音楽って宇宙みたいなもの
──今作はスタジオアルバムに加えて、ライヴアルバム『THE PREVIOUS WORLD』もDL封入(CDのみ?)されるとのことですが、作品資料に『「前世界」&「現世界」そしてその先へ』という言葉がありました。それで言うと、ライヴアルバムが「前世界」でスタジオアルバムが「現世界」ということですよね。
大柴 : はい、まさにそうです。
──その「現世界」にあたる『光失えどその先へ』の中も前半、後半で分けているんですか?
大柴 : いや、この作品自体はそうではないんですけど、でもこの先のアルバムタイトルも既に決まっているんですよ。その情報をこの中に入れ込んでます。ジャケットにも何かが隠されているので、見つけてくれたらすごく嬉しいですけど。
──もう次の作品のことを考えているとは思いませんでした。今作は1曲目の“エビデンスステイホームレガシー2020〜2021”を「現世界」としたら、“東京”や、“学年で⼀番ヘンテコな先⽣の歌”を歌った後半が「前世界」という、二重構造になっているのかなと思って聴いてました。
大柴 : ああ、本当ですか(笑)。そういう風に捉えて聴いてもらえても、ありがたいです。これは単純に、自分の思い出というか、失われた記憶をもう1回出してきたっていう感じです。“学年で⼀番ヘンテコな先⽣の歌”で歌っているように、俺は昔漫画家になりたかったんですけど、みんなに「漫画家なんかなれっこない」って言われてたんです。そのときに、小5のときの先生が俺のはじめて漫画を見て、クラスに「漫画係」っていうのを作ってくれて、それを俺がやってたんですよ。でもPTA的には、「勉強とは関係ないことをやるのはダメだ」って、その先生は1年で飛ばされちゃったんです。だけど自分はその先生にすごく感謝していて、いつか曲にしたいなあって思っていたんですけど、今回ようやく曲にできました。
──あの歌詞、ノンフィクションなんですね。今回曲にできたのは、何かきっかけがあったんですか?
大柴 : 実はこの曲、“卒業式”というタイトルで、15年ぐらい前に曲にしていて。それをNHKのテレビ番組で歌ったことがあるんですけど、そのときはまだ未完成だったんです。曲づくりってやっぱり技術なので、当時の技術だとディティールを形にできなかったんですよね。それを何年か前にもう1回書こうと思ってやってみたら、事細かにやりすぎて涙が出すぎて書けなかった(笑)。それを2年前ぐらいに見返したときに、「あ、いまだったら曲にできるかも」って、もう1回ちゃんと作り出して、ようやく今回できたんです。約18年越しで曲になりました(笑)。

──それこそ次の曲の “歳をとること”に繋がりますね。これはどんな思いで書いた曲ですか。
大柴 : ぶっちゃけこの歳になるまで音楽をやっているとは、はじめたときには思ってなかったんですけど、気が付けばこの歳になっていて。歳をとることって自分のなかで昔はネガティヴなイメージだったんですけど、全然そんなことなくて。自分の考え方なんですけど、死ぬときに人生最高であれば良いなと思っていて、その考え方でいうと年を取って劣化するのが嫌なんですよね(笑)。自分の中での感覚ですけど、その感覚を磨くために、日夜どうすればピリピリできるかなって。
──ピリピリですか(笑)。
大柴 : そうそう(笑)。アンテナをどう張り続けられるかなみたいなことを考えると、歳をとることは素敵なことだなって思いたいし、人にもそう思ってもらいたいし。というのも、一緒にツアーしていたplaneのキクチ(ユースケ)君とか、鴉(カラス)の近野(淳一)君とか、たくさんライヴをやっていくと、どんどん良くなっていくんですよ。でも、流行を追っていくだけだと、その良くなっていく過程のおもしろさって案外見られないんですよね。
──おっしゃっていること、すごくわかります。
大柴 : 新しい音楽を見つけることの喜びってすごく楽しいけど、そこの楽しみに気付いて欲しいなって思うんです。僕は今年で15周年になるんですけど、俺は絶対15年前よりめちゃくちゃ良い音楽をやってると思うんですよ。15年前の音源を聴くと、「歌下手だな~」とか「リズム感悪いなあ」とか、未だに思うんですよね(笑)。でもそう思うのって、自分の音楽が良くなってるっていうことだし、それを逆に遡ってくれたらおもしろいなって思います。根本的な考え方は変わってないんですけど、その時々で色んなことを思って作っているので。
──"歳をとること"もその過程っていうことですね。おもしろいなと思ったのが、ライヴ・アルバムの方では "35過ぎて音楽やるやつみんな宇宙人"という曲を歌っていることで(笑)。同じ年齢をテーマにしていてもまったく違う曲調なところが幅広いなと。
大柴 : あれは最高におもしろい曲だと思います(笑)。35過ぎて音楽やるやつはみんなオモシロおじさんだっていうのを、筋肉少女帯のオーケン(大槻ケンヂ)さんが言ってたみたいな話を聴いて、神戸か何かの駅を降りて歩きながら5分ぐらいで作った曲なんです。それでライヴハウスで「さっき曲書いたんですよ!」って歌ったらすごく盛り上がりました。
──かなり自虐的な内容ですけれども(笑)。この曲が、1曲目“エビデンスステイホームレガシー2020〜2021”の前口上的な部分の〈ワレワレハ、ウチュウジン、ではなく〉に繋がってる印象でした。
大柴 : ああ~、そうですね。“テレパシー”という曲もそうなんですけど、音楽って宇宙みたいなものというか、言葉って降ってくるものだと思っていて。俺の中で、「トイレの神様」と「お風呂の神様」と「風の神様」がいて、だいたい走ってるときか風呂に入ってシャワーを浴びてるときか、トイレに入ってるときか、その3つのどれかで、それ以外で言葉が出てきたことがないんですよね(笑)。宇宙の誰かが俺に言ってくれたんじゃないかなって。発想とか、自分で書いたとは思えないときがあるんです。
