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INTERVIEW : フルサワヒロカズ(mudy on the 昨晩)

人の生活にとって11年間という月日は、相当いろんなことが変わってしまうほど長い。ましてやバンドとなると作風の変化があってもおかしくないのだが、『An Instrumental』で聴ける3本のギターを中心とした縦横無尽な楽器の演奏が織りなすカオティックなアンサンブルは、まさに唯一無二のインストバンド、mudy on the昨晩の音楽そのものだ。そんなアルバムに、はじめてのヴォーカル曲“なななのか feat. österreich”が入っているのも興味深い。「時間の経過」をテーマに掲げて作られた今作について、リーダーでギタリストのフルサワヒロカズにインタヴューを行った。楽曲、アートワーク、MV、レコ発ライヴのことに至るまで、『An Instrumental』をより深く感じることができるはずだ。
取材・文 : 岡本貴之
写真 : takeshi yao(ライヴ写真)
今後の曲作りに影響がある作品になった
──11年の間に、音楽を取り巻く環境には様々な変化がありました。この期間をどのように感じてますか。
フルサワヒロカズ(以下、フルサワ):いま振り返ってみると、僕らが前にアルバムを出していた頃は、当時所属してた残響レコードをはじめとしたインストブームがあって、そういった盛り上がりに乗っかって出てこれた部分は少なからずあったと思うんです。そこから10年以上経ってそういう部分が一切なくなった状態で新作を出すっていうのははじめてに近い感覚ではありました。
──アルバムを作るきっかけとなったのは、サブスク解禁に伴って新曲も作ろうみたいな流れがあったんですか。
フルサワ:サブスクを出した時、僕のパソコンに眠ってた未発表曲があったのでそれも出したんですよ。そうしたら、いまのレーベル(〈monchént records〉)担当者から、「せっかくならレコードで出しませんか」という話をいただきまして。でも結構昔に録った音源だったので、ちょっと難しいかなっていう話をしてるなかで、「じゃあ新作なんてどうでしょう」ということになったんです。ただ、最初はアナログの話からはじまったので、今回7インチもはじめて出したっていう感じですね。
──活動自体は止まっていたわけではないですよね?
フルサワ:解散したわけじゃないので、活動自体はずっとやっていたんですけど、僕らが27歳の時に最後のアルバムが出ているので、そのタイミングでみんな結構地元で仕事をはじめたり、家族ができたりとか、生活の変化があったんです。うちは5人組で人数が多い分、スケジュールが難しいこともあって、単純にリズムが作れなかったんです。
──なるほど。それにしても(前回のリリースから)約11年空くっていうのは長いですよね。
フルサワ:いままで基本的に、mudyの曲はスタジオで「せ~の」で作っていて、ずっと色んなチャレンジはしてたんですけど、僕が昔だったらOKにしていたものも、だんだんOKにできなくなってきちゃって、なかなか納得いくものができなかったんです。それでああでもないこうでもないって言いながら11年が経ったって感じですね。
──前だったらOKにしていたものをそうできなくなったのは、どうしてですか。
フルサワ:ディスコード(不協和音)がだんだん許せなくなってきたというか。ギター3人とベースがいて4本弦楽器があるので、歌があれば成立すると思うんですけど。初期のmudyは、7割が不協和音みたいな状態で。それがだんだん薄くなって、最終的には3.5割ぐらいが不協和音状態であとは和音状態みたいな、結構カオティックな状態になっていたんですね。それをもっと整理させたくなってきちゃったんです。でもそれをスタジオで作っていると、どこに進んでいいかわからなくてクラクラしてきちゃって(笑)。
──ははははは(笑)。
フルサワ:作り方にちょっと限界があったのかな。
──その状態を経てアルバムが完成したということは、これまでとは違うやり方をしたということでしょうか。
フルサワ:そうしないと完成しないと思ったので、まずスタジオに入る曲作りのスタイルをやめました。僕がDTMで大元を作ってみんなに投げて、そこにメンバーがフレーズを当てはめてそれを戻してもらってみたいな、オンラインの作業になったんです。その方が単純に整理はしやすかったですね。今回のアルバムは曲の作り方に関して、今後非常に影響がある一作にはなったかなと思います。
──コロナでそういう制作方法にならざるを得なかったバンドって多いじゃないですか。mudyの場合、それはあまり関係なかった?
フルサワ:2020年に9mm Parabellum Bulletのトリビュート・アルバム『CHAOSMOLOGY』に参加させてもらったときにちょうどコロナになっちゃって、そのときに試しにオンラインでの制作をやってみたんですね。そうしたら意外とすんなりできて。それまでは他のメンバーは自分のフレージングを自分で決めていたんですけど、わりと僕に委ねてくれる部分が増えてきたというか。僕の勝手なイメージですけど、他のメンバーはもう100%自分で自分のフレーズを弾きたいんだろうなって思っていたんです。でも意外とそうでもなかったみたいで(笑)。「こういうふうに弾いてくれ」って提示したら、全然そこに抵抗はなくてちょっと驚きました。なので今回のアルバムの7割ぐらいは、ギターからベースからドラムまで全部僕が作りました。
──曲の中で、ギター3本の定位ってあるんですか? ヘッドホンで聴くと右、左、真ん中に誰のギターがあるとか。もちろん重なっている部分もありますけど。
フルサワ:それぞれの存在感によって、曲によって変えてます。それは昔から変わっていないですね。