私の中にいる“正論ネキ”が「一目惚れって、そんな一瞬で決まっていいの?」って
──なるほど! 続いて“0.2”は、これまでのなきごととはまた違うサウンド感を感じました。
水上:“0.2”は、須藤優(TenTwenty)さんにアレンジをお願いしたんです。テンポも速いし、サウンドもすごくキャッチーなんですけど、「こういうなきごとも欲しかった!」っていう曲になったんじゃないかと思っています。
岡田:サウンド的にはいわゆるJ-ROCKを意識したんです。Aメロでギターとベースがユニゾンするフレーズがあるんですけど、私、元々ハードロック出身で、ついフレーズの終わりにビブラートを入れちゃうクセがあって。でも今回はすってぃ(須藤)さんから「もうちょっと爽やかな感じがいいかな」というお話をいただいて抑えたんです。爽やかなロックに頑張って寄せました(笑)。
水上:水上的には、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)っぽい雰囲気をイメージしているんです。デモの時点で仮で入れたギターソロはもうちょっとバッキング寄りのストロークだったんですけど、レコーディングのときに「ちょっとトレモロピッキングでやってみて」って岡田に伝えたら、「それそれ!」ってこのフレーズにまとまりましたね。
──「0.2秒で人は恋に落ちる」という話がありますが、タイトルもそこから来ているんですか?
水上:人が一目惚れするまでの時間が0.2秒らしいんですね。でもそれって「そんな一瞬で決まっていいの?」ってどこか変だと思っていたんです。もっと共通点を見つけたり、気持ちをすり合わせたりしてから、本当の運命かどうかを自分で見極めるほうがいいんじゃないかって。つまり“0.2”は一目惚れに対するアンチテーゼなんです。もっとじっくり向き合おうよ、っていう想いを込めました。
──一目惚れアンチテーゼ(笑)。そういう発想はどこから?
水上:これは、私の中にいる“正論ネキ”みたいな人格が書いてるんです。「これってこうですよね?」って真面目に考える人格がいて、これは世の中の不公平さとかに対してド正論を言ってるタイプ。その正論ネキが「だったら逆に何回も一目惚れしたら、それこそ強固な恋になるのでは?」って言い始めてこの歌詞になりました。
──自分の心の中に“正論ネキ”がいるんですね。
水上:そうですね。自分のセルフ・アンチも飼ってるし、正論ネキもいるし、ちゃらんぽらんなのもいて。基本的には、主の私が書いてるんですけどDメロあたりで正論ネキが「では、私が」って出てきましたね。
──Dメロの「一目惚れがあるならば あと九十九を数えて 百目惚れをしようか 何度でも君に落ちよう 浮かれた直感を越えられるように」のパートですね。
水上:そうですね。途中で「パッパッパッ」「SMASH!!で決めて」とか言って、ふざけてるところもありますが、のちに“正論ネキ”が「真意を述べさせてくれ!」とDメロで登場しました。私、基本的にサビに真髄を入れないようにしているんです。サビに入れると、ちょっとぼやけてしまう気がしていて。だから落ち着いて聴けるところで、ちゃんと言いたいことを入れたいという気持ちがあります。
──続く“愛才”は、深夜ドラマ『それでも俺は、妻としたい』オープニング主題歌ですね。
水上:これもドラマの書き下ろしで制作した楽曲です。ドラマのテーマが、夫婦生活のレスを扱った内容なんです。ドラマ自体はシリアスなんですけど、演出としてはコミカルに表現したいという要望があったので、韻を踏んだり、ダジャレっぽくも聞こえるような言葉遊びを盛り込んでいます。
──歌詞はどのようなイメージで書かれたんですか。
水上:主人公の男性・豪太さんは物書き(脚本家)という設定なんですけど、私自身も創作活動をしているので、すごく共感できる部分が多くて。生活を後回しにしてしまうところだったり、自分の思うように作品を作れないもどかしさだったり。「できるよ」って口にしながら、いざとなるとできなくて自分への信頼を失う感じとか……。
──なるほど。それが「愛も才も消耗品」という歌詞に繋がるんですね。
水上:はい。夫婦間の愛情だけじゃなくて、クリエイティブな才能もまた、丁寧に扱わないと失われてしまうものだと思うんです。ちゃんと磨けば長く使えるけど、粗雑にしているとどちらも消耗していってしまう。その視点から書いた歌詞ですね。いろんな才能があると思うんですが、この曲では特に“ものづくり”や“創作”における才能に焦点を当てています。
──聴く人によって、感情移入する視点が変わりそうですね。
水上:“短夜”もそうなんですけど、聴く人がそのときの心情に合わせて解釈できるようにしておきたくて。そうすると、何度も聴くうちに見え方が変わって、より深く楽しんでもらえるのかなと。
──サウンド面についてはどうでしょう?
岡田:イントロでは、主人公の“ダメな夫”のイメージをフレーズのサウンド感で表しました。リフは繰り返しで癖のあるフレーズなんですけど、音色にはちょっとフィルターをかけて、頼りなさとかチープさみたいなものを意識しました。
水上:“愛才”のアレンジは、ライブでもサポートでキーボードを担当してくれている高田真路くんにお願いしました。私たちの好みもよく理解してくれているし、なきごとがどういうサウンドを求められているかということも把握してくれていて。近い距離で、一緒に作品を作っていける存在です。