リズムというのが、自分のヴォーカルのいちばんの特徴だと思ってる──朝日美穂の新作『フラミンゴ・コスモス』、2週間先行ハイレゾ配信

コンスタントにデジタル・シングルのリリースはあったものの、新作フル・アルバムとしては5年ぶりとなる朝日美穂『フラミンゴ・コスモス』がリリースされる。色彩豊かなリズムと言葉がおりなすポップな逸品は、コロナ禍以降の新たな挑戦などさまざまな変化に彩られた作品となった模様だ。CDリリースは自身のレーベル〈朝日蓄音〉より、4月23日(水)からとなるが、OTOTOYでは本作を4月9日(水)より、2週間先行で配信がスタート。ハイレゾ音源、そしてサウンドとともに本作のもうひとつの魅力でもある歌詞のブックレットがPDFで付属するOTOTOY限定仕様。本作の魅力を掘り下げるべく、インタヴューをここにお送りする。(編集部)
5年ぶりの新作を2週間先行、ハイレゾ配信! PDFにて歌詞ブックレットも同梱
INTERVIEW : 朝日美穂
シンガー・ソングライターの朝日美穂が、前作『島が見えたよ』(2020年)から5年ぶり、通算7枚めのフル・アルバム『フラミンゴ・コスモス』を発表した。2021年から年1〜2曲のペースでリリースしてきた配信シングル曲をまとめ、新曲3つを加えた全10曲。公私にわたるパートナーの高橋健太郎がプロデューサーを務めた体制は従来通りだが、デビュー29年めにして初めての試みもあり、印象はとても新鮮。影響源になった音楽から制作・録音環境まで、なぜこうした内容になったのかをじっくりひもといていく。
インタヴュー : 高岡洋詞
写真 : 安部英知(〈朝日蓄音〉提供)
コロナ禍がそのきっかけとなったアルバム
──近年は数年おきにリリースされている印象がありますが、これぐらいのペースがちょうどいいんでしょうか。
仕事と育児の合間に、できる範囲でやってる感じですね。毎年1〜2曲、配信リリースしてきた曲が多いですけど、それでも最後の2週間は死にそうになりました(笑)。前回(2020年『島が見えたよ』)のときは、子どもが生まれて、まだ幼児だったので7年かかってしまいましたけど、それより前もいま思うとけっこうスパンが空いてるんですよね。時間はもっとあったはずなのに。ぐずぐず悩んでないで、どんどん出せばよかったなと。
──けっこう悩むほうですか?
〆切があってこそ頑張れるタイプなので、なかなか踏ん切りがつかずにダラダラと……。なので、ライヴをまず決めて、そこに合わせて新曲を出していくスタイルに自然となっていきました。
──アルバムを聴いてまず思ったのは、録音がすばらしい。ヴォーカルが近くて、朝日さんが耳元で歌っているような感触があります。
わたしの声が小さいからかもしれないですね。でも声が小さいように聞こえないというか、ちゃんとヴォーカルの存在感があるように録るということは、当然考えていて、というのも、この小さな声じゃないと音響としてよい声にならないんです。大きく出すとどんどんつまらない声になっていってしまうので。
──千ヶ崎学さん(ベース)、楠均さん(ドラムス)とのバンドでやっているのが2曲ありますね。 “通り雨” と “世界を揺らし続けてる” 。
その2曲はコロナ禍( “通り雨” が2022年、 “世界を揺らし続けてる” は2021年)に発表したんです。前作『島が見えたよ』は2020年の7月リリースでしたけど、せっかく作ったのにツアーもできないから、プライヴェート・スタジオからライヴ配信をやって。当時はみなさんそうしてましたけども、そこでバンド演奏というコンセプトが先にあって作ったのが “世界を揺らし続けてる” です。アルバムで最初にできた曲ですね。
──歌詞にもあの時期の気分が記録されている感じがしますね。
しますよね。収録されているのはそのときの演奏ではなく、バンドでまた別に録り直したものですけど。
──レコーディングはプライヴェート・スタジオが大部分ですか?
