丁寧に作品を創り続けることがいちばんの存在証明
I love you Orchestra Swing Style(以下、ILYOSS)について

──ILYOSSの4枚目のアルバム『Fantastic Daybreak』はKAGEROとはまったく異なるすごくポップな作品です。今回、サブスクでの参考資料(※アーティストのみが見れるデータ)を見せてもらったところ、日本以外でも台湾やインドネシア、シンガポール、アメリカといった国で聴かれていることがわかって、非常におもしろいですね。こういう反響を意識しだしたのって、ILYOSSの作品を配信リリースするようになってからなんですか?
白水 : やっぱり、「Night Distance feat. mahina」(2019年4月5日配信リリース)からでしょうね。
──この曲以降、ヴォーカル曲が特別なことではなくなっていて、今回はアジア各国のアーティスト3組とコラボしたヴォーカル曲が入っています。ILYOSSの元になっているilyoをはじめたときには、こんなことは想定していなかったのでは?
白水 : そうね、まぁilyoってチームはいつも想定していない道に進んでばっかだからね(笑)。“Night Distance feat. mahina”でしっかり数字が出たことは当たり前にすごく嬉しくて。その流れで“Cinnamon feat. Tamuraryo & なみちえ“を創って、その後が“Swan feat. dosii”か。“Swan”がアジアのプレイリストに沢山入ってくれて、またしっかり数字が出てね。チームとしては自然な流れで、「よっしゃ、アジアを攻めるべ!」ってことで、タイ、シンガポール、ベトナムのアーティストにオファーして発展させていった感じだね。
──「リスナーの年齢」を見ると、23歳~34歳ぐらいに集中しています。
白水 : 幅広いけど、やっぱり20代の方々が聴いてくれてますよね。こういうのってすごくおもしろいよね。10年くらい前の自分だったら、「サブスクなんて知るかよ」っていうスタイルだったかもしれないだけに(笑)。けど時代ってのには抗えないからさ、その時代を超気にするか、全っ然気にしないかの、そのどっちかの状態が心地良くて。それを、KAGEROとILYOSSで振り切ってる捉えてる感じですね。いまのKAGEROは一切気にしないし、ILYOSSは僕とジムくん(中平“JIM”智也(G))のセンスと、時代との落とし所を創り続けている感覚ですね。
──パートナーとしてJIMさんの存在はきっと大きいですよね。
白水 : 当たり前にめっちゃデカいです。とくにこの体制(白水、JIMの2人を中心に制作)になってから、うん、彼の才能にすごくフィットする音楽が創れている気がします。
──『Fantastic Daybreak』のジャケット、カラフルな感じは時代の陰鬱なムードからの反動を感じます。
白水 : そうだねー、やっぱりそれはどうしても出ちゃうよね。 “夜明け“って感覚は、希望として込めたいなって。あとはもう、いまの若い子達世代がデジタルを介してナチュラルに接してるチルな音楽を、「こういうのも全然イケてるよね」っていうさ、ライブハウスの僕ら界隈へのシェアの感覚というか。インディーズの、ロックの界隈とは違うステージの音楽だけど、そういうもののなかにも、クールなものってまだまだあるよねって。
──“ポップス“って、敢えてひとくくりにして言ってしまうけど、こういう音楽ってもともとの白水さんのルーツにはあったものなのかな?
白水 : どうだろね、ポップスって音楽を能動的に接したことはあんまなかったけど、でも当たり前に馴染んでいるものだしね。聴いたことないって人はいないもんね。ダサいポップスもいっぱいあるし、ダサいパンクもいっぱいあるから、クールなポップスとかクールなパンクを創りたいですよね(笑)。
──それは、KAGEROで使ってる脳みそとは全然違う?
