街にいたほうが人の痛みに触れられる
──なるほど。8曲目の“燈”はいかがでしょう。
この曲は海ではなく火について歌っています。写真家の井出情児さんという、ロック・レジェンドたちをずっと撮ってきている人がいるんですが、井出さんの家の暖炉掃除を僕と知り合いとで一緒にしたことがあって。一晩泊まって暖炉の火を眺めながら一緒にお酒を飲んだんです。井出さんはロック・シーンを切り取る仕事を続けながら、この歳まで毎日火を絶やさずに暮らしてきたんですよね。暖炉の火が井出さんの命の火のように思えたんです。そのことを歌いました。
──なるほど。“ムカデは死んでも毒を吐く”が今回リアレンジされましたね。
これは14年前くらいに書いた曲なんですけど、歌詞の内容がいまの時代にめっちゃハマるなと思ったんですよね。19歳の自分に嘘をつきたくないから歌いたいけど、アレンジをどうするかを考えていて。ダドガドっていうアコギのチューニングで弾いてたら「これめっちゃマッドチェスターじゃない? 」って盛り上がったんです。前のアレンジはおもちゃ箱をひっくり返した感じだったけど、今回のはサイケ・ロックなおじさんたちのテイストでやれて最高です。
──いまの時代にハマると思ったのはどういうところですか?
嘘つきまくるじゃないですか、大人って。自分も大人だけど、そういう世の中の大人の嘘が嫌になってきて。誰かが歌わなきゃなと思っていたら、14年前の僕が歌ってたんですよ。
──なるほど。アルバム最後の“ZION”はどういう曲でしょうか。
ザイオンはレゲエ用語で神の国や天国という救いの場所として使われるけど、実際には存在しないし誰も行ったことがないですよね。「僕も連れてってくれ」と、ザイオンに行けなかった人の目線です。生きているなかで積んだ徳を天国に持っていけるとして、その過程にいる人間が目指すザイオンを書きたかったんですよ。この曲は“サリンジャー”(『私は月には行かないだろう』2020年)と“ニーチェ”(2022年)の兄弟のような曲ですね。
──『On the shore』で下津さんは海辺のことを歌っているけど、実際に住んでいるのは東京ですよね。
今回は、都会に住む友達や大切な人たちに僕が海辺で知ったことを伝えたかったので、その人たちと同じ目線に立って悩みたかったんです。街にいたほうが人の痛みには触れられるんですよ。歌やフレーズの種はそこにあるんですよね。地方のおっちゃんと新宿のおっちゃんの悩みは全然違うだろうけど、同じ世界に住んでいて。僕らの曲を聴くことによってそこがつながったらなとは思いますね。そのために街にいるのかもしれないです。
──なるほど。
僕は尼崎出身なので街のほうが居心地は良かったりするんですけど、海は街で溜まったものを流すところ。街は戦う場所ですね。
──都会の痛みを歌っているからこそ、僕らも共感ができるんだと思います。
そうですね。僕らが「今年は農作物が不作だ」ってブルースをやり始めたら、ぜんぜん違うバンドになりますね(笑)。

編集 : 石川幸穂
<必聴>現メンバーによる至極のサイケデリックが結実した最新作
ライヴ情報
On the shore release tour〈渚にて〉
2024年9月28日(土) 神奈川 横浜ベイホール
2024年10月4日(金) 広島 広島CLUB QUATTRO
2024年10月6日(日) 香川 高松DIME
2024年10月19日(土) 長野 松本MOLE HALL
2024年10月20日(日) 石川 金沢vanvanV4
2024年10月25日(金) 北海道 札幌PENNY LANE24
2024年10月26日(土) 北海道 旭川CASINO DRIVE
2024年10月31日(木) 熊本 熊本NAVARO
2024年11月1日(金) 福岡 福岡BEAT STATION
2024年11月3日(日) 沖縄 那覇Output
2024年11月4日(月) 沖縄 那覇Output
2024年11月15日(金) 宮城 仙台MACANA
2024年11月22日(金) 愛知 名古屋THE BOTTOM LINE
2024年11月23日(土) 大阪 味園ユニバース
2024年11月30日(土) 東京 恵比寿GARDEN HALL
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PROFILE:踊ってばかりの国

うたと3本のギター、ベース、ドラムで構成された東京で活動する5人組のサイケデリック・ロックンロール・バンド。
幾度かのメンバー・チェンジを挟みながらこれまでに8枚のフル・アルバム、4枚のミニ・アルバムをリリースし、〈FUJI ROCK〉などの大型フェスにも出演。中国でのワンマン・ライヴや日比谷野音でのワンマン・ライヴなどその活動の幅をどんどん広げていっている。
音楽に愛されてしまった5人が奏でる爆音でかつ繊細な楽曲は、古い米国の田舎町や英国の路地裏、日本の四季の美しさをも想起させ、眩しいほどの光で聴くものを包み込む。
これは正しくアップデートされたロックンロールの形。
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