バンド・サウンドの “世界を揺らし続けてる” “通り雨” “木枯らしのロンド” の3曲は、プロ・スタジオでドラムとベースをレコーディングしました。それ以外は全部プライヴェート・スタジオですね。そこにダビングという形でギターやベースを弾いてもらったりしてます。
とっかかりは何でもいいんですよ。絶対に最後は違うものになるから
──朝日さんはだいたいいつもどんなふうに曲を作られるんでしょうか。ケースバイケースだとは思いますが。
半分以上はリズムからできるのかな。リズム・パターンを作って、キーボードを乗せて、ベースを入れたり、入れなくても成り立ったと思うとそのまま投げちゃったり。その段階では細々とした上物は入れてないかな。「ここはストリングスのこういうフレーズがほしい」みたいにイメージを伝えることはありますけど。基本はトラックとキーボードからできていきますね。
──朝日さんは昔からリズム志向が強いイメージがあります。
「曲を作りたい」と思う刺激になるのは人の曲が多いんですけど、リズムがかっこいいと思ったら、それを真似してみるところから入るんですよ。ほぼすべての曲がそう。それはデビュー当時から変わらなくて、「この曲みたいな曲が作りたい」よりも「このリズムかっこいい」「このグルーヴかっこいい」「こういうリズム・パターンかっこいい」から作りはじめることが多いです。
──リズムが印象的ということでは、やっぱり1曲めの “アンバランス・フラミンゴ” ですね。
これはちょっと特殊でして、イギリスのレイ(RAYE)の “Worth It.” という曲が大好きなんです。それを聴いて、60年代のコーラス・グループみたいなアップテンポの曲を作りたいなと思ってリズムを組んだのが最初なんですけど、いま聴き返すと全然リズムが違う(笑)。最後の最後まで仮タイトルが “Worth It.” だったんですけどね。コーラス・グループのことを思い浮かべながら普通に4/4でリズムを入れて、その後たまたま6/8のパターンでキーボードを弾いてたら、最終的にこういう形になってきて。その間は “Worth It.” のことはまるで忘れてました。
──あくまでヒント的なものということですね。
とっかかりは何でもいいんですよ。絶対に最後は違うものになるから。最初は刺激を受けたものや気に入ったものとまったく同じようなパターンでリズムを組んでみたりします。 “アンバランス・フラミンゴ” はさらに突然変異した曲なんですけど。“通り雨”の場合は、ブラストラックスの “Not Far Away” という、タンク・アンド・ザ・バンガスのタリオナ・ “タンク” ・ボールをフィーチャリングした曲がすごく好きで。その曲の感じで楠さんに叩いてほしいと思って、そのドラムのパタンを打ち込んで鍵盤を弾いてるうちにできた曲だったりします。次の “Silent Pop” はバウンドする感じのビートがいいな、と思ってフォニー・ピープル(PHONY PPL)の“splashin.”を拝借したりとか。
“通り雨”のヒントになったという、タンク・アンド・ザ・バンガスのタリオナ・ “タンク” ・ボールをフィーチャーした“Not Far Away” (5曲目)を収録したブラストラックス2022年作
“Silent Pop” のヒントとなった“splashin.”(3曲目)を収録したフォニー・ピープルの2022年作
──人の曲を聴くときは、とにかくリズムへの関心なんですね。
そこに惹かれますね。人の曲は「寂しいから何か音楽がほしい」というよりも、楽曲作りの刺激を探すために聴いてると思います。ふだんはSpotifyのアルゴリズム任せですけど、「あっ」と思う曲があるとそこから辿っていったり、健太郎さんが聴いてる曲をちょっと覗いてみたり。あとは、大好きなBTSのRMが、Instagramでよく聴いてる音楽を共有してるんですけど、わたしと同じものを聴いてることがあって、彼の発信も注視してたりします。
──RMさんもインスピレーションの元になっているんですね。
誕生日が一緒なんです(笑)。彼のこの間のソロ・アルバム(『Right Place, Wrong Person』)も良かったし、あとK-POPではバーミング・タイガー(Balming Tiger)も大好きで。今回のアルバムに彼らの曲を反映したものはないけど、すごいチェックしてます。
──気に入った曲とまったく同じパターンを打ち込むところから始めても、最終的に全然違うものになっていくというのは面白いですね。
いろいろ調整していくと絶対に同じようにはならないんですけど、やりたいと思わせてくれるのが人の曲だったりするんです。たまにわたしのなかから出てくる曲もありますけど、シングルとして切ってるのはそういう作り方の曲が多いですね。