削ぎ落とされたものが香って、豊かな表現になるのが「いい音楽」
──“そのあと”はどういった曲になりましたか?
福原:これは悲しいことがあったときに作った曲で、上下する感情を平らにならしていく日常感を表現したかったんです。仕上がった曲を聴くと、自分のパーソナルな気持ちがみんなとの作業によってうまく曲に昇華できている気がします。
いつも作ったあとに「これを世に出してもいいのか?」と悩むんですけど、“そのあと”はそのリミッターが少し緩んだきっかけになりました。自分のパーソナルなものを多分に反映させた曲でも、悠太くんとアイデアを出していけば人が聴くに値するんだという発見があって。自分の感情と曲との折り合いのつけかたが少しわかったような気がします。
──“ATOH”は友人の轟木さんの曲ということでした。
福原:そうです。亜問くんは阿波踊りをやっているんですけど、この曲のニューオリンズ・ビートと阿波踊りの一拍子のリズムは近いところがあるんですよね。このリズム感は亜問くんがいなかったら出なかったと思います。
音楽的には僕らが好きなブレイク・ミルズやピノ・パラディーノを日本人として消化されたような音楽をやりたかったのでそのニュアンスも入れました。
──“You Came a Long Way from St.louis”はカヴァー曲で、細野さんが歌っていますね。
細野:これは、“あなたならどうする?”を音くんが歌うことになった時点で、僕もなにか歌うことに決まっていたんです。
福原:ふたりとも歌いたくないのに、僕だけ恥をかくのはおかしいと。この曲は前からライヴでやっていて、「You Came a Long Way~」を「湯煙の街角で」と空耳して、温泉の歌にして歌っているんです。アルバムに入れるにあたって許諾の都合上、英語の歌詞で歌っています。
──途中からムシ声(録音した声を早回しした高い声)が入ってきますね。
福原:『a one & a two』は自分でも買いたくなるようなアルバムにしたいと思っていたんです。僕はムシ声が入った曲が好きなので、ムシ声を入れたら自分が買うようなレコードが作れるぞと。
細野:今回のアルバムのデザインも担当してくれた岡田さん(岡田崇)がムシ声ラヴァーだったんです。岡田さんがムシ声用のテープ・レコーダーを貸してくれて、録りました。
──すごい。ちゃんとアナログで録ったんですね。
福原:そこはパソコンでやるのは許せなくて。ムシ声研究者の岡田さんの目はごまかせないですし。

──“あなたならどうする?”では、小山田米呂さんや功刀源さん(Ålborg)が参加されていますね。
福原:米呂のスタイル的にシャッポは合わないと思っていたんですけど、サポート・ギターが必要になったときにやっぱり仲良い友達にお願いしたかったんですよね。それで米呂に声掛けたら献身的にやってくれました。音楽以外でも、僕が一人暮らしで旬の野菜を普段あまり食べれていないんじゃないかと、タケノコを揚げて持ってきてくれたり(笑)。
功刀くんは、僕がÅlborgのアルバム・レコーディングに通っていたときに「この人はプレイにもっと幅のある人なんだろうな」と気になっていて、今回誘いました。
細野:ふたりとも人柄もいいよね。
──歌詞ではどんなことが書かれているのでしょうか。
福原:港や舟というのは、一旦自分の中で作った後に、ライヴで演奏するにあたって2番以降の歌詞を少し変えることになり、神戸でのライヴへ向かっているときに悠太くんにお題を求めたんです。そしたら「僕は港が好きだし、ちょうど今港町に向かってるから“港”で」と返ってきて、それをモチーフにしました。
いい音楽というのは、制作の過程で選ばれなかったアイデアや削ぎ落とされたものが香ってくることで、豊かな表現になっていると思っていて。僕らはいろんな回り道をしているけど、回り道で捨てた様々な要素が音から匂って、聴く人に伝わってくれたらいいなという気持ちを歌詞にしました。
──なるほど。“スタンダード”はどうやって完成させましたか?
細野:これは音くんが人生ではじめて作った曲で、地下時代からずっといろんなヴァージョンを試しつつもどうもうまくいかなくて。サポートで参加してくれた人たちのおかげで今回いい具合にまとまりました。
福原:レコーディングの直前に構成を改めてインスト用に考えて、時間がなくて。その場で出たアイデアを採用するしかなかったんです。時間がなかったからこそ、火事場の馬鹿力が効きました。この曲はすごくカクバリズムの系譜を感じさせる曲だと思うんですけど、この曲にとっていちばんいい表現であるならそれでいいと思えたんですよね。

──最後の“Love’s Old Sweet Song”のクレジットには細野晴臣さんの名前が載っていますね。なにで参加されたんですか?
福原:曲の最後に「Love’s Old Sweet Song」と歌ってもらいました。この曲は1884年にアイルランド民謡として作られた曲で、レコードができた最初期に録音された歴史のある曲なんです。僕は高校生の頃、自分でアルバムを出すなら「Love’ s Old Sweet Song」を最後に入れたいと思っていて。
結果的に今までの自分たちを振り返るようなファースト・アルバムになったので、細野さんに歌ってもらえてよかったです。「もっと一曲ちゃんと歌いたかった」と言われましたが(笑)。
──今後、シャッポとしてどういう活動をしてきたいと思っていますか?
福原:変なことを変なまま、たくさんの人に知らせたいですね。それはシャッポをはじめたときから思っています。
細野:昔の音楽を紹介する感じで、現代に溶け込めたらいいよね。
福原:うん。小さい子供が知らないうちに1940年代の音楽のエッセンスに触れているようなことができたらいいですね。
今回のアルバムでは、ある程度外れても結局はシャッポの音になるという発見がありました。僕ひとりで作るよりも、雑食なシャッポはもっとおもしろくなっていきます!

編集 : 石川幸穂
友人も多く参加し、シャッポの雑食性が存分に引き出されたファースト・アルバム!
フォトギャラリー
撮影 : 大橋祐希
ライヴ情報
『a one & a two』リリース・ツアー
2025年5月19日(月)
福岡県・福岡 UTERO
OPEN 18:00 / START 19:00
2025年6月2日(月)
東京都・代官山 晴れたら空に豆まいて
OPEN 18:30 / START 19:30
2025年6月13日(金)
石川県・金沢 もっきりや
OPEN 18:00 / START 18:30
2025年6月14日(土)
京都府・京都 CLUB METRO
OPEN 16:00 / START 17:00
2025年6月15日(日)
愛知県・名古屋 K.D ハポン -空き地-
OPEN 16:30 / START 17:00
PROFILE : シャッポ
福原音(Gt. / etc.)
細野悠太(Ba. / etc.)
2019年結成のインストゥルメンタル・バンド。
メンバーは福原音(Gt,etc.)、細野悠太(Ba,etc.)。ともに2000年生まれ。
結成後は日々、練習・デモや映像音楽の制作に励む。持ち前のものぐさな性分から長い地下生活を送るも、2023年春より地上へ顔を出し始め、10月にはライブ活動も開始。ライブではどちらかが歌ったりもする。そして2023年12月13日、ファースト・シングル「ふきだし」をカクバリズムより7インチ・配信リリース。1940年代の大衆音楽や映画音楽にルーツを持ちつつも、音楽にとどまらぬ様々な要素をストレンジな感覚で自らの音楽に落とし込む。行き先不明の珍道中を突き進む2人組。
■シャッポ X : @Chappo_356
■シャッポ Instagram : @chappo_otyt
■福原音 Instagram : @boku_oto_fukuhara
■細野悠太 Instagram : @yuta_hyper