愛じゃないかもしれないけど、それでも多分、愛だと思う
──続く“たぶん、愛”と“愛才”とは、クリエイティブな面や愛情への向き合い方など、楽曲のテーマが近い印象があります。
水上:そうなんです。この2曲は割と近いタイミングで書いたこともあって、どちらも“愛”についてすごく考えていた時期でした。前作のフルアルバム『ふたりでいたい。』では、まだ“愛”というよりもう少し手前の、「多分好き」「一緒にいたい」みたいな気持ちを描いた曲が多かったんです。その時期に「好きって何だろう?」とずっと考えていて……ちょっと思春期みたいな感じでした(笑)。
岡田:車の中で「好きってなんだと思う?」って急に聞いてきたりしてたね(笑)。
水上:してた(笑)! その頃、友達にも、サポートメンバーもメンバーもマネージャーにも「好きってなんだと思う?」って聞いてましたね。自分の中で、“興味がある”って思う気持ちと“好き”って思う気持ちはちょっと違う気がしていて。その違いや感情の理由、秘密を知りたかったんですよね。
──「好き」に向き合ってた時期があったと。
水上:その時期に書いたのが“0.2”とか、“安酒にロマンス”とか、“またたび”なんです。それらの曲を通して「好きって、相手のことをもっと知りたい、一緒にいたいって思う気持ちなのかも」って、自分の中で一つの答えが見えたんです。そこからさらに、「じゃあ愛ってなんだろう」というテーマに進んでいった。その流れでできたのが“愛才”や“たぶん、愛”ですね。
──たどり着いたのが、“たぶん、愛”というわけですね。
水上:今のところ「これが愛……なんですかね?」っていう曖昧さも含めて、“たぶん、愛”ですかね。「愛じゃないかもしれないけど、それでも多分、愛だと思う」っていう余白も含めて、愛だなと思ってます。
──ちなみに、いろんな人に「好きって何?」って聞いた中で印象に残った答えはありますか?
水上:好きとはまた違いますが、友人のシンガーソングライター・小林私くんが、「結婚って、最後の友達を見つけることかもしれない」って言ったんです。これは刺さりましたね。“歌う哲学者”って呼ばれてるだけあるなって。
──すごく深いですね。では、岡田さんにとっての“愛”や“好き”って何ですか?
岡田:“好き”に関して、えみりに聞かれた時は、「手をつなぎたいと思えたら好き」って答えました。“愛”については、「この人を悲しませたくない、もっと笑っている顔が見たい」って思える感情が、愛なのかなと思っています。
――“たぶん、愛”は、イントロのサウンドも印象的でした。
水上:イントロのリードギターはPAN(音の定位:音が左右どちらから聞こえるかの設定)を左右に大きく振っていて、センターがぽっかり空いているんです。あれ、私のこだわりでして。聴いている人が“主人公”になったような感覚を持てるようにしたかったんです。真ん中が空いていることで、その空間に自分が立っているように感じられたらいいなと。もし潜在的にでも、「自分が主人公になったみたい」と感じてもらえたら嬉しいですね。
──そして最後に収録されている“明け方の海の夜風”は、情景が浮かぶ曲で、タイトルの「マジックアワー」にぴったりだと感じました。
水上:これは大海原や沖合のような広い場所じゃなくて、港っぽい感じをイメージしました。具体的にいうと、山口県の周南という街ですね。ライブで訪れたときに、夜に海をぼーっと眺めながら、いろいろ考えていた記憶があります。 “短夜”で始まり、“明け方”で終わるという構成もマジックアワー的だなと思います。
岡田:この曲は全体的な音像と“明け方の海の夜風”というタイトルのイメージをもとにギターを弾きました。スライドバーという筒状の器具を使って、ウミネコの鳴き声や海の空気感みたいなニュアンスを表現していて。最後のギターソロだけは、歌詞に引っ張られる形で作りました。歌詞の最後に「絶望は帰り道 心を抱きしめて」という言葉が入っているんですけど、その一文がすごく好きだったんです。絶望ってネガティブな言葉なんだけど、海のように大きなものに抱かれていくような、包み込まれていくような感覚があって。だから、最後のソロもあえてスケールを解決させず、ふわっと終わるような音で締めました。
──その一文は、水上さんはどういう思いで書かれたんですか?
