兄貴が「週刊プロレス」、僕が「週刊ゴング」を買って
──音楽はもちろん、プロレス好きとしても知られていますよね。そもそもプロレスを好きになったきっかけって何だったんですか?
Hi-yunk:母が台湾出身なので、僕は幼少期7歳まで台湾に住んでいたんです。台湾ってケーブルテレビの文化があって、24時間プロレスをやってるチャンネルあったんですよ。いとこの家とかに行くと、みんな普通にずっとプロレスを見てるので、物心ついた頃から好き嫌いとかじゃなくて、プロレスを見てるのが当たり前みたいな環境だったんです。そこから日本に来て、新日本プロレス中継の「ワールドプロレスリング」とかを見て、どんどんはまっていった感じです。
──台湾ではやっぱりWWF(現・WWE)を放送していたんですか?
Hi-yunk:それがですね、その頃の台湾ってすごくタイムラグがあって、タイガーマスクとかだったんです(笑)。
──えぇっ!?80年代の日本のプロレスが流れてたんですか?
Hi-yunk:そうなんですよ。話は逸れますけど、24時間のアニメチャンネルもあったんです。それこそ僕は今バンドで、仮面ライダーの主題歌をやらせてもらってるんですけど(BACK-ON × FLOW『仮面ライダーガッチャード』主題歌「CHEMY×STORY」)、台湾では90年とかに、仮面ライダー1号2号とか、V3、アマゾンとかを普通に放送してたんです。アニメも『赤胴鈴之助』とか『もーれつア太郎』とかをやってましたから。だから僕、いまだに『赤胴鈴之助』の主題歌を歌えますもん(笑)。でも逆に、日本でリアルタイムでやってた『まじかる タルるートくん』とかは見れなくて。そういうタイムラグがある中で過ごしてました。
──それは日本で同級生と話合わないでしょうね(笑)。
Hi-yunk:最初は本当、話が合わなかったですね。「これ知ってる?『もーれつア太郎』」って訊いても「知らない」って言われますから。そりゃ知らないですよね(笑)。
──そういう子どもの頃の体験は、すごく人格を形成してそうですね。
Hi-yunk:そうかもしれない。ある意味、そういうところで外国人的なマインドも半分残っちゃったかもしれないですね(笑)。
──でもそれが、ミクスチャー的な音楽性に繋がったのでは?
Hi-yunk:そうですね。そもそも血も台湾と日本のミクスチャーですから。
──Hi-yunkというアーティスト名義は、ご自身のルーツから来ているんですよね。
Hi-yunk:母が台湾の原住民で、その言葉でつけた父の愛称がHiyunなんです。10年ぐらい前に楽曲提供するにあたって、何か違う名義でやりたいなって思ったときに、パッとそれが思いついて、僕の本名から取ったKを後に足してHi-yunkになったんです。
──なるほど。それにしても、初代タイガーマスクからプロレス好きが始まってるのは驚きました。90年代のWWFがきっかけだと思っていたので。
Hi-yunk:当時、WWFはVHSビデオでしか見れなかったんですけど、レンタルビデオ屋さんにも置いてなかったんですよ。だから毎週木曜日に、兄貴が「週刊プロレス」、僕が「週刊ゴング」を買って、雑誌で遠い向こうのアメリカンプロレスの情報収集をしてました。それでたまに水道橋の「チャンピオン」っていうプロレス専門のビデオレンタル屋さんに兄貴と一緒に行ってビデオを借りて見てたんです。だから、YouTubeですぐ見れる今の世代が羨ましいですよ。でも逆にそういう経験があったから、自分の手でいろいろキャッチしようっていうマインドになったのかなとは思いますけどね。
──それで見たものは忘れないですもんね。音楽としてのプロレスの入場曲はどんなものが好きなんですか。
Hi-yunk:僕は武藤敬司さんに憧れていたので、やっぱり歴代の武藤選手の入場曲ですね。「HOLD OUT」、「TRIUMPH」っていう……プロレスの入場曲って、“イントロ、ドン”じゃないですか?イントロでどれだけ「あの曲だ!」とか、いかに観客のハートを掴むかっていうか。その気持ちって、音楽を作る人間としてはすごく大事だと思うんです。自分の中で常に思っていることがあるんですけど、僕はタワーレコードとかHMVに行って、お金がないから試聴機で聴くだけの時代があったんです。その中でいろんな曲を聴いたときに、自分の中で一貫しているのは、「イントロが良かったらその続きを聴こう」っていうマインドなんですよ。つまり、イントロはサビと同じぐらいすごく大事だなっていうのは、曲作りを始めた当初から今に至るまですごく大事にしてるモットーなんです。その「イントロが大事」って思うようになったルーツは、試聴機で聴いている以前に、プロレスの入場曲を聴いていたことで、知らない間にそうなったのかなって思います。
──入場するときってイントロも含めて曲の前半しか使われないわけですから、インパクトは大事ですよね。そこに自然に影響を受けているんですね。
Hi-yunk:あとはやっぱりコールしやすいとか手拍子しやすいとか、そういうのはいろいろ影響を受けてるかもしれないですね。でもやっぱり中継とか見ててアガるのは武藤さんの「HOLD OUT」ですね。去年2月の東京ドームでの引退試合は、いろいろ思い出すものもあったりして、もう涙をこらえながら最後の入場を見ました(歴代のテーマ曲が全部流れてから「HOLD OUT」で入場してきた)。結局、プロレス入場曲も音楽じゃないですか?やっぱり音楽ってすごいなって思いましたね。
──では最後に改めて、「Good Bye Forever feat.IKE」についてひと言お願いします。
Hi-yunk:この曲は僕の10年来の盟友のIKEと、前々から一緒に曲を作りたかったっていう段階で出来た楽曲になってます。歌詞としては、去年6月に亡くなった僕の友人に向けた楽曲でもあるんですけど、聴く人それぞれの別れと新しい旅立ちを感じ取っていただけたらなと思って作りました。是非、この曲を聴いて何かを感じ取ってもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします。
編集 : 西田健
Hi-yunk、盟友、IKEとともに作り上げた、別れと再出発のうた
BACK-ON ディスコグラフィー
PROFILE:Hi-yunk
ROCK BAND「BACK-ON」のボーカリストとしての活動する中、精力的に他アーティストへの楽曲提供も手掛ける。 作詞、作曲、編曲をマルチにこなし、日本語、英語、中国語を自在に操り、グローバルに活動中。