いつも以上に、叙情的な歌い回しに
――攸紀さんが作曲された『斧と初恋』と『波状』はEPの最初と最後に位置している楽曲となっていますが、どんなことを意識されていたんでしょうか?
攸紀(Ba):『斧と初恋』に関しては、keinらしいちょっと捻じれた感じというかアンダーグラウンドなところも出しつつ、かつ聴きやすさを意識したところもあるので、最終的には今までのkeinや自分の楽曲にもない感じの曲になったと思います。ただこの曲、もともとサビがなかったんですよ。でも、サビがないと今回のEPに入れたときに抜け感が出ないわけなので、急遽スタジオでサビのコード進行を考えて付け足しました。その反面、『波状』に関しては今までのkeinらしさ、自分らしさっていうのを意識して作りましたね。
――『波状』は、退廃的で儚げな世界観をMVでも視覚的に堪能できて、まさにkeinらしさに直結する仕上がりになっていますね。そこで、こういった5曲が収録されている今作はタイトル通り“妄想による炎症”がコンセプトになっているわけですけれど、眞呼さんの中でどういったことからEPのタイトルやコンセプトが浮かんだのでしょうか?
眞呼(Vo):『delusional inflammation』というタイトルは、今回の曲を聴いた段階で割と最初の方にはありましたね。
玲央:眞呼さんから出てきたワードを組み合わせて、僕の方から「こういう意味合い、どうですか?」というアイディアを出させてもらって。
――“妄想”や“炎症”という部分が、曲から感じ取れたものでもあったのでしょうか?
眞呼:やっぱり曲にはその空気っていうものがあるので、そこから汲み取ったのかもしれないですね。

――各曲の歌詞を見てみると、そういったものが愛情を向ける対象を基に書かれている部分が一貫しているようにも感じられました。
眞呼:愛情って言われると理解できるんですけど、愛って言われると正直わからないんですよね。相手を思いやるっていうことでしか、私は愛を理由付けることができなくて。ただ、歌詞の話で言うならば曲を聴いたときの空気に飲まれている状態で書いているわけなので。今回の題材である“妄想”だったり、それに対する“炎症”だったりっていう服を着ている状態で全てに取りかかっているので、全部の楽曲において一貫性はあると思います。そこは曲に合わせたというよりも、曲の空気が私に語りかけたっていう感じですね。
――中でも『波状』は、“妄想による炎症”というコンセプトにおける総括のようなものも感じられたのですが。
眞呼:例えば、子どもが病気で倒れたとして、「これが効きます」って聞いたら親はその治療を子どもにするわけですけど、その治療が本当に効くかどうかはわからないし、それが事実だとは限らないわけですよね。逆に副作用というものがあって、効果があっても別の症状が起こる可能性もあるわけで、もしも副作用で別の部分が悪化してしまった場合、病気の本人からするとそれは結局悪いものなんですよ。
――よかれと思って施したとしても、その良し悪しは当人にしかわからない、と。
眞呼:そういう話を仮定したときに、“炎症”っていうものは体が示す間違いに対する反応で、当事者にとってはそれが事実なんですよね。これを踏まえると『波状』に関しては、私が「いい」と思ってやっていたことが、相手にとってはいいことではなかった。それによって波状模様になっている愛する人を、結果失ってしまうということなんです。

――言うなれば、波状=炎症ということですね。眞呼さんの中で、今回の“メジャー感”という部分においてのアプローチで印象的だったことはありますか?
眞呼:全体的に“抜け感”っていうのは頭にあったので、そこは意識しました。今まではマイナーコードが多かったので、メジャーコードでメロディーがつけられたのは新鮮でしたし、楽しかったです。だからかはわからないですけど、私の中で2曲ぐらい女子っぽい部分が表れていて、そこもちょっと新たなものが見えたなと思います。
玲央:いつも以上に、歌い回しが叙情的だなって思いました。『波状』は特に、サラッと歌ったものと感情移入して歌ったものと実は両方存在していて、攸紀くんに「どっちがいいですか?」って確認したんですよ。そうしたら「感情移入してる方」っていうので、そっちを採用したんです。 攸紀:最初に、感情移入した方を聴かせてもらったんですよ。それで、「もうちょっとクールな歌い方をしたものも聴いてみたいです」っていう流れだったんですけど、両方聴かせてもらった上でやっぱり最初の方がグッときたんで、そちらを採用しました。
眞呼:クールな、落ち着いたバージョンを歌ったときはもう、疲れちゃってたので(笑)。『波状』は、みんなで合わせてライブで演奏していくごとにだいぶ変わっていくんじゃないかと思っている曲でもありますね。