「カッコ悪い言葉をどうやってカッコよくするか」というのをすごく意識してきた
──“比べてもしょうがない”というタイトルですが、いまだに自分と人を比べたり、人に嫉妬する感情ってあるんですか?
マハラージャン : 最近はなくなってきたと思いますけど、作った当初はありました。自分は何故こんなに上手くいかないんだろう、あいつだったら上手くいくのに、みたいな。そういうところからの着想もありますけど、この曲は例えば失恋があったとして、「もしああだったらこうだったら」みたいなことに思いを巡らせるイメージで作りました。
──“持たざる者”も同じメンバーですね。“ジェイソン村田”って誰ですか?
マハラージャン : 架空の人物です。ジェイソンなのか村田なのか、そこも決めていないですね。この曲で大事なのは一箇所だけで、〈持ってるって信じたら 世界が輝いた〉ということ。本当にいちばん大事なんじゃないかなと思うし、ここだけ伝わればいいなって。僕は踊らせるような音楽を作りたいというのが第一にあって、大事なことも少し言えればいいと思っているので、この曲はそういうシンプルな気持ちで作った曲ですね。
──サビのファルセットも印象的です。
マハラージャン : 3部作から、ヴォーカルを宅録じゃなくてレコーディングスタジオで録るようになったんです。それで歌い方も変わって新しい表現ができたと思います。メジャーデビュー作『セーラ☆ムン太郎』(2021) の頃って、まだ全部家で録ってたから、あんまり大きい声が出せなかったんですよ。
──ええ~⁉そうだったんですか。
マハラージャン : インディーズ時代に全部家で完結させていたというのもあって、メジャー・デビューしてからもその流れでやっていたんですけど、今回はスタジオで録ってみようということで。特に、“先に言って欲しかった”はめちゃくちゃデカい声を出さなきゃいけなかったので、これは絶対家じゃ無理だということで、そこからスタジオで録るようになりました。
──“先に言って欲しかった”はベースがハマ・オカモトさん、ギターはマハラージャンさん、ドラムは黒猫チェルシーの岡本啓佑さんが叩いてますね。
マハラージャン : 啓佑さんとは、この曲がはじめてでした。デモができた時点で、ハマさんに「こういう激しい曲をやりたいんです」と伝えたら、啓佑さんを勧めてくださったんです。
──おふたりとやってみてどうでした?
マハラージャン : すごく楽しかったです。まずドラムの音をどうするか決めてからどう録るかを考えたんですけど、ハマさんが「こういうジャンルは一発でやるのがいいんだ」って言ってくれて。それですごくデカい声で「お願いします!」って言ったら、うるさかったのか、ちょっと嫌な顔をされた気がするんですけど(笑)。その怒りがこもったのか、めちゃくちゃ良い演奏をしていただきました。啓佑さんには、「とにかくぶっ叩いてほしい」というお願いをしたので、シンプルにやってくれたみたいです。後日、啓佑さんが「久しぶりにこういう演奏をしてすごく楽しかった」って言ってくれて、僕もそれがすごく嬉しかったです。
──ハマさんは“エルトン万次郎”でもベースを弾いていますね。
マハラージャン : これは最初に曲の感じができていて。なんていう曲にしようか考えたときに、タイトルの一覧を見て「これは“エルトン万次郎”なんじゃないか?」と思って、そこから歌詞を書きました。
──タイトルから2人のジョンが浮かび上がってくるという高等テクニックが秀逸です。
マハラージャン : ありがとうございます(笑)。これはイマジンが大事だということで、あんまりタネ明かししたくないんですけど。わかる人にはわかるというか。エルトンと万次郎の間になにかが隠れているんですけど、それはイマジンしないと出てこないというシステムになっているので、そこにまず気付いて欲しいです(笑)。歌詞にもイマジンを出してますので。ジョン・レノンの「イマジン」って、これ以上の曲はないんじゃないかっていうぐらい、良い曲だと思うんです。それは越えられないものの、自分なりのそれを忍ばせて想起させたいという思いがありました。

──メロディとアレンジはどうやってできたんですか?
マハラージャン : 「エルトン万次郎」の前に、もともと倍のテンポのすごく速い曲を作っていて。そこからベースラインのテンポを落としてみたり、ドラムは速いテンポのときのフレーズを入れてみたりして、試行錯誤しているうちにでてきたグルーヴがすごくカッコよかったので、今回曲にしました。
──アレンジは常日頃研究している?
マハラージャン : そうですね。よく「アレンジも自分でやってるよね」って言ってもらえるんですけど、むしろそういうことさえ意識していないんです。アレンジをすることが曲づくりだと思っていたので。歌詞について「カッコ悪い言葉をどうやってカッコよくするか」というのをすごく意識してきたところがあるので、音楽がカッコよくないと意味がないというか。その辺はすごく頑張ってます。
──“その気にさせないで”は、菰口雄矢さん(Gt)、神田リョウさん(Dr)、山本連(Ba)、皆川さんがレコーディングに参加されていますが、これはどういう流れで生まれたバンドなのでしょうか。
マハラージャン : 全員もともと面識はありました。神田さんはClubhouse(音声SNSアプリ)で知り合ったんですけど、喋りがすごくおもしろいし、感じの良い人だなと思っていて。SNSをみたらドラムもすごく上手だったので、いつかお願いしたいと思っていました。山本連さんは、小川翔さんがやっているLAGHEADS(ラグヘッズ)というバンドを通して知り合って、オファーさせてもらいました。発想豊かにベースをバリバリ弾ける人だなと思っていたんですけど、実際に相性もすごく良かったです。菰口さんはライヴもそうですし、「THE FIRST TAKE」「シブヤノオト」でもお世話になっている、信頼しているギタリストのひとりで、今回レコーディングもお願いしました。(菰口さんは)引き出しが多いから、シンプルだけど豊かな曲になったと思います。“その気にさせないで”は、数年前に作った曲で、もともとはシンセが入った打ち込みの曲だったんですけど、いまの自分だったらどんなアレンジをするんだろうということで、バンドっぽく、音もシンプルにして作ってみました。
──今回のアルバムはジャズ、フュージョン、ファンクという志向があるのかなと思って聴いていたので、この曲は逆にちょっと異色な感じを受けました。
マハラージャン : ジャンルは全然こだわっていないので、むしろこういうすごくポップなものも作りたいと思っていました。あえて、シンセも使わずにシンプルな曲を置いておきたいというか。僕自身が、同じジャンルを聴くと飽きてしまうところもあるので。
──その結果、ファースト・アルバムとはだいぶ違った作品になってますよね。
マハラージャン : そうですね。参加しているプレーヤーも増えているし、みんなそれぞれ違う才能を持った人たちなので、すごく彩り豊かなアルバムになったと思います。