「Dsus4」のコードは明るくも悲しくもない素の自分
──チーム全体で作ったアルバム1曲目の“Universe”。これはどういった曲でしょうか?
僕らのライヴのSEで“ocean (intro)”(『SONGS』2015年)という曲をかけているんですけど、新しいSEを作りたくて。伊豆スタジオでSEを録るという贅沢なことをさせてもらいました。SF映画のオープニングっぽくしたくて、宇宙をイメージしたコード進行でセッションしました。USJとかでアトラクションが始まる前のドキドキ感をサイケに落とし込んだ感じです。“Universe”はUSJからつけた訳ではないですけどね(笑)。
──なるほど(笑)。続いての“兄弟”では、どんなことを歌っていますか?
2023年はバンド友達との死別が多かったんです。OLAibiさんが亡くなったときにマヒト(マヒトゥ・ザ・ピーポー)がすごく落ち込んでいて。その同時期くらいにゆるふわ(ゆるふわギャング)と出会ったんですけど、音楽のジャンルも全然違うのに一緒に遊び出して曲を作って。別れがあるなかで出会いもあって、なんか不思議やなと思ったんですよね。日々力をくれる人たちに自分はなにかできてるのかなと。そういう、いつか曲にして歌いたかったことを歌っています。
──なるほど。
あと、僕は男兄弟がいないんですけど、「ツレのためだったらなんでもできる」とか、「共に生きていこう」とか、バンドにはそういうものを感じていて。亡くなってしまった人たちにも「頑張るから見といてな」と思っているけど、いま自分のまわりにいる友人たちに向けて歌っています。

──2曲目の“H2O”では、どんなことを歌っていますか?
「水がなかったら俺たち死ぬよね」ということを歌っています。蛇口をひねって出てくる水は化学式で整えられたものであって、山の綺麗な水はH2O以外のものが含まれていて味が全然違うんですよ。そういうものを身体に入れていったほうがいいよねと。自然のなかで気づいたことを歌っている象徴的な曲です。
──なるほど。3曲目の“Au te amour”、このタイトルはフランス語ですか?
愛を伝えるポピュラーなフランス語です。丸山さんから「ウォール・オブ・サウンドでトレモロが踏みたい」というリクエストをもらって、「じゃあお得意の大瀧詠一イズムだ! 」ということで作りました。もともとバンドが集まったときのキーワードとして大瀧詠一があったんですよ。海に向かう車中のワクワクした感じを表現しました。
──スライド・ギターが特徴的ですよね。
GODのメンバーでもある濱野伽耶くん(Gateballers)が伊豆スタジオの濱野さんのご子息で、彼がたまたま帰省していたんです。「スライド・ギター弾いてよ」ってお願いして、ハワイアンに仕上げてくれました。
──続いての“サテン”ではどういったことを歌っていますか?
都会に疲れた人が海に行くときに聴いてほしい曲です。海辺って悪いものを流してくれるんですよ。頑張ることは悪いことじゃないけど、頑張りすぎて身体を壊しても意味がないので。
──歌詞の「今夜君の窓辺へ降り注ぐのよ」にはどういった意味が込められていますか。
程度の差はあれど、都会にひとりで暮らしていたら孤独に感じることがあるじゃないですか。孤独な窓辺に希望やあたたかいものが降ってきたら救われるなと思って、そのイメージで書きました。
──タイトル・ソングの“On the shore”はどのように作りましたか?
「On the shore」はサーファー用語で海に入って波待ちしてる状態のことをいうんですけど、小さい頃から「shore」って響きが好きなんですよ。この曲は意外にも冬の日本海で書きました(笑)。新潟のフェスに出たときに泊まった民宿の目の前が海で、僕はずっとそこで過ごして、旅館に戻る頃にはもう曲ができていました。あと、4つ打ちを一度タイキにやってみて欲しくて。この曲がいちばんロック・フォーマットから脱却していますね。
──歌詞に出てくる「Dsus4」はどういったニュアンスでしょうか。
「Dsus4」はギターのコードですけど、明るくもなく悲しくもないような素の自分に近いと思っていて。この曲の裏では使用コードを変えながらsus4のコードを使ってます。
──“ビー玉”はいかがでしょうか。
ドープなジャズをやってみたくて、King Kruleを意識して作りました。“海が鳴ってる”(『Paradise review』2022年)を陽とすると、それと対になる陰の曲です。疲れきったトランペット吹きがカモメに人生をみながら楽器を吹いてるイメージ。“On the shore”と同時期に書いた曲で、寒い冬の雰囲気がありますね。
──「憎しみあう為に生まれたんじゃない」という歌詞も印象的です。
ロック・バンドが人間の愚かさとかそういうことを歌わなくなったら終わりだと思うんですよ。僕はジミヘンの文化や姿勢が好きなので、サイケ・バンドとしての使命を持ちたいと思っています。そういうことを諦めたくなくて歌っているけど、若い子はあまり聴かない曲調かもしれないです。
