パンナコッタ、リグレッティ、コワレッティ
──Guibaの曲作りはどのように行われているのでしょう?
熊谷:アカツカが身の回りに起きたことをもとに曲を作ってくることもありますね。
アカツカ:ハプニングが起きたら基本的に曲にするようにしてます。今回でいうと“恋の二段階挫折”という曲は、熊谷さんが二段階認証を設定していなかったせいでXを乗っ取られたことから生まれました。“愛の二段階右折”という曲が前作に入っているんですけど、その曲が元々「恋の二段階右折」というタイトルだったんですよね。「恋の〜」って歌謡曲みたいで面白いなと思っていたんです。この曲はタイトルから歌詞を作っていった感じです。
──他にハプニングから作った曲はありますか?
アカツカ:“童心”もある出来事からです。GuibaのパーカッションのサポートでSouth Penguinのメンバーでもある石崎くん(石崎元弥)って子がいて。South Penguinとして台湾にツアーに行ったときに飛行機の機内食でパンナコッタが出たんですよね。それがプルプルしていたので石崎くんが揺らし始めて、隣に座っていた礒部くんに「童心に返らな〜い?」って言ってきたらしくて。その後、税関のカードに本籍とかを記入していたら、神奈川出身って聞いていた石崎くんが京都って書いていたらしいんです。それをまた見ていた磯部くんが不思議がって聞いたら、「はんなりでしょ?」って言ってきたみたいで。しかもそのときの字がめちゃくちゃ汚かった。その一連の出来事を聞いて生まれたのが“童心”って曲です。

──完璧に歌詞に再現されていますね(笑)。
アカツカ:小さい頃の記憶とかではなくて、ただパンナコッタを揺らしながら、「童心に返らない?」って言ったことを切り取っただけなんです。それが台湾ツアーの幕開けだったので、幸先不安でした。
──そうだったんですね(笑)。1曲目“栃木”はなぜ栃木を題材にしたんですか?
アカツカ:栃木出身もいないし在住もいないんですけど、僕は小さい頃から家族で旅行に行ったりとか、今でも年一で行っているくらい栃木が好きなんですよ。その気持ちを歌にしました。
──「たまにはついて来て」という歌詞は誰に向けているんですか?
アカツカ:特定の人はいないです。恋愛模様を描いたら甘酢っぱくなるかなと思って。栃木って、沖縄とかのリゾート感はないじゃないですか。だけど本当にいいところだから何回でも誘うし、たまには一緒に来てねということを歌ってます。
──なぜアルバムの1曲目にもってきたんですか?
熊谷:実は初ライヴの1曲目だったんですよね、ファーストには入ってないですけど。
アカツカ:そこから割と“栃木”はじまりでライヴすることが多くて、この曲は1曲目のイメージがついたんです。

──2曲目“スキマ”は前作『ギバ』収録の“涙”の続きと聞きましたが。
アカツカ:そうなんです。“涙”のその後のストーリーとして作った曲です。でもシェイクに「“涙”の続編作った」って言ったら、「早くないですか?」って返されて(笑)。せっかちなのでもう作っちゃいましたよ。トロピカルな曲を作りたくて、愉快なアレンジにしました。
──“涙”の続編として、どういうストーリーなんですか?
アカツカ:“涙”はフラれた女性の人が、自分の体型を気にしてダイエットを始めるという話なんですけど、“スキマ”はダイエット成功後の話です。高飛車な女の子の設定だったので、「フったあなた後悔してるでしょ」と思いつつも、また振り向いてほしいと思っているような、完全には吹っ切れられない様子が描かれてます。
──“写真集”はどんな題材ですか?
アカツカ:これは、ガチ恋おじさんです。Guibaとしては珍しく男性目線で。好きなアイドルに対して、写真に映ったときのままでずっと年を取らないでほしいと願ってる曲ですね。自分も写真集買うのが好きなので、自分の願望も少し入ってます(笑)。
──そうなんですね。自分はそういう写真集を買った経験があまりないので、こういう気持ちになるんだと……。
アカツカ:100%僕の気持ちじゃないですよ! もちろん誇張も含まれてますが、行き過ぎたファンの方はもしかしたらこういう思考になるのかなと想像して書きました。でも僕はそういう気持ちも肯定したくて。それを嘲笑する文化はよくないし、写真集にはそのときの輝きを閉じ込めるという意義もあるじゃないですか。

──この曲のアレンジで意識したことは?
礒部:僕が知ってるポップスを全部盛り込みました。
アカツカ:ビートを効かせて、ホーンも入れたり豪華なサウンドになりました。だって転調もしてますからね。
シェイク:転調する勇気は最近ついたもんな。
アカツカ:ポップスといえば転調! 転調してない曲はポップスとは言えないかもしれないですね(笑)。僕が提案して、そのときは店長って言われてました。
──(苦笑)。続いての“ナイスガイ”は?
アカツカ:女性が男性に先立たれて、自分も後追い自殺しようとする曲です。いちばん暗いかも。この曲を聴いて元気をもらいましたって言ってくださるファンの方もいるんですよ。僕が思い描いたストーリーとは別の解釈ではあるんですが、すごく嬉しいです。あなたに忘れられてしまう前に私もあの世に行かないと、という歌ですね。
熊谷:少し怖いのであまり言わない方がいいんじゃないかとも思うんですけど……。
アカツカ:「ナイスガイ」って少しファニーな感じで取り繕ってます。自殺がテーマではなく、それくらい愛が深いという曲ですね。
──6曲目の“待っていて”と7曲目の“待たせすぎ!”は対になっているんですかね。
アカツカ:告白をされた側と告白をした側ですね。“待っていて”は、自分の気持ちがわからないので、もう少し待っていてくださいっていう曲です。で、“待たせすぎ!”はあみんの“待つわ”の令和版という。昭和の女性と違って、令和の女性はせっかちなので待てないという設定です(笑)。
──最初から対になる2曲を作ろうと思って作りはじめた?
アカツカ:“待たせすぎ!”の方が先にありました。“待っていて”の方は元々別の曲だったんですけど、後になってタイトルを変えて。あるとき僕がバナナマン日村さんがお風呂に入っている映像を見ていたんですよ。その映像で流れていたボサノヴァ・テイストの曲が良かったので、それに近いものを作ろうとして。結局カントリー・アレンジに着地しました。
礒部:元々は“風呂”ってタイトルだったよね。
──“こわれもの”は、アルバムのタイトル曲ですね。
アカツカ:イエスの『こわれもの』(原題『Fragile』)というアルバムが好きで、「こわれもの」という言葉も可愛らしさも出ていて使いたかったんです。アルバムを通して危うさやもろさを歌った曲も多くて、センチメンタルな雰囲気にピッタリなんじゃないかなと。リグレッティな感じとか、コワレッティな感じとか……。