白水 : うーん、でもどっちも音楽ですからね。アートとデザイン、っていう大きな違いはあって、だからめっちゃ違うとも言えるし、そこまで全然違うわけでもない、とも言えるかなぁ。ただ、KAGEROのアートに集中するために、ILYOSSで結果とか数字を出したかったってのは確実にありますね。
──そういう結果とか数字って、大きなレーベルに所属していたときは求められたりしていたんですか。
白水 : いや、レーベルの人間から僕自身が直接なんか具体的に求められるってことはなかったですね。どっちかって言うと、自分自身の問題っていうか、あれもこれもになって、そのプロジェクトに対してブレたくなくて。僕の中で、常にKAGEROと、もう1つのプロジェクトとでバランスを取ってるんですよね。それがilyoだったときは、好き勝手やるilyoと、ブランディングもあって超クールなKAGERO、みたいなバランス。今はilyoの存在がILYOSSになって、しっかり数字を出してくれるから、じゃあKAGEROはめっちゃ好きなように没頭しますってモードですね。
──ILYOSSとKAGEROでは海外の聴かれている国も全然違って、KAGEROのリスナーが最も多い国がアメリカ、ILYOSSは日本が1位で次が台湾ということで全然違うんですよね。
白水 : KAGEROがアメリカで聴かれてるのは嬉しいよねぇ。ILYOSSのアジア圏はちょっと凄すぎて正直あんま実感ないレベルですね(笑)。安っぽい言葉だけど、「音楽は国境を越える」って本当なんだねぇって(笑)。
──こういう結果もモチベーションになっている?
白水 : そうねぇ。ただ、もともと、有名人になりたくて音楽を生業にしているわけじゃなくて、好きな音楽を創って好きなようにリリースして、それだけで生きていけるなら最高だ、って感覚なので。だからまぁいまはすごく心地は良いよね。けど、同じ環境に慣れてくると自分自身が飽きてきちゃうからね。KAGEROは6月9日にREBUILDの配信が全部終わったら、アルバム毎に1枚ずつCDにして、んで6枚組のBOX盤もリリースしようと思ってて、その辺りが全部終わる頃に『KAGERO VII』のアナウンスができればいいなって思ってます。ILYOSSはもう次のアルバムの制作に入ってるので、下半期も変わらずガンガンですね。
──その先のライヴはどう考えてます?
白水 : そうだねー、地方にも海外にも勿論行きたくて、でも例えばいま遠征して、前より楽しくできるかなぁ?って感覚なのは正直なとこです。前より楽しめないことはしたくないかなぁ、って感じ。いましかできない楽しみがあって、けどまぁその辺は自分の価値観もまた日々色んな要素でアップデートされていくと思うので。ライヴに関しては凄くいろんなバランスを考えて決断していこうと思ってます。感染対策とか含めた安心感の面でNEPOでやるのはすごく心地良いし、けどまぁKAGEROはもうちょっと広いところでやりたいかな(笑)。フロアっていうより、ステージがちょい狭くてぶつかっちゃうからね、もうちょい気兼ねなく飛べるとこでやりたいかな(笑)。
──KAGERO主催フェスはまだ考えてない?
白水 : 〈FUZZ’Em All〉ね。そうだねー、もしああいうワイワイしてナンボのイベントが前時代的なんだとしたら、それを追う事にはいまはあんまり興味はないかなぁ。その自分の価値観自体もこの先どんどん変わっていって、だからまぁいまの時点では「やりたくなったら…」としか言えなくて。それよりも、いましか出来ない、いまだから出来ることをめっちゃやりたくて、だからいまの自分にとっては、やっぱり丁寧に作品を創り続けることがいちばんの存在証明なのかもしれないですね。
編集:梶野有希
KAGEROのREBUILD版、1日1曲ずつ配信中!
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PROFILE : KAGERO
ジャズカルテット編成の想像を覆す攻撃的な轟音とパンクスピリット溢れるライブパフォーマンスを武器に、国内の数多のフェスやサーキットで話題沸騰。 ジャズ、パンク、ハードコアシーンを股にかける異端児として全国、そして海外より注目が集まる。 これまでに5枚のオリジナルアルバムを発表。ベスト盤のリード曲「Pyro Hippo Ride」はiTunesジャズチャート1位を獲得。二度のアメリカツアー、アジアツアーを成功に収め、2022年4月1日より過去6作のオリジナル・アルバム全70曲を全て再構築・再録音した「KAGERO REBUILD」を70日連続リリースを開始する。
■公式Twitter:https://twitter.com/kagero_official
■公式HP:http://www.kagero.jp/
PROFILE : I love you Orchestra Swing Style
KAGERO白水悠のサイドバンドとして2014年に結成された6人組ケミカルプログレバンド「I love you Orchestra」がスウィングビートに特化した形態を追求するため、4人組のSwing Styleへ進化。2019年にリリースした『Night Distance feat. mahina』が記録的なロングヒットとなり、以後国内海外の優れたシンガー達とのコラボ作を発表。ボーカル作、インスト作共にApple Music、Spotify等のビッグ・プレイリストを席巻する。
■公式Twitter:https://twitter.com/ilyo_official
■公式HP:http://kagero.jp/ilyoss/