インストバンドっぽくないものを作ろう
──これまでと違うことをやるなかで、今回ヴォーカル曲“なななのか feat. österreich”はどんな発想で生まれたんですか。
フルサワ:11年ぶりのリリースなので、いままでやってなかったことをとりあえず絶対にやってみようっていうことで。最初は管楽器入りのインストから発想がはじまって、地元のラッパーの友達にラップしてもらおうかっていう話にも一旦なったんです。でも作ってくなかで、歌の方がしっくりくると思うようになって。アレンジしながら変わっていって辿り着いた感じです。
──インストの流れのなかでこの曲が出てきたとき、「おっ語りがはじまった」って驚きました。österreich(オストライヒ)は高橋國光さんのソロ・プロジェクトですが、mudyはどんな関係ですか。
フルサワ:彼の前身バンド、the cabsがレーベルの後輩だったんですけど、よく一緒にツアーを回ったりして、打ち上げでいっぱい酒を飲ましたり(笑)、もう15年ぐらいの付き合いなんです。去年、僕らがアルバムを出しますって解禁したcinema staffのイベント〈OOPARTS 2022〉でösterreichのライヴをはじめて観て、いいなと思ったので、そのまま楽屋に行って「歌詞を書いて語ってくれ」ってオファーして、即答してもらいました。その時すでに曲は完成していて、“なななのか“というタイトルもついていたんです。
──“なななのか“というタイトルはどう伝えたのでしょうか。
フルサワ:“なななのか“は「四十九日」という意味なんですけど、「時間の経過」っていう今回のアルバムのテーマにも繋がっているんです。彼には過ぎ去った時間や、もう戻れない時間に対しての思いを言葉にして欲しいと伝えて。歌メロは僕が用意して、語り出すポイントは指定したかもしれないですけど、どんな感じでいくのか、バックビートでやるのかとか、そういうニュアンスの部分はお任せしました。ヴォーカルを担当してくれた、鎌野愛さんとは、ハイスイノナサ(※)も僕らと同じ残響レコードに所属していたという繋がりがあって。彼女はösterreichのゲスト・ヴォーカルでもあるので、高橋くんと合わせてふたりを誘った感じです。
※編注:鎌野愛が以前所属していたバンド

──実際、歌入りの曲が完成したときどう思いました?
フルサワ:……やっぱり、歌があるといいなって(笑)。
──(笑)。そうきくと、そもそもなぜ歌がないバンドをやっているのかが気になります。
フルサワ:僕らは大学のサークルで組んだんですけど、ギターの山川(洋平)は最初、ギターを持ってないのにバンド・サークルに入ってきて、「これからバンドをやりたい」って言ったんです。 僕は別で自分が歌うバンドをやろうとしていたんですけど、山川は友達だったので、自分のバンドとは別で、「山川のギターの練習になれば」くらいの遊び感覚でインストをやろうっていうのがそもそものはじまりで。ただ、当時から「インストバンドっぽくないものを作ろう」というテーマだけは唯一ありましたね。
──いまはそのテーマってどうですか? アルバムを聴くと、そのまま歌詞を乗せたら歌になりそうなメロディもあると思います。
フルサワ:それはmudyの元々のスタイルというか、初期からずっと貫いてるところですね。ただ11年も経つと、前作は自分たちからわりと離れちゃった感覚というか、だいぶ俯瞰で見えるようになったんです。そこを見つめながら新作を作ったら、散々「インストバンドっぽくない」つもりでやってたけど、結局自分たちはインストバンドだったんだってことに改めて気付いたんですよね。「歌がないってことは歌がないってことだな」というか、そこから逃げられないっていうことに気付いたんです。それで、アルバム・タイトルを『An Instrumental』にしました。そういう意味では、バンドのアイデンティティーにも結構影響があった11年間ではありましたね。
── “なななのか feat. österreich” はアルバムリリース前に先行配信されました。そのジャケットには、フルサワさんの構想が反映されているとのことですが、どんなイメージだったんですか。
フルサワ:これはもう、「ザ・線香」です(笑)。
──ああ、漂っている煙は四十九日の線香なんですね。
フルサワ:そうなんです。漂う感じ、儚い感じを表現しています。
──もうひとつの先行配信曲 “SUPER!!!!” のカヴァー・アートはフルサワさんが⾃ら撮影した⾵景写真が使われているそうが。
フルサワ:これは僕の家の近くの橋から撮った朝日なんですけど、かなり自分の原風景というか。実家の近くのよく通った道で、何度見たことかっていうずっと自分のなかにある光景なんです。アルバムのテーマ「時間の経過」と絡めていくと全部そういう話になるんですけど、あの瞬間をデザインにしたいと思って作りました。
──アルバムのアートワークはアーティストの鷲尾友公さんが手掛けていますが、メンバーのみなさんがイラストで象徴的に登場していますね。
フルサワ:鷲尾さんには曲とアルバムのテーマだけを伝えて、あとは完全にお任せしました。これは僕の印象ですけど、このジャケはmudyのメンバーが楽器やライトを持ってなにかを探しに行ってるような、設計図を作りにいってるようなイメージが思い浮かんできて。「作っていく」をメインのイメージとして捉えてもらったのは、いままでの僕らのことを知ってくれているのかもしれないですし、改めて「mudyが作ったんだよ」っていう意味なのかなって。

──アルバムのなかでは、“THE SHINING”が好きですけど、スタンリー・キューブリック監督のホラー・映画『シャイニング』からインスピレーションを受けたんですよね。
フルサワ:そうです。タイトルは映画『シャイニング』の引用です。今回のアルバムは11曲中9曲のタイトルが映画からきていて。この“THE SHINING”は曲が全部完成してから、「この曲だったらこの映画のタイトルがいいかな」って引っ張られてつけた感じなので、元々は「シャイニング」をイメージして作った曲ではないんですけどね。
──なるほど。他にも映画のタイトルから引用されているんですね。“なななのか“もそうですか?
フルサワ:そうです。これは大林宣彦監督の映画から拝借しました(『野のなななのか』)。
──そうすると、リード曲“メイン・テーマ“も薬師丸ひろ子さん主演の『メイン・テーマ』?
フルサワ:そうです、そうです。80年代の作品ですね。僕、映画が好きなんですよ。いまのところあんまり突っ込まれてないですけど、この前TBSラジオに出たときにライムスターの宇多丸さんには突っ込まれました(笑)。
