街全体が僕を僕たらしめる
――“Hometown”の歌詞はどんなことを考えて書いたんですか。
ナリタ:学生のときによく行ってた地元のコンビニとかに行くと、昔あったことを思い出したりすることが僕自身体験としてあるんです。その記憶が人にとって場所や人生を意味のあるものにするんじゃないかと思うんですよ。僕にとって、街全体が僕を僕たらしめるものだなと。それはきっと誰にでもあるはずで、これから生きていく上でめちゃくちゃ大事なことだなと思うんです。それを曲に残そうと思ったのがきっかけになりました。
――特にここ、というフレーズがあったら教えてください。
ナリタ:小学生から高校生まで通っていた駄菓子屋があったんですけど、あるとき帰省したら、更地になっていたんです。思い出の場所が無くなることで、みんな徐々に忘れていってしまうけど、きっと記憶の中には残ってる。そのことを曲として残せば、その感覚を自分自身も思い出せるし、これを聴いてくれた人も留めておいてくれるんじゃないかと思ったんです。サビの「会いに来たら優しく教えて / 過ぎ去る景色を巻き戻しながら」はそういう気持ちを込めて書きました。
――聴く人が描く景色も喚起したいとか、刺激したいという気持ちもある?
ナリタ:今作で初めて「人」っていうのをちゃんと認識したんです。僕自身、ファースト、セカンド・アルバムで、瞬間を歌詞や音にして残してきたんですけど、それは、撮った写真をアルバムにして棚に仕舞い込むのと同じだったのかもしれないなと思って。未来の自分も含めて、聴いてくれる人が「そういうことあるよね」って共感できるものを作りたいと思ったんです。だったら僕の原点を描くべきなんじゃないかと思って、“Hometown” が生まれました。

