音声さんや照明さんも含めて「1対全員」だと思ってライヴをしてる
──“繁茂“(はんも)はどんなときにできた曲ですか。
小林:“繁茂“って言葉いいなってずっと思ってたんですけど、ジャカジャカ弾く激しめな曲を作りたいタームと、ちょっとしっとりした曲を作りたいタームがあって。バラードは“花も咲かない束の間に“でやったし、普段やってるちょっとジャカジャカ弾く速い曲の歌詞の詰め込みをしつつバラードっぽい感じでいけないかなと思って作ってました。
──結果、ヒップホップ的な曲になってますね。韻踏みも意識して書いてますか。
小林:韻を踏むのは別に大したことではないんですけど、ちゃんと意味は通しつつガッツリ踏んでみるかっていう意識は多少ありました。
──シンリズムさんにアレンジをお願いしたのは?
小林:トラックを作れる人にお願いしたいなと思ってシンリズムさんにお願いしました。曲はいつも1回、ギター1本、声1本で作って僕の頭のなかで完成させちゃうんですけど、そこから先を想像できないから、人に頼みがいがあるみたいなところがあるんです。
──アレンジャーごとに曲の雰囲気が違いますよね。“四角“はトオミヨウさんがアレンジを担当しています。
小林:超売れっ子ですから、よく引き受けてくださったなと(笑)。
──この曲はアルバムのなかではちょっと異色じゃないですか?
小林:そうですね。サカナクションみたいなシンセが入っててめちゃくちゃおもしろかったです。“四角“は、コードををめっちゃ変えたり展開を作るようなことをしばらくしてた時期の曲なんですけど、自分のなかで弾き語りとして完成しすぎちゃっていたんです。だから特にぐちゃぐちゃにして欲しくて。弾き語りライヴでの強度が最近の曲ではいちばん強かったので、トオミさんがアレンジで思ってもいないことをいっぱいしてくれたのが嬉しかったです。
──4人のアレンジャーさんと制作した1枚が完成して、どんな手応えを感じてますか。
小林:結局、世に出さないとしょうがないなっていう気持ちがあるので、出てみないとわかんないっすね。YouTubeに曲を上げはじめたのも、みんなに見てもらえるところに置いとかないと良くないなっていう意識があったので。リリースしてみて、1曲もしくはアルバム1枚を通して、みんなと同じタイミングで聴きたいですね。
──ちなみにタイトル『象形に裁つ』って?
小林:僕のなかでハマっているというだけなんです。前作の『光を投げていた』もファースト・アルバムの『健康を患う』も、そういう概念にハマっていたから、というか。
──というのは?
小林:『WEBザテレビジョン』でやってる連載(小林私「私事ですが、」)に書いた「あぶない言語化」っていうエッセイがあって。ここには元々考えていたことを書いているんですね。例えば、個展のタイトル『掬い取る振る舞い』は、「結局作品の制作自体、なにかからなにかをトリミングしたりして持ってきたり、掬い取ったりしているよね」ということを前から思っていたからだったりとか。今回のアルバムのタイトルを『象形に裁つ』にしたのは、僕の中でいまハマっているワードが、「なにかを分割する」的な意味を持つ言葉だからで。ジャケットをパンにしたのも1個の大きい生地を分割して、固めて形にしてみたいなイメージなんです。
あぶない言語化:エッセイ/小林私「私事ですが、」

──自分のなかで分割していったものが8曲、それぞれ別の形になったんですね。それを、東京と大阪で3回予定されているワンマンライヴでどう聴かせますか?
小林:う~ん、果たして僕はこのなかの曲をライヴでやるのかという不安がありますけど。
──あ、アルバムを出したからといって、収録曲をやらなきゃいけないとは思ってない?
小林:そうですね。「レコ発だからアルバムの曲を入れないとね」って言われたら、「絶対入れてやるもんか」って思っちゃうから。
──と言ってますけども?
スタッフ:困りますね(苦笑)。
小林:だからなるべく言わない方がセトリに入りますので(笑)。僕は音声さんや照明さんも含めて「1対全員」だと思ってライヴをしてる節があって。だから本当セトリも出したくない。PAさんに「1曲目の後にMCを挟んで、2曲目はこの曲やるんだな」って思われながら、ライヴをやるのが恥ずかしいなと思って。
──でも「この曲は燃えるようなイメージだから真っ赤な照明にする」とかあるじゃないですか?
