに本作にはシャバカ・ハッチングスやテオン・クロス、エヴァン・パーカー等といったジャズ勢も参加しており、本作に彩りを添えている。そういった面々により、クラシック、ジャズ、フォーク、テクノといった様々な要素が混然一体となりひとつの世界観を創り出しているのが本作の音楽的特徴だ。コンセプトに溺れることなく、音楽的な新規性と快楽を追及するマシュー・ハーバートの思想が見事に結実した、今年屈指のアルバムと言えるだろう。
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Wild Up / Julius Eastman Vol 3: If You’re So Smart, Why Aren’t You Rich?
LABEL : New Amsterdam
ジュリアス・イーストマンの再評価が近年高まっていることについては前回の本連載記事でも触れたが、その再評価の中心軸となるようなアンソロジーの三作目が本作。アンサンブルのワイルド・アップによる演奏が冴えわたっていることに加え、さらに本作にはブラッド・オレンジことデヴォンテ・ハインズ(彼は以前からこの曲のカヴァーを弾いていることが知られている)とピアニストのアダム・テンドラーが客演している。この二人が演奏する絶え間ないピアノのトリルからはじまり、ワイルド・アップのオーケストレーションが重ねられてゆく「Evil N-----」が本作の目玉といえるだろう。ミニマル・ミュージック的なフォルムを活用しながらも、ライヒやグラス的なそれとは大きく違う、獰猛でワイルドな展開は鳥肌モノだ。音階が奇妙に上昇/下降しながら展開してゆく「If You’re So Smart, Why Aren’t You Rich?」のダイナミズムや、不気味なヴォイス・パフォーマンスや足踏み、拍手、不穏なストリングスの音色が絶妙に呼応しあう「The Moon’s Silent Modulation」の鬼才というほかない作曲も驚嘆に値する。