――向さんは、“初めて「人」を認識した” という言葉に頷いていましたね。何か思うところがありましたか。
向:ありますね。というのも、ファーストはめちゃめちゃパーソナルな作品で、彼は曲に書くことで昇華させたと思うんです。セカンドはもうちょっとそこから自分の家の中、ベッドルーム・ポップスになったというか。
ナリタ:セカンド・アルバムは曲ごとに場面が違っていて、ショート・フィルムのようなアルバムでした。
向:そう、セカンドはもうちょい短編っぽいというか。その後、ナリタ君は今回の山籠もりをする前にちょっと悩んでいたんですよ。
ナリタ:そうなんです(笑)。
向:だから、今回曲を書いたことで彼自身が救われたんじゃないかと思うんですよ。そこを経て、人に伝えることに意識が向いたというのは、なるほどなと納得しました。
ナリタ:たぶん、“中学生ナリタ”を他人として捉えられるようになったんだと思います。昔の自分を聴き手として意識したときに、「それって自分以外の人もそうだよね」っていう気持ちで作品と向き合いました。
――ファーストに入っている “Horizon” も地元へ帰ったときの風景を描いているんじゃないかと思うんですが、そのときの心情とはまた違うわけですか。
ナリタ:ファーストは完全ノンフィクションで、特定の人との思い出の曲だけを入れたアルバムなんです。今作と同じ場所が舞台になっているけど、時系列が違うから見え方は少し変わってくると思います。ただ、今思い出したんですけど、上京してバンド・メンバーを探してた時期に1回だけスタジオでリハしたことがあって、その時に合わせたのが“Horizon”だったんですよ。音源化したのがその2年後なので歌詞が少し変わったりしたけど、さっきのバンドでドーンっていう感覚で作った曲なので“Hometown”と通じる部分もその時からあったのかもしれないですね。
――“Memories”は“Hometown”とは対照的な、抒情的でスローな曲ですね。
ナリタ:ぼんやりとメロディーだけできていて、歌詞には地元を散歩したときの情景を詰め込もうと思っていて。映画『PERFECT DAYS』を観た次の日に完成しました。映画の登場人物の、どういう状況だとしても「ただ木漏れ日を日々愛する」という生き方、情景描写が僕にとっては地元の景色だなと思って。その景色の中で、僕は公園で本を読んだり海に行ってギター弾いたりしていて。そのときの自分とリンクしたんです。そういう、ふと昔を思い出すときって、潮風の匂いとか、街中を歩いているときのカレーの匂いとか、風が運んでくるなと思って、こういう歌詞になりました。
――アレンジについては、どんな制作過程がありましたか?
ナリタ:レコーディング中、曲にあうシェイカーが無くて手づくりしたんですよ(笑)。
向:この曲はドラムとベースとアコギと歌で全部完成する、足し算が全然必要ない曲だと思ったんです。シェイカーって後でも足せるんですけど、出来るだけダビングせず空気感をパッケージしたいと思ってドラマーのワタナベ君にシェイカーを振りながらハイハットを叩いてもらいました。でもその場に曲にあうシェイカーがなくて、じゃあ自作しようかということで。
ナリタ:小豆を入れてみたり粗塩を混ぜてみたりしながら。結局、お米でした(笑)。
――初のハイレゾ音源リリースということなので、改めて耳を澄ませてお米の音を聴いてみます(笑)。2曲入りシングルとして、完成してどんな想いがありますか。
ナリタ:昼休みに騒いで遊んで、帰りにみんなで駄菓子屋に行って、っていう小学生の自分に完全にリンクしているんです。エネルギッシュな“Hometown”、あぜ道を歩いて帰ってる情景の“Memories”、静と動の感じを2曲セットで出せたのは良かったなって思います。
向:バンド・セットでの初期衝動が入った“Hometown”、弾き語りの延長の“Memories”っていう、彼がいま持ってる面のふたつがプレゼンテーションできた曲になったと思っています。この2曲を聴いてもらえれば、これからの道筋が見えてくるかなと。外に向いて行ってると思います。
ナリタ:ありがたいですね。自分の感覚が伝わっているのは、嬉しいです。外向きっていうのもそうですけど、いまは「自分がこのステージに立ちたい」とかではなくて、「あなたにここの舞台でやってほしい」って言われるような作品やライヴをやっていくべきだと思っています。自分がちゃんと旗を持って先導していく気持ちをしっかりと示しながら、バンド・メンバーや、こうやって手伝ってくれている向さん、周りの恩がある人たちにしっかりと作品と結果で返していきたいです。

編集 : 西田健、石川幸穂
爽やかなバンド・サウンドと抒情的な弾き語りの最新シングル
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ライヴ情報
2024年9月9日(月) 渋谷 eggman (バンド・セット)
2024年9月25日(水) 下北沢 LIVE HOLIC (ソロ)
2024年10月27日(日) 渋谷 eggman (ソロ)
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PROFILE : ナリタジュンヤ

愛知出身のシンガー・ソングライター。1993年11月4日生まれ。
幼少期、イギリスのロック・バンド oasisが出演するテレビCM曲(Lyla)に衝撃を受け、後の音楽活動の原体験となる。
22歳、名古屋市のライヴ・ハウスを中心に社会人バンドでの活動を開始。同バンドの解散後に上京し、ストリート・ライヴを中心にソロ活動を始め、これまでに作曲した楽曲は150曲以上に及ぶ。
2020年9月にリリースしたセカンド・シングル「I'm in Love with You」が、ラジオ番組やウェブ・マガジンで特集が組まれ話題となる。2021年6月には、ファースト・アルバム『0630』を配信リリース。各ストリーミング・サービスにて多数の公式プレイリストに選曲される。2023年4月、季節ごとの忘れられない瞬間を書き留めたセカンド・アルバム『MEMORABLE』をリリース。 同月に自身初となるバンド形態でのワンマン・ライヴを成功させた。
自身のアーティスト活動の他にも、楽曲の提供やプロデュース、サポートなども行っている。
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