自分のアルバムぐらいの気持ちで自分勝手に聴いてもらえれば
──7曲目の“ない”から“あの⼦の歌声を聞いたとき” “夢を⾒るんだ”と続くあたりは、この中盤から後半にかけての転換になっているように聴こえました。僕はアルバムのなかで“ない”がいちばん好きです。
谷口:ああ、本当ですか、はじめて言われました(笑)。ありがとうございます。“ない”もリハでみんなで合わせながらイメージを共有して、尺だけしっかり体感で合わせて一発録りしたんです。
──なるほど、それでライヴ感が出てるんですね。
谷口:そうなんですよ。「せーの」で5テイクぐらい録ったときに、「こういう曲はこれ以上録っても意味ないから」って言われて(笑)。
──やればやるほどちゃんとしてしまうという(笑)。
谷口:そうそう(笑)。「これぐらいで良いと思うよ」って。
──歌詞も、そこまで突き詰めないようにしてるところが出てないですか。
谷口:突き詰めるとか、自己意識とか、勝手に想像する完成系が頭のなかで増えていくけど、それはいま実際にないものであってというのがスタートとしてありますね。「あるけど、“ない”」というか、頭のなかにあるけど実際には“ない”。不安とか他者への意識とか自分の悩みとか、実際にはあるけど触れないものだし、ただただ勝手に想像してしまって虚像がどんどん膨らんでいくという。でも、本当はそんなものないんだからっていうぐらい吹っ切れた曲です。
──“ない”では最後に〈たりない僕への愛が〉と歌ってますけど、仮にそれが満たされたとしても、その“愛”も実際には見えないですよね?
谷口:〈僕への愛が〉というのは、自分から自分への愛なのか、他者から自分への愛なのかってどちらもあると思うんですけど、ここで歌っているのは、自分から自分への愛が足りないから、ないものへの執着が増えていくという意味ですね。もう少し信頼してあげたらいいのにっていう。
──〈承認欲求もへらない 誰が僕をみてるの〉っていうのも、ないものを求めてもキリがないという。こうして考えると哲学的な曲ですよね。
谷口:そうですね。“ない”っていうはもともとあったものがないのか、もともと“ない”ものを悪くしているのか、“ない”という言葉のおもしろさというか。例えば更地を見て「更地がある」と思うのか、「なにかあったものがなくなったのか」って思うかで想像力も変わってくるじゃないですか?「ここになにができるのかな?」って想像してみたり。“ない”という言葉をどんどん考え続けたら最終的には“ある”になっていくんですよね。でも実際にあるのは、自分の体と目に見える物体なわけで。だったらとりあえず体を使って動いてみようぜみたいなところが、〈やるしかないあーそれしかない〉 というフレーズになっています。

──“ない”というワード1つですごく話が広がりますね(笑)。いま更地と言う言葉が出ましたけど、“モータープール” にも〈今⽬の前にあるものなんていずれ全てなくなっちゃうもんさ〉と刹那的というフレーズがあって、“ない”にも通じる部分を感じます。“モータープール”というのは大阪特有の駐車場を指す言葉らしいですね。
谷口:そうらしいですね。この曲はまだ大阪にいた頃で、人生で10曲も書いてない初期の初期に書いた曲なんです。そのときは“モータープール”という言葉を普通に使っていたんですけど、東京に来たら誰も使ってなかった(笑)。
──僕ははじめて聞きました(笑)。じゃあ、別に狙って付けたタイトルじゃないんですね。
谷口:そうじゃないんですよ。関西の人はみんな「あ、駐車場のことね」ってわかると思います。
──それだけ昔に書いた曲をここで収録したというのは相当お気に入りということですよね。
谷口:ライヴでやっても楽しい曲だし、バンドで録りたいなというのもあって好きな曲ですね。アルバムの後半に向けて楽しく盛り上がっていきたいなというのもあってレコーディングしました。
──スライドギターがすごくかっこいですね。
谷口:そうですね。遊君がスライドも得意でフレーズ作りも上手いので、そこは任せました。この曲がいちばん色々ギターを入れた曲です。
──UKロック的な雰囲気も意識してました?
