いろんな側面をみせた「秋冬三部作」

――これまで配信リリースされた5曲を聴くとそれぞれ印象も違いますし、模索しているというのはわかりますけど、岡田さんのルーツであるスカ、レゲエ、ダブが根底にあるバンドではありますよね。バンドを始めるにあたってどんな話をされたんですか。
岡田:僕が作詞作曲やったら、どうあがいても管楽器が入ったスカ・レゲエからは逃れられないんですけど、ど真ん中をやるつもりもないとは言っていて。いろんな人が良いと思えるポップスの流儀っていうのがあるじゃないですか?それができたらいいなみたいに思っていて、一瞬「西野カナみたいな曲を作ろう」とか言っていたんですけど(笑)。いろんなものをミックスしてできたらいいねっていうか。
――模索しているという意味では、これからメンバー間で何が出てくるかわからないみたいな面白さもあるのでは?
金澤:さっき、舞台のときは譜面で決められたことを弾いていたっていう話がありましたけど、じつはそのときもフレーズを持ってきてバンドで作る作業のときもあったし譜面で「この曲はこれでいきます」って渡されることもあったんです。なので、作り方で言えばじつはそこからずっと何も変わってないと思うんですよね。
岡田:僕の中では、歌ものを作るようになったっていう結構大きな変化はあるんです。劇伴って30秒のシーンがあったとしたら、タイムラインが0. 0秒から15秒、20秒、30秒とあって、ここで何が起こるか誰が何を喋ってるかっていう楽譜があって、それを頭に想像して組み立てるので、僕の中では視覚的な情報が楽譜になって音が決まって行くんです。ただ歌ものってやっぱり言葉をどう聴かせるか、頭の中で見えないけど、言葉をお客さんにどうヒットさせるかっていうのが僕の中での設計図になるので、そういう意味では作曲方法としては結構違いますね。
――ファースト・シングル “アウトサイド宇宙旅行”は、まさにクリエイターの頭の中にある宇宙のことを歌っているのかなと想像しました。
岡田:コロナ禍で家から出られずに部屋で悶々と曲を作ってるときに、楽しいことを想像しようと思って、思考の中で元々好きだったクラブやライヴハウスで音楽が流れているところとか、友だちと大阪の居酒屋に行ったりしていたんです。そういうことをやっていたら、(頭の中で)めっちゃ遠く、宇宙まで行っちゃって、「行くところまで行こう」と思ってこういう歌詞になりました。
マルシェ:そこまで家の中に閉じこもってたんやって思った。
岡田:言わなかったっけ?でも最近になって喋る量が増えたかもしれない。僕はずっと家で1人で誰にも会わずにできる仕事やったので、コロナ禍でますます人と喋らなくなって、この3年ぐらいで吃音ぎみになってしまったんです。歌詞の「くちびる固めて顔出すあいうえお」とか、最初の数行の歌詞は1人で部屋にいる情景を描いてます。
――今のお話を聞くと、アウトサイドというよりインサイド寄りですよね。
岡田:インサイドに潜っていけば潜っていくほど、気づいたら宇宙の外のことも見れたみたいな。言語化できへんからこんな歌詞なんですけど、潜れば潜るほどめっちゃ外を見てるみたいなことです。僕の中で、歌詞の技法っていうのが1つに定まってなくてこの曲は相当時間をかけて作った歌詞でした。
――サウンドとしては、スカを前面に打ち出そうと思ってこういうアレンジになったのでしょうか?