小林:だから、これがなかなか難しいんですよね。ひとりでやってると基本的には自分が想定する以上のことは絶対起きないんです。例えばライヴ中に急に犬が入ってきたら嬉しいですけど、そういうこともないし。なるべく当日起こりうるアクシデントの幅を増やしておきたいので、弦もなるべく張り替えずになんとかライヴ中に切れてくれと思いながら弾いても、1回も切れたことないんですよね。
──弦が切れたときの自分がどうなるかに興奮するわけですか。
小林:スムーズに行きたくないんです。「いますごく流れが悪いぞ」っていう淀んだ感じとか、自分の想定外のことが起きてくれないとやりがいがないというか。
──やっぱりアルバムリリースのワンマンライヴだったら、お客さんは当然聴けるものだと思って来ますよ。
小林:そうなんですけど、アルバムを出したんだから(ライヴでじゃなくて)アルバムを聴いたらいいよねって(笑)。ワンマンだし、逆に全然やってない曲とか、「この曲聴けるんだ」みたいなやつを聴かせた方がいいかなって思います。あと、自分が曲を作るペースと、アルバムとか音源をリリースするペースを比べると、もちろんアルバム、音源の方が後になるじゃないですか? その頃には僕がその曲に飽きはじめていて、もっと先の新曲にハマってたりしてるんですよね。
──この取材をしているのはアルバムリリースの1ヶ月前ですけど、ライヴはさらに1ヶ月先ですよね。もうどうなってるか予想できないです(笑)。
小林:その頃にはもうアルバムの曲をやりたくなくなっている可能性があるという(笑)。ただ、最新曲を生配信ですぐ披露しちゃうんで、そのときにできてる新曲はやるでしょうね。2ヶ月後なんで、間違いなく新曲はできてるでしょうし、それを歌いたいがためのワンマンになる可能性はありますね。
──バンド編成か弾き語りかは、決まってるんですか?
小林:今回も弾き語りです。
──アルバムのアレンジをライヴで再現しようとは思わないですか?
小林:1回やってみて、向いてないなと思ったんです。「俺たちでバンド組んでやっていくぞ」っていうグルーヴ感って、サポートの方々を呼んでやるのとは全然違うと思うんですよ。それと、弾き語りをずっとやってるので、どうしてもドラムの方や同機に合わせて弾くことができなくて。ライヴの雰囲気でここはちょっと遅くして次は速くしよう、ここは転調したいなとか、自分のテンポ感でやりたいんですけど、それができないので。バンドでやったライヴが失敗だったわけじゃないんですけど、終わった後にちょっと無理があったなって思っちゃったんですよね。
──アルバムとライヴは別物だと思った方が良い?
小林:そうですね、アルバムはいろんなアレンジャーさんが入ってくれた二次創作として、僕も楽しみたいと思います。ちょっとオタクすぎるかもしれないですけど(笑)。
編集:梶野有希
SAKURAmotiやトオミヨウなど多数のアレンジャーが参加!豪華なメジャーデビュー作
小林私『象形に裁つ』ディスクレビューはこちら
小林私の過去作はこちらから
ライヴ情報
小林私 ワンマンライブ〈分割・裁断・隔別する所作〉
日付:7月15日(土)
場所:大坂GORILLA HALL OSAKA
開場/開演: 17:00/18:00
日付:8月5日(土)
場所:東京I’M A SHOW
開場/開演:17:00/18:00
日付:8月27日(日)
場所:東京I’M A SHOW
開場/開演:17:00/18:00
PROFILE : 小林私
1999年1月18日生まれ、東京都あきる野市出身のシンガー・ソングライター。
多摩美術大学在学時に本格的に音楽活動を始め、自室での弾き語り動画をきっかけに注目を集める。YouTubeでのユニークな雑談配信も相まって人気を博し、現在チャンネル登録者は16万人を超える。2023年、キングレコードのHEROIC LINEから、メジャー第1弾となる3rdアルバムのリリースが決定。音楽のみならず、執筆・描画など多彩な才能を生かして活躍の場を広げている。
■公式Twitter:https://twitter.com/koba_watashi
■公式HP:https://kobayashiwatashi.com/