谷口:俺的にはレイナード・スキナードの「テレテテーンテン~」(「スウィート・ホーム・アラバマ」)みたいなギターのフレーズをゆったりとしたグルーヴのなかで楽しくやるみたいなイメージもありました。ただUKロックも大好きで、ビートルズとかオアシスとかをずっと聴いてたし、遊君とかもそういう音楽が好きな人なので、どうしてもフレーズ作りとかにそういうエッセンスも入ってきますね。なおかつイメージはゆったりとしたグルーヴのものを作りたいと思ってました。「このグルーヴの中で楽しくやりましょう」ってみんなで作った感じです。
──“モータープール” の歌詞にある、〈あー僕は緑のピーマン〉ってどういう意味ですか。
谷口:自分はこうやなって勝手に決めつけるけど、そんなの10年経ったら変わっていくものだし、体の細胞って何日かしたら全部入れ替わってるっていう話もあるし。ピーマンって、いちばん嫌いやったけど好きになりやすいと思うんですよ。チンジャオロースばくばく食ってるみたいな(笑)。人間って誰しもピーマンみたいなもんで、変わりやすいもんやなって。
──アルバムは“モータープール”の後に2曲あって終わるわけですが、ここまでの11曲で吐き出した感情を、“Sparkle”と“Beauty”で浄化したような終わり方がすごく良かったです。このあたりはどう考えて曲順を決めたのでしょう?
谷口:まず、考えていたのは、いまの時代に13曲って結構長いなと。そう思ったときに、自分の好きなビートルズとかの作品のようにA面B面で考えようと思ったんです。A面6曲、B面6曲で、その繋ぎになる曲を“ない”にして、“あの⼦の歌声を聞いたとき”をB面1曲目にしようって考えました。
──ああ、なるほど。
谷口:とはいえ、1枚として聴いたときに最後は自分も救いを求めたいなと思ったんです。ひねくれたりとかカッコつけたりっていう表現をしてしまうときはあれども、素直に伝えたいという曲が最後に並べばいいかなって。A面は結構“キレカケ”とか“つまんねぇぞ俺”とか、自分のなかでもパキっとしたものが並んでいて、B面はさっきの話にもあったようにデモっぽい曲が並んでいるんですけど、最後の最後は救いがあるというか。みんなそれぞれ自分のために生きているけど、誰かに影響されていて、誰かに救われていて、というところを素直に感謝したいなという気持ちを最後の2曲に持ってきたんです。
──“Sparkle”は文字通り爽やかなサウンドのすごく素直な曲ですもんね。そして最後は長澤知之さんが作曲を手掛けた“Beauty”。語り掛けるようなピュアな曲ですね。
谷口:この曲は、1行目から書いているような、色んなことはあるけど〈本当はね優しいんだよ〉っていうようなことを最後まで書けたらなと思ってメッセージを書いたんです。1曲目から12曲目まで色んな主人公がいて、辛いとか悲しいとかっていう感情に引っ張られて邪悪なモードになる瞬間ってあると思うし、自分でも想像できないような行動を起こしてしまうことは生きてたらあると思うんです。その中でもその人が持っている美しさとか優しさを信じて曲にしましょうというイメージを言葉にしました。最初にメロディを聴いたときに俺が理解したものを長澤さんが尊重してくださって出来上がった曲です。
──それがアルバムタイトルの『Endless Beauty』にも繋がっているわけですね。
谷口:そうですね。人と人が会ったときに、「この人美しいな」と思う瞬間ってあると思うんですけど、それを見た人がまたその美しさによって自分の心のなかになにかが宿って行動を起こして、それをまた違う誰かが見て行動を起こしてそれがエンドレスに続いていくっていう。いま俺が考える“美しさ”はそういうものかなって。このアルバムがそういうものになったら嬉しいです。場所や時間を問わずに自分が好きなタイミングで聴けるアルバムだと思うので、みなさんが自分のアルバムぐらいの気持ちで自分勝手に聴いてもらえればと思います。

編集:梶野有希
6年ぶりのアルバムはこちらから
ディスコグラフィー
PROFILE : 谷口貴洋
ギター弾き語りシンガーソングライター。2013年4月24日大柴広己主宰のレーベル〈ZOOLOGICAL〉よりデビュー。1st Album『スケジュールとコイン』をリリース。2014年小山田壮平(AL)を中心として後藤大樹(AL)岡山健二(クラシクス)濱野伽耶(Gateballers)らと共にSparkling Recordsを設立。2015年Sparkling Records初の主催イベントを恵比寿リキッドルームでSOLD OUTで成功させる。2016年5月18日Sparkling Recordsより2ndAlbum『BABY』をリリース。2018年8月20日谷口貴洋主催イベント〈Sparkling Acoustic〉を渋谷La.mamaでSOLD OUTで成功させる。2018年8月21日配信限定シングル「つまんねぇぞ俺」を発売開始。SSW、FOREVER YONG、環七フェスティバル等のイベントに参加し、美しい旋律に実直な歌詞を乗せて悲哀、焦燥、憤怒、歓楽、様々な感情を表現している。
また、小山田壮平、⻑澤知之、大柴広己、関取花、石崎ひゅーい、橋詰遼(蜜)等、多数のシンガーソングライターからの支持も集めている。
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