岡田:“アウトサイド宇宙旅行”のキックは4つ打ちなんですけど、舞台とはまた違うお仕事で、メンバーの何人かでこの曲の骨組みみたいな曲をやっていて、そのときはオーセンティックなスカから取ったリズムとか素朴なアレンジだったんです。ファースト・シングルとして出すにあたって、もっとダンサブルな感じにアレンジにした感じです。
マルシェ:僕はスカパラのドラマーの欣ちゃん(茂木欣一)も好きなので、そこをイメージしてちょっと寄せました。
金澤:僕は、“アウトサイド宇宙旅行”はもちろん、どの曲でも低音で押し出すっていう意識で演奏するようにはしているんです。今、どんなジャンルでも上手いベーシストが増えていますけど、“重たい人”はあんまりいないと思っていて。ベースにしか出せない低音があると思うし、太郎さんはすごく低音にこだわりがあるので、そこは自分のポジションなんで誰にも譲らないっていう意識でやっています。
――セカンド・シングル“あっついな”ではラップをしていますね。
岡田:コロナ禍で喋らないようになって声帯も弱ってきたのか、家でデモを作ったときに声が低くなっていたんですよ。ただ、喋りはしなくても本を読んだりとかは1人でずっとやってたので、口先だけはめっちゃ早くなってこうなりました(笑)。あとは、現在の音楽をはじめとする色んな表現に目を向けたときに、情報量がいっぱいあった方が今っぽくなるかなと思ってラップしてるっていうのはありますね。
――そして昨年10月~12月と3ヶ月連続リリース「秋冬三部作」を出して今に至るということですが、なぜ連続で出すことになったんですか?
岡田:僕はここ最近、ステージに立つより部屋でスピーカーから流れる完パケ音源を作ってきた人間なので、リリースするのが好きなんです(笑)。レコーディングもできる環境で、ミックスもマスタリングも今のところ自分でやっているので、「よし、出したろう!」ってリリースが続いていった感じです。いろんな側面を見せたいし、「こんな曲もありますよ」って出せたらなと思って頑張ってやってます。
――“Autumn reminds”はどんなときにできた曲ですか。
岡田:これは、京都でお仕事をいただいて、嵐山の渡月橋を渡りきったところの野外でライヴするっていう案件だったんですよ。それが11月やったんで、「絶対、月綺麗やん!」と思ってそこに合う曲を作ったのが最初です。シングル化するにあたって今思ってることとか歌詞も2バース目を丸々付け足したりしました。
金澤:僕らは曲ができるたびにその都度驚いているので、新曲の話が出たときは「何がくるのかな?」ってわくわくしてますね。
――“聴こえろファンファーレ!”はタイトル通り、元気をもらえる明るい応援歌ですね。
岡田:“聴こえろファンファーレ!”を作ったとき、管楽器のメロディーが最初にあって仮タイトルは“ファンファーレ”だったんです。そこから「ヤバい、歌詞書かな、何書こう」と思いつつアレンジも頭の中で想像して「聴こえてくれ、聴こえてくれ、聴こえろ」っていうところから、“聴こえろファンファーレ!”というタイトルになったんです(笑)。応援歌なんですけど、僕はまだ自分に自信がなくて、「バンドのボーカリストです」みたいなことが言えなくて、「どうせ俺なんか」みたいなところがちょっとあるんですよ。“Autumn reminds”もそうですし、 “聴こえろファンファーレ!”も自分で自分に言ってる感じがあるんですよね。なんかほんまに自分はうだつが上がらんなっていうか、こんなメンバーにも恵まれて良いバンドなのに「何やってんねん俺は」って。
――いやでも、これまでも劇伴で音楽を作って生きてきたわけですよね。そこは自信があるんじゃないですか?
マルシェ:僕らはそう思ってるんですけどね。バンドに関しては10年やってなくてブランクやからって言いがちで。
岡田:なんかちょっと、“よそ者”なんですよね。音楽業界でバンドのど真ん中に行きたくて今はやり始めたんですけど、10年間は舞台業界に音楽家としていたというか、「僕、あんまり音楽やってみたことないんで……」って。
マルシェ:それがよくわからん(笑)。
――なんでそんなに葛藤してるんですか(笑)。
岡田:う~ん、そういう性格なのかなあ。そんなグイグイ「俺の音楽はこうやから!」っていうよりは、よく言えばすごい柔らかく仕事をこなしてきた人間というか、オファーをいただいたら「ああ、わかりました!じゃあこうしますね」っていう感じなので。