2024/05/29 15:00

孤独と痛みを共有した先でなにを歌うか──リアクション ザ ブッタがつかんだ希望の指針

リアクション ザ ブッタ [ 木田健太郎(Gt./Cho.)、佐々木直人(Ba./Vo.)、大野宏二朗(Dr.) ]

結成17年目にして初のメジャー・リリースを決めたリアクション ザ ブッタ。記念すべき初のメジャー作品は、これまでのバンドの軌跡を辿ることのできるベスト・アルバムだ。なす術なく感情をかき乱してくる恋愛というものを、持ちうるすべてを震わせて享受している。そして生きている、ドラマチックに。初めてリアクション ザ ブッタの楽曲を聴いたときにそういった印象を持った。そんな彼らの楽曲がある時から変化していく。歌詞で描かれる視点が内から外へとひらいていったのだ。なにが彼らを変えたのだろう。インタヴューが進むにつれて、まっすぐに音楽を続けてきたからこそたどり着いた、ひとつのバンドの姿がくっきりと浮かびあがってきた。(編)

リアクション ザ ブッタの17年間が結晶となったベスト・アルバム


INTERVIEW : リアクション ザ ブッタ


リアクション ザ ブッタがベスト・アルバム『REACTION THE BEST』を5月29日にリリースした。東名阪ワンマンツアーのファイナル、メンバーにとって悲願だった渋谷CLUB QUATTROのステージで、ソニー・ミュージック内のレーベル〈SACRA MUSIC〉からのリリースが発表された今作。愚直にやってきたバンドの活動がひとつ報われた瞬間に立ち会ったファンは、胸を熱くさせていたに違いない。バンドの歴史を何よりも雄弁に語る楽曲集について、メンバー3人に話を訊いた。

取材・文:蜂須賀ちなみ
写真:大橋祐希

縁あるレーベルと出会い、頼れる仲間が増えた

──3月17日の渋谷CLUB QUATTRO公演で、〈SACRA MUSIC〉からベスト・アルバムをリリースすると発表したんですよね。その時のことを改めて伺えますか?

佐々木直人(Ba./Vo.):本編が終わったあとにアンコールをいただいて、1曲やってから「みなさんに言いたいことがあります」と発表したんですけども、途中「ソニー・ミュージックレーベルズ内の……」と言った辺りからお客さんが「えっ? 来た?」という感じになって。みんな「おめでとう!」とたくさん言ってくれて、浴びたことがないくらいの拍手をくれました。僕はわりと涙もろい方なんですけど、宏二朗もね、ホロリときていて。

大野宏二朗(Dr.):込み上げてくるものがあって、自分でもびっくりしました。正直「みんな喜んでくれるかな?」という気持ちもあったんですよ。我々にとってはもちろん嬉しいことだけど、「遠くに行ってしまう」というふうに感じる方もいるだろうから、「はたして一緒に喜んでくれるのかな?」という気持ちがけっこう直前まで……発表する瞬間まであって。だから「あっ、みんなが喜んでる!」と思ったら、湧き上がってくる涙を抑えられず……。

佐々木:男泣きしたと。

大野:いや、後ろを向きましたけどね。涙を見せまいと。

木田健太郎(Gt./Cho.):要するに、後ろ向いて泣いていたってことでしょ?

大野:鼻がツーンとなったので、こうしていました(上を向いて瞬きを繰り返す)。

大野宏二朗(Dr.)

──「泣きました」って意地でも言わないじゃないですか(笑)。

佐々木:(笑)。木田さんは口パクで「ヤバい」って言っていましたね。

木田:言ってたかな? あんまり覚えてないですけど。17年間ずっと気を張っていたんですよ。ちょっといいことがあっても「油断しちゃいけないぞ」というふうに。メジャー・リリースって自分たちにとってはとてつもなくいいことだけど、やっぱり「油断しちゃいけないぞ」はずっと働いていたんですよね。だからライヴ中もずっと気を張っていたし、自分たちだけでは手放しで喜べずにいました。だけど発表して、お客さんの喜んでいる顔や泣き顔を見た時にやっと喜べて。そしたら自然と涙も出てきて。自分の人生にとって一度きりの、すごくいい日でした。

──なぜ「油断しちゃいけないぞ」と思いがちだったんでしょう?

木田:例えば「ドラマのタイアップが決まりました」ということがあっても、バンドの状況が突然めちゃめちゃ良くなることはいままでの経験上ないんですよ。だから「ここで油断していると、次に行けないぞ」「いままで以上に常に頑張っていないと、さらにいい結果は生めないぞ」という意識がずっとあって。

佐々木:それに、この17年間でいろいろなレコード会社の方と会ってきたものの、なかなかご縁がなくて、「今回もダメか」の積み重ねだったので。

──だけど今回〈SACRA MUSIC〉と縁があった。「このレーベルからリリースしたい」と思った決め手はなんだったんですか?

佐々木:圧倒的に人間ですね。いつもライヴに来てくれていたSACRAの担当のおふたりの熱さ。

大野:ライヴにしきりに来てくださったのは大きかったです。

木田:ワンマンだけじゃなくて、対バンとか、イベントにもいらしていただいて。

佐々木:おふたりはリアクション ザ ブッタの楽曲をすごく好きでいてくれているし、「こういうところが好きです」とめちゃくちゃストレートに伝えてくれるんですよ。だからこっちも素直に「なんてありがたいんだ」と思えた。ひとりは僕らより年下ですけど、年下だと全く感じさせないほど頼もしいし、下の世代の人に僕たちの音楽を好きになってもらえたのも嬉しかったし。「この日からメジャーだ」と急に切り替わったわけでなく、SACRAのおふたりと話しているうちにどんどん仲間になっていったんですよ。おふたりがたくさんの人を巻き込んで、僕らの元に連れてきてくれて……頼れる仲間が増えた感覚です。いまは「油断できないぞ」というよりかは、もっと前向きな気持ちでいます。

佐々木直人(Ba./Vo.)

──ベスト・アルバムのリリースを機に、ここから次章が始まります。今後トライしてみたいことはありますか?

佐々木:アニメのタイアップはとりたいですね。僕はアニメをめちゃくちゃ見るんですけど、〈SACRA MUSIC〉のアーティストさんは今期でも前期でもアニメの主題歌をたくさん担当されているじゃないですか。しかも音楽とアニメのいい相乗効果が生まれている作品ばかりなので、やっぱりアニメ好きとしては「ここに入りたいな」と思います。

──アニメのオープニングやエンディングでブッタの曲が聴ける日を楽しみにしています。ちなみに、このタイミングでベスト・アルバムをリリースしようと思ったのは?

佐々木:「ベスト・アルバムはどうですか?」という提案を〈SACRA MUSIC〉さんからいただいて、僕らとしても腑に落ちて。メジャーからのリリースということで、いままで僕らを知らなかった方々に届く可能性がひらけたと思っています。だからこそ「こんな曲があるんだよ」と改めて知ってほしいなと。いままでの曲たちで改めて勝負できるという自信もあったので、僕ら的にも「ベスト・アルバム、いいですね」というふうになりました。

木田:CDを出すのは6年ぶりなんです。昔配信でリリースした曲たちもCDとして形にしたかったというのも、ベスト・アルバムがいいんじゃないかと思った理由のひとつですね。

この記事の編集者
石川 幸穂

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[インタヴュー] リアクション ザ ブッタ

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