“二刀流”を掲げるDortmund Moon Slidersが示す、自然な営みとしてのバンド活動──「好きなことをするのに、年齢制限はない」

Dortmund Moon Sliders(以下、DMS)が2025年2月にリリースしたセカンド・アルバム『Loading…』は、フェニックスやThe Killers、フィッシュマンズなど、数多くのリファレンスが反映され、粒揃いの10曲が詰め込められた作品だ。
メンバー全員が稼業を持ちながら活動しているDMSの強みは、仕事での経験や刺激をバンド活動にフィードバックできる点にあるだろう。実際、今回のインタヴューに応じてくれたPETAS(Vo./Gt.)は、映像の仕事で立ち会った佐藤健のナレーションから着想を得て、自身の歌唱方法を変化させてきたという。固定観念にとらわれず、独自の道を歩むDMSの魅力へと迫る。
【ブックレット特典付き】“ライヴ映えする曲”をテーマに制作された、粒揃いのセカンド・アルバム
INTERVIEW : PETAS(Dortmund Moon Sliders)

メンバー全員が一般企業に勤めながら、音楽活動を両立させている「二刀流」4人組クリエイティヴ・チーム、Dortmund Moon Sliders(以下DMS)がセカンド・アルバム『Loading…』を2025年2月に発表した。
海外のインディー・バンドのサウンドを敏感に取り入れながら、あくまで日本のポップ・ミュージックとしてアウトプットされた歌心とアレンジには、クレバーでしたたかな印象を持っていた。本作ではそこにバンドとしてのダイナミズムが加わり、サウンドもカラフルになった。言うなればシングル10曲を詰め込んだような強力な2作目。そんな評価を持って、取材に臨んだ。
しかしヴォーカル・ギターと大部分のソングライティングを担当しているPETASによると、迷い悩みながら2年10か月におよぶ試行錯誤の末に生まれたそうだ。
4月18日には渋谷Spotify O-nestでPablo HaikuとDeep Sea Diving Clubを迎えたレコ発イベントの開催を控えているこのタイミングで、本作までの道程とポップに変化していくDMSの活動指針について、PETASにじっくり話を聴いた。
取材・文 : 峯大貴
撮影 : 作永裕範
スランプから脱してたどり着いたのは“ライヴで映える曲”
──アルバムとしては2年10か月ぶりとなりますが、PETASさんにとってどんな期間でしたか?
PETAS:かなり時間がかかってしまったなという体感です。2022年5月に前作『Life Is Beatiful』を出してからそんなに間をあけず次の制作に着手したんですが、思うような曲ができず。結果、2023年は1曲もリリースがなかった。新しい曲ができないとバンド活動全体が停滞している感じになって、ライヴの方もなかなかドライブがかからない。苦しい時期はありましたね。
──DMSのほとんどのソングライティングを担っているPETASさんですが、曲作りがスランプに陥った要因があるのでしょうか?
PETAS:理由はシンプルで、メンバー全員フルタイムで仕事をしているんですけど、JIPON(Ba./Syn.)が転職して、僕は仕事の方がどんどん忙しくなったんですよね。僕は普段は映像関係の仕事をしていて、かなり仕事を頑張っていた期間だったんですけど、その分、曲作りが疎かになってしまっていた。どうにかできた新曲も打ち込みでとにかく手数の多いレディオヘッドみたいなサウンドで、メンバーに聴かせては「このバンドでやるような曲じゃなくない?」という空気が漂ってボツになる。そしたらまたメンバーは待ちの状態になり、僕はなかなか時間が取れないという悪循環でしたね。
──ちなみに本作でも最後を飾っている「Compass」は『Life Is Beatiful』の後の2022年10月にシングルで配信されています。前作とスランプの狭間の期間とお見受けしましたが、どんなモードでしたか?
PETAS:今思えばスランプの入り口が迫っていた感じがします。この時、僕は時流に合った曲、もっと大衆に向けた曲を作ろうという意識を持って「Compass」が生まれたんですが、以降はドツボにハマってしまった。今思えばこれもなかなか曲が出来なくなった理由の一つだと思います。今回アルバムに入れるにあたっては、他の曲とトーンが合うように、生の楽器のサウンドが際立つようなアレンジで再録しました。
──当時、時流に合わせた曲作りをしようと思った理由は?
PETAS:やっぱり仕事をしながらバンドをやっているので、なぜこの活動をやっているのかちゃんと意義を見出したい。元々仲の良い友達4人で始めたことですから、週末にちょこちょこスタジオ入って、たまにライヴハウスに出るみたいな活動だったら全然できちゃうんです。仕事に支障なく、カロリー低く、ストレスなく。
でもこのバンドはそんな「余暇的」なものではない。メンバーだけではない色んな方に手伝ってもらったり、お金も発生しているからこそ、聴いてもらえる人が増えたり、今より大きなステージに立ったり、自分たちの憧れのアーティストとも共演出来たり、ちゃんと成果を出していかないと続ける意味がないと思っているんです。そんな考えを曲作りでも意識していこうと思っちゃったんです。

──どういう音楽性やテーマの曲を作るかではなく、成果を意識したことで曲が生まれなくなったと。
PETAS:そうですね。前作以降の新しい方向性を探る中で色々迷っていたんだと思います。
──そんな迷いの時期を脱したのはどんなタイミングでしたか?
PETAS:本当にこのままだとヤバいと思ったきっかけは、2024年4月に渋谷のSpotify O-nest主催のライヴ・イベントで。共演するバンドがみんな次のトピックとなるライヴやリリースが決まっている中で、僕たちはただお誘いいただいて単発のライヴをしに行っただけ。この手ぶらな状態がいたたまれくなって。これはそもそも仕事をしながらやるというテーマの活動なので、仕事を理由にしちゃダメだと思って、また本気で曲作りに向き合い始めたんです。
──新たな気持ちを持って曲作りに向かう上で、方向性はどこに見出しましたか?
PETAS:この日の反省もあって、まずライヴで映える曲を作りたいというのはありました。僕たちの活動はコロナ禍に始まったこともあって、前作まではライヴでやることをあまり見据えていない、スタジオ・ワークで作られたものが多かったんです。だから次はより有機的に、全員で音を合わせながらアレンジを考えたり、リズム重視で作っていくと、徐々に曲が生まれるようになりました。
──その中でアルバムとしての全体像が見えてきたのはどの段階でしたか?
PETAS:それで言えば最後にできたのが1曲目の「Climber」だったんですが、それまではずっともう一つ何かが足りてなくて、バチっとはまるピースを探しているような感覚がありましたね。
──今回のアルバムタイトル『Loading…』も「Climber」の歌詞から引用されています。この曲に求めていたのはどんなところですか?
PETAS:それまでの曲と比べるとテンポも速いし、スケールの大きなロック・サウンドでMARUくんのギターもしっかり映える。もう1曲突き抜けたものが欲しいと思っていたので、これが生まれたときには本当に安心しました。