「文明の欠伸」の旅で行き着いたのが「人」の存在

──“旅にひとひら”はいかがでしょうか。
paya:「文明」における旅の重要性をテーマにしています。
──歌詞の「文明の欠伸の中」という言い回しが気になりました。
paya:欠伸は僕らの中から出てくるものなので、「欠伸の中」という表現はイメージしにくいと思うんですけど、人間よりも大きい存在である文明が欠伸をしたとすると、僕らはきっとそのなかに包まれてしまいますよね。大きな流れや枠組みのなかにいる僕らを表現するのに、「文明の欠伸の中」という言葉がすごくしっくりきたんです。
──音楽的な聴きどころはどんなところにありますか?
paya:もともとはシンプルな構成だったんですけど、アルバムの制作を進めているうちに曲の途中でグダグダするような長い曲が欲しくなって……。
吉居:この曲はレコーディングとギターテックで山内弘太さんに参加してもらいました。セッションを重ねて大枠が組めたあとに、いろいろ音を足していって、レコーディング時にスタジオにあったいろんなものを使って録った音も入ってます。
paya:曲を聴いただけではわからないんですけど、山内さんが水筒で水を飲む「ゴクッ」って音も入っています。クレジットには「Water bottle」と書きました。
あとは、この曲に砂漠の音を入れることになって、君島大空さんの家に遊びに行ったときにそのことを話したんです。そしたら「一緒に作ろう」と言っていくれて。
吉居:なので「Desert」ってクレジットに入ってます(笑)。
──“座礁(十月)”も、やりたかったことが詰められているように感じました。
paya:これはかなり古い曲で、幽体コミュニケーションズをはじめる前からあるんです。僕は昔からクジラに対する茫漠とした憧れがあって、ずっとそのことを形にしたいと思っていました。クジラから連想を広げていったときに座礁するクジラのイメージが浮かんで、そこから「信仰」というところまで連想がつながったんです。「信仰」というのは特定の宗教というよりも宗教というものへの興味のあらわれですね。
──(十月)というのは?
paya:これは曲を作った当時の自分に聞いてみないとわからないんです。多分作ったのが10月だったのかな。
吉居:唯一、バンドと呼べる編成で録った曲でもあるよね。
paya:アウトロのギターも聴きどころです。
吉居:この曲はベースに宮田あずみさん、ドラムはsenoo rickyさんが参加してくれています。お二人とのバンド・サウンドでの自分の適切な立ち位置を意識してギターを弾きました。ギターを3本くらい重ねていたり、ナイフで弦を擦りながら弾いた音も入っていて、工夫を凝らしました。

──“名前の中に眠る子どもたち”は朗読楽曲ですね。
paya:幽体コミュニケーションズにとって詩は重要な要素なので、朗読曲は作りたいと思っていたんです。
実はこの曲、ミックスが全部終わったあとに追加で作った曲なんです。僕はアルバムは寄せ集めにせず、作品として完成したものにしたかったんです。一般的な印象として、アルバムの後ろのほうの曲は作った人が込めた気持ちがうまく伝わりにくい気がしていて。その改善策としてひとつ毛色の違う曲を置くことで、聴く人の気持ちを一呼吸おくことができると思ったんです。
──サウンド面で工夫したことはありますか?
paya:ストレートに伝わる音にしたくて、モノラルでミックスしました。
──最後の“hito”はどんな曲でしょうか。
paya:アルバムを通して「文明の欠伸」について考えてきて、その終着となる曲です。文化や歴史、科学技術について考える時間もたくさんあって、でも最後にどうしても行き当たるのが「人」の存在だと気づきました。
音楽的には、新しいことをしようとはせずに手癖で作りました。とういうのも、この曲は一時期曲が作れなくなってしまったときにできた曲なんです。いままで自分がどういう風にして曲を作ってきたかを思い出しながら、知ってる道を通って元の場所へ帰るようにして作りました。
──共同制作者には君島大空さんの名前が書かれていますが、どういう関わりかたをされたんですか?
paya:一旦僕たちで曲を完成させたあと、ミックスを誰に頼むか悩みました。この曲は、エンジニアとしての専門的な意見をもらうというよりも、自分たちと同じ目線で話せる人にお願いしたいと思ったんです。そこで、ミュージシャンでもある君島さんにお願いすることにしました。彼は単にミックスを手がけるだけでなく、新たな音を加えてくれるなど、より深く楽曲に関わってくれました。
──吉居さんといししさんは、この曲でどんなことを心がけましたか?
吉居:この曲はアルバムのなかで唯一、僕がアコースティック・ギターを弾いてる曲です。エレキの音も入っているけど、どちらも優しい音像を作ることを心がけました。角がない丸い音を目指して、エフェクターをいろいろ試したり、試行錯誤しました。
いしし:“hito”は特に歌がまっすぐ強く届く曲だと思うので、ユニゾンの温度感の調整を大切にしました。アルバムの最後にふさわしい曲になっていると思います。
──記念すべきファースト・アルバムを経て、これからの幽体コミュニケーションズはどこに向かっていくのでしょう?
paya:今回は僕たちの部屋に散らかっているものをかき集めて形にしたようなアルバムでした。次は部屋の外から何かを取り込むのかもしれないし、逆に中を整理していくのかもしれない。もっと散らかるか、整理されるか、どちらかだと思います。
いしし:どちらへも進めるように準備しておきたいですね。歌や、声で、もっと豊かな表現ができるようになっていきたいと思っています。
吉居:常に新しいものを取り込んで、幽体コミュニケーションズの場で活かせたらと思っています。そしてなにより「これからも一緒にやっていこうね」という気持ちです。
いしし:ほんとうにそうだね。
paya:ふたりともありがとう……!
編集 : 石川幸穂
培ったアイデアを惜しみなく散りばめたファースト・アルバム!
ライヴ情報
『文明の欠伸』リリース記念公演
■東京公演 ※SOLD OUT
2025/6/14(sat) 東京 WWW
open 17:00 / start 18:00
【LIVE】
幽体コミュニケーションズ / 君島大空トリオ
■京都公演
2025/6/28(sat) 京都 UrBANGUILD
open 17:00 / start 18:00
【LIVE】
幽体コミュニケーションズ
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PROFILE : 幽体コミュニケーションズ
2019年に京都で結成された3人組ユニット。フォークやヒップホップ等様々な音楽を圧縮コピーして混線させたチープでストレンジなサウンドの上に、男女混成によるあどけない歌声と四季に呼応する詩世界を同居させている。
結成間も無く『カクバリズムの文化祭』や『りんご音楽祭』、『ボロフェスタ』に出演するなど活躍の場を広げ、2023年には『FUJI ROCK FESTIVAL'23』の「ROOKIE A GO-GO」にも出演。
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