「もう音楽しかない」という覚悟
――上京してひとりで活動を始めた頃は、ストリート・ライヴをやっていたそうですね。バンドを組むつもりはなかったんですか。
ナリタ:そういう気持ちもあったんですけど、DTMで作ってみようと思って、友だちとふたりで曲を作ったんです。それを僕がお手伝いしていたレコーディング・スタジオでエンジニアをしていた向さんに相談してみたら、向さんもオアシスが好きで、道が開けたんです。今はライヴとかサウンドを俯瞰して見てもらったり、フィードバック的なものをいただいています。これはワンマンのときにも言ったことですけど、僕は向さんがいなかったら音楽を続けてなかったと思います。
――お話を聞いていると、いまに至るまでスムーズに理想の音楽活動が出来ていたわけではないですよね。でも諦めずに音楽を続けてきたのはどうしてですか?
ナリタ:さっきお話した、「外でやる音楽と家の中でやる音楽」みたいな話とちょっと近いです。18歳のときに工場で1年ぐらい働いていたんですけど、その先の将来を考えたときに、外に出てみたいと思って会社を辞めたんです。そこからいろんなアルバイトをして、地元の豊川市から名古屋に移って、バンド組みたかったけど組めなくて、結局地元に戻ってきて、なんだかんだでぬるっと再就職して、彼女ができて。「このままこうやって生きていくのかな」と思っていたときに、地元で唯一オアシスが好きな友だちに「バンドやってみようよ」って誘われて、それが音楽を再度始めるきっかけになりました。就職とか恋とかバンドとか全部やった中で、音楽だけはやめたくなかったんです。
――どうしても音楽で生きていきたかったから、やめたくなかった?
ナリタ:いや、やめたくなかったというより、「音楽しか残ってなかった」という方が正しいですね。僕はこれまでいろんな職種を経験してきて、町工場とかパチンコ屋とかテーマパークで働いたこともあるし、レストランとか営業マンもやったこともあるし、思いつく仕事を全部やったんです。その上でいま、音楽に勝負をかける生き方をしているというか、「もうこれしかない」っていう執着でやっている感じです。

――向さんは、ナリタさんに最初に会ったとき、「こういう音楽をやりたいんです」って相談をされたんですか?
向啓介(以下、向):彼が路上で弾き語りライヴをしていた時期に、「曲ができたので録ってもらえませんか」って言われたんです。それで一緒にやったのが、2019年ぐらいで、そこからアルバムにまとめてみようかっていうことで、もうちょっと本腰入れて一緒に作ろうという話になったんです。
ナリタ:ファースト・アルバムは、ほとんど一緒に作ってます。
向:ファーストは彼の弾き語りを軸にしてそこにドラムとかを足した感じで作りました。セカンドは、ベッドルーム・ミュージックっぽく、よりパーソナルな作品をナリタ君が目指していたので僕は一旦様子を見ていました。そのアルバムを経て、今回はバンド・サウンドを主軸にしたいということで、また手伝っています。
――今回のシングルの制作は、どんなところからスタートしたのでしょう。
ナリタ:1番最初は、向さんとヤノさんとワタナベさんと喫茶店に行って、「オアシスをひたすら聴いていた中学生の頃の自分に贈る作品を作りたい」っていう話をしたところからです。アルバム2枚を経た上でそこに回帰していくということを、僕が1時間ぐらい熱弁して、そこから“Hometown”と“Memories”のデモを聴いてもらって、この2曲に決まりました。サウンド的には“中学生ナリタ”が「うわ〜!」って衝撃を受けるような作品になってほしいというのがテーマです。
――“Hometown”は、これまでの曲と比べると、すごく音圧がある曲に感じました。バンド・メンバーとセッションして音を決めていったんですか。
ナリタ:最初にお話しした、地元の小屋でアンプをブン鳴らしてデモを作ったので、必然的に温度が高くて(笑)。それをバンド・メンバーと向さんに持っていって、いままでの音源と照らし合わせながらブラッシュアップしていきました。
――ファーストから関わっている向さんからすると、これまでとだいぶ違う音になったんじゃないですか。
向:いや、僕はそんなに違うと思ってないんですよ。ファーストの2曲目に“Just Drive”というオルタナっぽい曲があるんですけど、そのときに集めたメンバーが今回のベースになっているんです。
ナリタ:ああ、そうですね。
向:“Just Drive”の制作は結構大変だったんですよ。彼がひとりでやっていくうちにちょっと迷路に入っちゃって、しばらく制作を止めたことがあったんです。そのときに、試しにバンドでドーンと音を出してみたら、ひとりでは見えなかったものが出て割とすぐに答えが出たんですよ。今回もそのメンバーでやっているので、その延長線上というか、ファーストのときからあった要素ではありました。
ナリタ:これまで比率的に歪んだギターを使ってる曲が少なかったので、「こういう曲もやるよ」っていう感じです。
――ただ、小屋に籠って「うわー! 」って爆音を出している雰囲気はここに入ってますよね。
ナリタ:そう感じてもらえたら、それが正解だと思います(笑)。嬉しいですね、それが伝わって。