水上:私は、愛や好きという感情について考えるより前に、私は「幸せ」についてよく考えていたんです。“不幸維持法改訂案”っていう楽曲があるんですけど、それは太宰治の『人間失格』を読んだあとに書いた曲で、要約すると不幸であることは本当に幸せなのか? というテーマを扱っているんです。
それでずっと引っかかっていたのが、学生時代の教師の「幸せを知らない人は絶望も知らない。絶望を知っているということは、幸せを知っているということだ」という言葉なんです。すごく厳しい先生だったので、当時は「私に絶望を見せて、幸せをわからせようとしてたのかな」と思ったりもしていたんですけど、「それって本当にそうなのかな?」とずっと考えていたんです。「絶望があるから幸せがわかる」じゃなくて、「幸せがあるから絶望が垣間見える」のほうが、私の中では”幸せ”の概念を考えた時にしっくりくるんですよね。前者は絶望の中にいますから。
人によって絶望の感じ方も違うし、それぞれの幸せの基準も違う。その人にとっての絶望も幸せの中なのであれば、その幸せがずっと続くことが一番いいと思う。この楽曲では、改めて絶望を捉え直してみました。
──なきごとは現在〈初心にかえるman to manワンマンツアー〉の真っ最中です。さらに8月31日には、今作を引っ提げた東名阪ツアー〈これからもよろしくお願いしman to manツアー2025〉も開催されますね。
水上:〈初心にかえるman to manワンマンツアー〉では、初期の楽曲を大切にしながら、最近の楽曲も織り交ぜつつ、「なきごとが伝えたいことは昔から何も変わっていないし、これからも変わらない」というメッセージを届けたいと思っています。〈これからもよろしくお願いしman to manツアー2025〉では、こちらはEP収録曲を軸に、より“今”のなきごとにフォーカスした内容になる予定です。もちろん、昔の曲が置いてけぼりになるわけじゃないので、安心してもらえたらと思います。今のなきごとが本気で音楽に向き合っているということを見せたいなと思っています。
岡田:このあいだ大阪のライブを終えて、タイトルの通り、初心にかえれたというか、忘れていた大事なことを思い出すことができました。大変な中でも待っていてくれる人がいて、迎えてくれる人がいて、そのありがたさを改めて感じました。いまはニンゲン’sへの感謝の気持ちや、自分自身の原点を見つめ直す時間にもなっています。これから訪れる各地で、どんな景色を見て、どんな気持ちで帰ってこられるのか。とても楽しみにしています。
なきごとの美学が詰め込まれたメジャー・デビューEP
EVENT INFORMATION
〈初心にかえる man to man ワンマンツアー〉
2025年7月11日(金)[宮城] 仙台 enn 3rd
2025年7月13日(日)[北海道] 札幌 KLUB COUNTER ACTION
2025年7月31日(木)[愛知] 名古屋 HeartLand
2025年8月2日(土)[広島] 広島 Cave-Be
2025年8月3日(日)[福岡] 福岡 Queblick
2025年8月11日(月・祝)[香川] 高松 TOONICE
〈これからもよろしくお願いし man to man ワンマンツアー 2025〉
2025年8月31日(日)[愛知]名古屋 QUATTRO
2025年9月6日(土)[大阪]梅田 QUATTRO
2025年10月12日(日)[東京]LIQUIDROOM
詳細はこちら
▶︎https://nakigoto.com/live_information/schedule/list/
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PROFILE:なきごと
なきごと INFORMATION
・HP:[https://nakigoto.com/|https://nakigoto.com/]]
・X:@_nakigoto_
・Instagram:@nakigoto_official
水上 えみり ( Vo , Gt )
[ Mizukami Emiri ] X / Instagram
岡田 安未 ( Gt, Cho )
[ Okada Ami ] X / Instagram