両極端な世の中の“なかみち”を歩いていけたら
──井上さんと礒本さんにとって、この前編というのはどういうアルバムになりましたか?
礒本:自分に近いエピソードもあれば、馴染みがなくてちょっと遠く感じるエピソードもあって、そういう話が連続している作品だと思っているんです。遠近感があってバラバラにも思えるなかで、最後の“渚で会いましょう | on the beach”でひとつに回収されている印象もあって。それはハッピーエンドのようでもあり、そうじゃないようにも感じられて、終わりかたがはっきりとしていないんですよね。例えばドラマを観ていても共感できる部分とできない部分があって、いろんな気持ちを抱えたまま次の回を迎える。そういういろんな感情がこの第一部には入っていると思いますね。
井上:「私たちの周辺で起きている生活や暮らしのことを歌いたいんだ」みたいな風潮ってあるじゃないですか。そこを、音の素晴らしさやアレンジの面白さ、歌詞の複雑な部分とかで、だいぶ飛び越えていった感じがしています。みんな、生活感みたいなものに飽きていると思うんですよね。私も次のステージに行きたいと思っていたし、迅くんが言う大きな会場でライヴをしたいというのもそこにつながっている気がします。
──それに対して鈴木さんはどう思いますか?
鈴木:いまは、空想的でエンパワーメントみたいな歌を歌う人たちと、自分達の手の届く範囲のことを歌っている人たちの両極になっていると思うんですよね。その間の人たちが全然いないんです。僕らが中高生の頃にかっこいいと思っていたバンドってその間にいた人たちだったんですけど、これが難しくて。手の届く範囲を書いている人たちからはちょっと作り物っぽく見られるし、大きい方からはスケールが小さくみられるという、すごくリスクをはらんだ立ち位置なんですよ。でも自分としてはリアリティを持ったまま大きな世界に視野を広げていくというのがやりたくて。音楽以外の芸術もそうですけど、両極になっているのは嫌だなと。
井上:ちょっとスピリチュアルな話になるかもしれないけど、私はすべてが繋がっていると思うので、小さな私たち周辺のことをマクロな視点でみるかミクロな視点でみるかみたいな話だと思うんですよね。その両方を行き来しているイメージなんです。すべては繋がっていることなのだから、どちらかだけを歌うんじゃなくて全部を歌うというのがもっとも真理に近づいている姿かなって。難しいんですけどね。

──なるほど。ライヴの規模がどんどん大きくなっていますが、自分たちが今後どう進んでいくのか、展望など考えていますか?
井上:この曲だけがめっちゃ有名とか、そういうバズりがないままバンドに対するファンが増えてきている実感があって。理想的なかたちで大きくなっていっているよねと言ってもらうことが多いんです。その円が何乗にも大きくなっていくスピード感を止めずに、どこまでいけるのかは気になりますね。あとはちょっと難しすぎない感じにしたほうがいいのかな? どうなんだろう。
鈴木:単純化したほうが楽だし直接的な数字につながるとは思うんですけど、自分が作りたいと思ったものがちゃんと人に届いて、聴いてくれた人の人生を変えるかもしれないと思ったら、そこは単純化させたくないんですよね。単純なものと複雑なもののバランスはつねに変わっていくので、そこは最後まで悩んで、いままで通りに誠実に作っていけば大丈夫なのかなとは思っています。
井上:さっき難しくしないほうがいいのかなって思ったけど、難しくて複雑なのが“人”だなとも思うので、わかりやすさを追いかけなくてもいいんだと思いながらいままでやってきたということを、いま思い出しました。
礒本:僕たちのことを好きで聴いてくれている人たちは、僕たちの曲やスタイル、今日話したようなメッセージに共感してくれていると思うんですよ。その共感にも数えきれないほどの解釈があって、これから自分たちが大きくなってどんなリアクションに出会えるのか楽しみだし、単純に共感してくれる人が増えることがすごく嬉しいですね。
井上:ほんとにそうだね。
礒本:よく茨の道という言いかたをされていたんですけど、聴いてくれる人たちみんなでそこを歩いていこうよ、というか。両極端な世の中の“なかみち”を歩いていけたらいいなと思います。
──いまのLaura day romanceはインディーのなかでも新しい概念を持っていて、とてもおもしろい立ち位置だと思います。進化しているとよく言われていると思いますが。
井上:嬉しいです。
鈴木:進化はわりと自覚的かも。前よりは進化していると思ってますね。

編集 : 石川幸穂
リアリティを持ったまま広がりをみせる、至極のサウンド
ライヴ情報
Laura day romance oneman live 2025 wonderwall
2025年 4月26日(土) 大阪城音楽堂
2025年 4月29日(火) 東京国際フォーラム ホール C
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PROFILE : Laura day romance
井上花月(Vo.)
鈴木迅(Gt.)
礒本雄太(Dr.)
国内外のミュージックラバーにファンを広げる日本のバンド。
鈴木迅が作り出す幅広い音楽性の楽曲と、井上花月の世界観のあるヴォーカル、タイトさと柔軟さを兼ね備えたリズムを刻む礒本雄太のドラミング、そしてそれらを表現するためのベストな形でジョインするサポートメンバー達。
ワンマンライブは開催を重ねるごとに規模を広げている。
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